酒類卸売業免許│お酒を卸売する際に必要となる手続きについて

お酒には、その流通段階で「酒税」という国の重要政策が関わってくることから、国がその流通を把握し、酒税の適正な徴収に資することを目的として、酒類販売業については免許制が採用されています。
特に酒類卸売業については、納税義務者である酒類製造者から直接的に酒類を仕入れるという、流通の中核を担う立場にあることから、小売業に対するものよりも、一段厳しい規制が設けられています。
そこで本稿では、これから酒類卸売業への参入を目指す皆さまに向けて、酒類卸売業免許に関する基礎知識や手続方法について、詳しく解説していきたいと思います。
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酒類卸売業

日本国内における酒類の流通は、卸(おろし)や問屋(とんや)と呼ばれる卸売業者を中間に置く伝統的な構造から成り立っていますが、ここで言う卸売業とは、商品の流通過程において生産者と小売店とを橋渡しする立場で販売活動を行う営業形態を指します。
同じく酒類販売業であっても、エンドユーザーである消費者や飲食店等に対して酒類を販売するのではなく、卸売業者や小売業者に対して販売するという点で酒類小売販売業とは異なります。

酒類卸売業免許
酒類卸売業免許は、酒類販売業者又は酒類製造業者に対してお酒を販売するための免許区分ですが、酒類卸売業免許は、さらに下表の8つの区分に細分化されており、酒類卸売業を営もうとする際は、それぞれの営業形態に応じた免許が必要となります。
全酒類卸売業免許 | すべての酒類を卸売するための免許 |
ビール卸売業免許 | ビールを卸売する免許 |
洋酒卸売業免許 | ワイン、ウイスキー、スピリッツ、発泡酒、リキュールなどを卸売する免許 |
---|---|
輸出入卸売業免許 | 自社輸出入の酒類を卸売する免許 |
店頭販売酒類卸売業免許 | 自己の会員である酒類販売業者に対し、店頭で直接引き渡す方法による卸売をする免許 |
協同組合員間酒類卸売業免許 | 加入している事業協同組合の他の組合員を対象に酒類を卸売する免許 |
自己商標卸売業免許 | オリジナルブランド(自社が開発した商標や銘柄)の酒類を卸売する免許 |
特殊酒類卸売業免許 | 酒類事業者の特別な必要に応ずるための卸売免許 |
全酒類卸売業免許
清酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキー、ブランデー又は発泡酒等、その種類や銘柄を問わず、原則として全ての品目のお酒を卸売することができる免許が全酒類卸売業免許です。
取り扱うことのできる種類に制限が無いため、事業開始前には誰もが検討する免許区分ではありますが、残念ながら、そう簡単に取得することができる免許ではありません。
全酒類卸売業免許には、毎年度「卸売販売地域」ごとに「免許可能件数」という上限枠が決まっており、免許付与件数が免許可能件数に到達した時点で、その免許年度の免許の付与は終了となってしまいます。
また、免許要件の中には、年間卸売数量が100㎘以上でなければならないというノルマのような基準も設けられており、制度的な厳しさから、酒類卸売業免許の中でも最も取得ハードルの高い免許区分となっています。
免許可能件数は、毎年9月1日(土日の場合は翌月曜日)に卸売販売地域内の税務署の掲示板等に公示されるほか、国税庁のホームページ内でも確認することができます。
ビール卸売業免許
ビール卸売業免許とは、その名のとおり、ビールを卸売することができる免許区分です。
全酒類卸売業免許ほどのハードルではありませんが、人気が高く、全酒類卸売業免許と同じく年度ごとの免許可能件数と年間卸売数量(年間50㎘以上)の下限が定められています。
全酒類卸売業免許と同じく、申請数が免許可能件数を超えた場合には、公開抽選によって決した順位に従って審査が行われ、免許付与の要件を満たした者に対して免許付与が行われます。
洋酒卸売業免許
洋酒卸売業免許は、国産であるか外国産であるかを問わず、洋酒(洋酒に分類される果実酒、ウイスキー、ブランデー、発泡酒、その他醸造酒、 スピリッツ、リキュール、粉末酒及び雑酒等)を卸売することができる免許区分です。
輸出入酒類卸売業免許
輸出入酒類卸売業免許は、「輸出酒類卸売業免許」(輸出で卸売をするための免許)と、「輸入酒類卸売業免許」(輸入販売をするための免許)」を総称する免許区分です。
輸出入酒類卸売業免許とひとくくりに呼称していますが、これらの免許はそれぞれ別の免許区分になります。
店頭販売酒類卸売業免許
店頭販売酒類卸売業免許は、自己の会員である酒類販売業者に対し、店頭で直接引き渡す方法でのみ酒類を卸売することができる免許区分です。
販売先は会員として登録・管理されている酒類販売業者に限定されますが、販売することのできる種類は限定されていないため、取得のハードルが高い全酒類卸売業免許に代わるものとして活用されています。
協同組合員間酒類卸売業免許
協同組合員間酒類卸売業免許は、自己が加入する事業協同組合(中小企業等協同組合法に基づいて設立されたものに限る)の組合員に対し、お酒を卸売することができる免許区分です。
自己商標酒類卸売業免許
自己商標酒類卸売業免許とは、自ら開発した商標又は銘柄のお酒を卸売することができる免許区分です。
一般的には、酒類製造業者に製造を依頼した自社商標ラベル付のお酒を引き取って小売業者等に卸売するという形の事業形態になります。
特殊酒類卸売業免許
特殊酒類卸売業免許は、酒類事業者の特別の必要に応ずるために設けられている免許区分です。
原則として、酒類製造者の本支店や出張所等やその共同販売機関に対して付与されます。
免許の要件
酒類卸売免許を取得するためには、人的要件、場所的要件、経営基礎要件及び受給調整要件のすべてをクリアする必要があります。
人的要件
酒税の適切な徴収という観点から、信頼性や倫理観に欠ける人間を酒類販売業に関与させることは好ましいことではありません。
このような理由から、酒税法では酒類販売免許を受けようとする者について以下の欠格事由を設け、この事由にひとつでも該当する者については、免許を付与しないこととしています。
- 免許を取り消され、又は許可を取り消された日から3年を経過するまでの者
- 酒類販売業者である法人が免許を取り消された場合又は許可を取り消された場合において、それぞれ、その取消しの原因となった事実があった日以前1年内に当該法人の業務を執行する役員であった者で当該法人がその取消処分を受けた日から3年を経過するまでのもの
- 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人が1・2・7・8に該当する者である場合
- 法人の役員のうちに1・2・7・8に該当する者がある場合
- 1・2・7・8に該当する者を販売場に係る支配人としようとする場合
- 申請前2年内において国税又は地方税の滞納処分を受けた者である場合