酒類販売業免許│お酒を売るときに必要な資格や手続きとは

一般的には物販の一形態として、手軽に参入できる事業であるかのように思われがちな酒類販売業ですが、お酒には「酒税」という税金が課されます。税金という国の重要政策に関わることですから、誰でも自由にお酒を販売することは認められていません。
本稿では、酒類を販売しようとする際に必要となる免許や手続きについてご案内しています。
目 次
酒類販売業とは
酒類とは、常温時(温度15度)100mlのうちに1ml以上のエチルアルコールを含む液体のことを指し、酒類販売業とは、自ら酒類を販売する事業のほか、代理業及び媒介業までを含めた事業形態を指します。
酒類提供飲食店との違い
飲食店でお酒を提供するのと何が違うの?
飲食店も酒類販売業も酒類を提供する営業形態であるという点において違いはありません。ここで重要なことは酒類の提供形態の違いであり、具体的には「お酒の容器を開栓して提供するか未開栓のままで提供するか」によって取扱いが異なります。
飲食店では樽やボトルの栓を抜いてお酒を提供しています。また、料理にもみりんや料理酒を使用するのが通常です。つまり、あくまでも飲食物若しくはその一部としてお酒を提供する業種が「飲食店」であり、これは「飲食店営業許可」の範囲内で有効に行うことができます。
したがって、飲食店が在庫のビールを開栓せず瓶ごと販売する際には酒類販売業免許が必要となりますし、酒類販売店において飲食を提供しようとする場合には飲食店営業許可が必要となります。なお、いずれの場合にも、他の製造場や販売店、飲食スペースとは明確に区画割りすることが求められています。
酒類の流通構造
酒類製造者とは、「酒類製造免許」を受けて実際に酒類を製造するメーカーです。
酒類卸業者とは、「酒類卸売業免許」を受け、酒類製造者から酒類を仕入れて各酒販店に販売(卸売)している中間業者です。
酒販店は、「酒類小売業免許」を受けて飲食店や一般消費者といったエンドユーザーに酒類を販売する町の酒屋さんやコンビニ、スーパー、通販ショップなどです。
これらをまとめると以下のような流通構造が見えてきます。
酒類製造者(メーカー)
↓
酒類卸業者(問屋)
↓
酒販店(酒屋・コンビニ・スーパー・通販)
↓
飲食店・一般消費者
酒類販売業免許
酒類については、流通上の役割に応じて明確に業種が分かれており、各業種ごとにそれぞれ異なる免許を受ける必要があります。以下の区分は酒類販売業(酒販)における免許区分ですが、酒類製造業免許については別稿にて紹介させていただきたいと思います。
酒類販売業免許の種別
卸売業免許 | 酒類販売業者や酒類製造者に対する販売 |
小売業免許 | 飲食店・一般消費者に対する販売 |

卸売業免許
区分 | 内容 |
---|---|
全酒類卸売業免許 | すべての酒類が卸売可能 |
ビール卸売業免許 | ビールを卸売する免許 |
洋酒卸売業免許 | ワイン、ウイスキー、スピリッツ、発泡酒、リキュールなどを卸売する免 |
輸出入卸売業免許 | 自社輸出入の酒類を卸売する免許 |
店頭販売酒類卸売業免許 | 自己の会員である酒類販売業者に対し、店頭で直接引き渡す方法による卸売をする免許 |
協同組合員間酒類卸売業免許 | 加入している事業協同組合の他の組合員を対象に酒類を卸売する免許 |
自己商標卸売業免許 | オリジナルブランド(自社が開発した 商標や銘柄)の酒類を卸売する免許 |
特殊酒類卸売業免許 | 酒類事業者の特別な必要に応ずるための卸売免許 |
小売業免許
区分 | 内容 |
---|---|
一般酒類小売業免許 | 有店舗・無店舗とも全酒類の小売りが可能 |
通信販売酒類小売業免許 | インターネット、チラシ、カタログによる通信販売 輸入酒は販売無制限 国産酒は大手の酒類は取扱い不可 (3,000kl制限) |
特殊酒類小売業免許 | 酒類の消費者等の特別の必要に応ずるための免許 |
酒類販売業免許の要件
申請すれば誰でも彼でも免許を取得できるわけではありません。免許を取得するためには、以下4つの要件をすべてクリアする必要があります。
- 人的要件
- 場所的要件
- 経営基礎要件
- 需給調整要件
人的要件
酒税という税金に関わることですから、酒類販売業の免許を受けようとする者には、ある程度の信頼性が求められます。早い話しが「犯罪や不正を行う可能性がある人には免許を与えませんよ」ということです。具体的には、以下のような事由(欠格事由)に1つでも該当する場合には、免許を取得することはできません。
1.免許を取り消され、又は許可を取り消された日から3年を経過するまでの者
2.酒類販売業者である法人が免許を取り消された場合又は許可を取り消された場合において、それぞれ、その取消しの原因となった事実があった日以前1年内に当該法人の業務を執行する役員であつた者で当該法人がその取消処分を受けた日から3年を経過するまでのもの
3.営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人が1・2・7・8に該当する者である場合
4.法人の役員のうちに1・2・7・8に該当する者がある場合
5.1・2・7・8に該当する者を販売場に係る支配人としようとする場合
6.申請前2年内において国税又は地方税の滞納処分を受けた者である場合
7.免許の申請者が国税若しくは地方税に関する法令、酒類業組合法、アルコール事業法の規定により罰金の刑に処せられ、又は国税通則法、関税法、地方税法の規定により通告処分を受け、それぞれ、その刑の執行を終わり、若しくは執行を受けることがなくなった日又はその通告の旨を履行した日から3年を経過するまでの者である場合
8.未成年者飲酒禁止法、風営法、暴力団対策法の規定により、又は刑法上の一定の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者である場合
9.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わった日又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者
10.正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとする場合
11.破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合
12.酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合
場所的要件
税区分を明確にするため、酒類の販売場についても、次の要件をみたす必要があります。
- 他の製造場や販売店、飲食店と同一の場所ではないこと
- 売り場が区画割り、代金決済の独立性、他営業主体との区分が明確であること
要するに、酒類販売業としての「独立性」がしっかり確保されていることが求められます。以下で注意すべき点についても確認していくことにしましょう。
物件の所有者
販売場の物件が自己所有であるか他人所有(賃貸)であるかは問われません。ただし、賃貸物件である場合には賃貸契約書の写しのほか、賃貸人の使用承諾書も求められます。また、管理規約が定められたマンションの一室を販売所としようとする際には、例え自己所有のマンションであっても、住民や管理組合の承諾を求められる場合があります。
レンタルオフィス・バーチャルオフィス
明確に壁で区分されている専用のスペースで独立性が保たれていれば販売場と認められることがありますが、オープンスペースや誰でも利用できるフリースペースは販売場としては認められません。また、オフィスとしての実態がない住所のみを登記するバーチャルオフィスの場合も販売場としては認められません。
経営基礎要件
経営状況が安定しない事業者からは酒税を徴収することができなくなるおそれがあります。過去に税金を滞納しているような事実があれば尚更です。したがって、一定の経営基礎を持たない申請者には免許は与えられません。求められる要件はおおむね次の3つです。
- 資産状況
- 経験(経歴および知識)
- 資金、設備
資産状況等
次の各項目に「該当しない」ことが必要です。
- 現に国税又は地方税を滞納している場合
- 申請前1年以内に銀行取引停止処分を受けている場合
- 最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っている場合
- 最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合
- 酒税法等の関係法令に違反し、通告処分を受け、履行していない場合又は告発されている場合
- 販売場の申請場所への設置が、建築基準法、都市計画法、農地法、流通業務市街地の整備に関する法律その他の法令又は地方自治体の条例の規定に違反しており、店舗の除却又は移転を命じられている場合
- 申請酒類小売販売場において、酒類の適正な販売管理体制が構築されないことが明らかであると見込まれる場合
税金の滞納処分や銀行取引停止処分に関してはイメージできるものと思います。「資本」がどうのこうの言われ始めると、会計知識がないと複雑に感じてしまう方もいらっしゃいますので少し解説を加えます。
資本等の額とは、資本金、資本剰余金及び利益剰余金の合計額から繰越利益剰余金を控除した額をいいます。ざっくりというと、会社が保有する財産のことです。
資本金500万円の会社の例
最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が500万円を上回っている場合
この場合、3.の「最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っている場合」に該当するのでアウトです。
3期連続で100万円を超える赤字が出ている場合
この場合、4.の「最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合」に該当するのでアウトです。
決算書の貸借対照表に資本の額や繰越損失が記載されているので必ず確認するようにしましょう!
経験要件
次の項目に「該当する」ことが必要です。
経験その他から判断し、適正に酒類の小売業を経営するに十分な知識及び能力を有すると認められる者又はこれらの者が主体となって組織する法人であること
必要な経歴
申請者(法人の場合はその役員)及び販売場の支配人に求められる経歴は次のようなものです。
- 免許を受けている酒類製造業若しくは販売業(薬用酒だけの販売業を除く)の業務に引き続き3年以上直接従事した者
- 調味食品等の販売業を3年以上継続して営業している者
- 上記の業務に従事した期間が相互に通算して3年以上である者
- 酒類業団体の役職員として相当期間継続して勤務した者又は酒類の製造業若しくは販売業の経営者として直接業務に従事した者等で酒類に関する事業及び酒類業界の実情に十分精通していると認められる者
酒類販売管理研修
上記の経歴を有する人は多くはありません。これらの従事経験や経営経験がない場合には、その他の業での経営経験に加えて「酒類販売管理研修」の受講の有無等から、酒類の小売業を経営するに十分な知識及び能力が備わっているかどうかを審査することになります。
あえて酒類販売業に必要な資格を答えるとすると、こちらが該当します。どの道免許取得後は販売場ごとに「酒類販売管理者」を選任する必要がありますので、早い段階での受講を検討しましょう。
資金設備要件
次の項目に「該当する」ことが必要です。
酒類を継続的に販売するために必要な資金、販売施設及び設備を有していること、又は必要な資金を有し免許を付与するまでに販売施設及び設備を有することが確実と認められること
事業には運転資金が必要です。どのくらいの資金が必要であるかといえば、当然ながら事業規模によります。酒類販売にはそういった点を含めた事業計画が求められています。少なくとも仕入れ値と売値はご自身でしっかりと把握するようにしましょう。
受給調整要件(製造量)
一般層からすると少しユニークな規制ですが、通信販売小売業免許の場合、取り扱う国産酒は年間生産量が3,000㎘未満でなければならないという制限があります。したがって、通信販売小売業免許で国産酒を扱う際には生産者による生産量の証明書が必要となります。
これはつまり、国産酒についてはそもそも生産量の多いAビールやKビールだけでなく、生産量の少ない地ビールや国産ワインにもスポットを当てて需要の均衡を図りましょうよ、という措置です。
ちなみに輸入酒にはこのような制限はなく、一般酒類小売業免許の場合はそもそも全酒類を取り扱うことが可能です。
酒類販売業免許申請の手続き
申請先
開業予定地を管轄する税務署に対して申請を行います。例えば尼崎市で開業する場合は尼崎税務署に対して申請を行います。
酒類指導官(酒税官)
申請や審査、相談を担当する専門の行政官です。実はすべての税務署に常駐しているわけではなく、地域担当の複数の所轄税務署を取りまとめている税務署に常駐しています。例えば尼崎市で開業しようとする場合の申請先は尼崎税務署ですが、担当の酒税官はお隣りの西宮税務署に常駐しています。(私も以前はじめて酒類販売を扱った際には面食らいました。)
事前協議
酒類販売免許を取得する上で避けては通れないのが「酒税官との事前協議」です。手続きとして必要というよりも、事前に相談に訪れるという感覚です。どこの酒税官も(恐らく)丁寧に案内してくれるはずなので、安心して出向きましょう。
この手続きを省いていきなり申請を行うと、書類上の不備を指摘されて補正を命じられる可能性も高まり、結果として事業開始が遅れてしまいますので、面倒ですが必ず手続きを踏むようにしてください。簡単な計画書を持参すると協議もスムーズに進みます。
手数料
1申請につき30,000円×販売場の数の登録免許税が必要です。「1申請につき」なので、一般酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を同時に申請した場合、申請を2回に分けるより1回で申請した方が30,000円ほどお安くなります。
なお、登録免許税は申請時ではなく、免許交付時に支払いますので、免許が下りなかった場合は支払いも免れることになります。これは他の許認可申請ではあまりお目にかかることがない取扱です。
標準処理期間
標準処理期間とは、行政官庁が定めた免許審査に必要となる日数のことです。この期間はおおむね2か月前後です。当然ながらこの期間内に酒類販売を行うことはできません。
この後税務署から指定された免許交付日に登録免許税を持参し、合わせて「登録免許税の領収証書提出書」と「酒類販売管理者選任(解任)届出書」を提出します。
免許の有効期間
酒類販売業免許には更新期限がありません。したがって、更新手続を行う必要はありません。
必要となる書類
酒類販売業許可申請の際には、おおむね以下の書類が必要となります。申請書は正本及び副本を各1通ずつ作成します。
書類 | 内容 | 個人 | 法人 |
---|---|---|---|
免許申請書 | (後述) | ○ | ○ |
履歴書 | 個人の場合は申請者 法人の場合は役員 | ○ | ○ |
定款の写し | 事業目的の中に「酒類販売」の文言が入っていることが必要 | × | ○ |
登記事項証明書 | 事業目的の中に「酒類販売」の文言が入っていることが必要 全国の法務局又はオンラインで取得 | × | ○ |
賃貸借契約書の写し又はこれにかわる書類 | 販売場が賃貸である場合 | ○ | ○ |
地方税の納税証明書 | ①未納の税額がない旨 ②2年以内に滞納処分を受けたことがない旨 両方の証明がされた納税証明書 | ○ | ○ |
貸借対照表及び損益計算書又はこれに準ずる書類 | 収支計算書等 | 最終事業年度以前3事業年度分の貸借対照表及び損益計算書 |
申請書には、以下の内容を記載します。
- 申請者の住所及び氏名または名称
- 販売場の所在地及び名称
- 販売しようとする酒類の品目、範囲及びその販売方法
- 博覧会場、即売会場その他これらに類する場所で臨時に販売場を設けて酒類の販売業をしようとする場合は、その旨及び販売業をしようとする期間
- 販売場の敷地の状況及び建物の構造を示す図面
- 事業の概要
- 収支の見込み所要資金の額及び調達方法
- 酒類の販売管理に関する事項
まとめ
一見してお手軽な事業であるかのように錯覚されがちな酒販業界ですが、意外に高いハードルが存在することに面食らった方も多いのではないかと思います。申請書の様式も少し特殊で、慣れていなければ行政書士であっても、少々頭を悩ませる書類であることも付け加えておきます。
申請書内では、事業計画についてもこと細かく申告することが求められています。いずれにせよ、しっかりとした計画を策定することが重要です。本稿が酒類販売業免許の取得を目指す方の道しるべとなったのであればお酒好き行政書士の冥利に尽きます。
さて、説明したように事前協議や書類作成にはかなりの手間暇を費やします。不備があり補正を命じられると税務署への往復も増え、心身ともに削られます。
お酒はお酒の専門家、手続きは手続きの専門家で分業しませんか?
弊所では酒類販売業免許取得を丸ごとサポートさせていただいています。開業の際はぜひ一度お気軽にご相談ください^^
酒類販売業免許申請 | 99,000円~ |
移転申請 | 77,000円〜 |
変更届・廃業届 | 22,000円〜 |
酒類販売業免許や開業の際のご相談はお気軽に♬
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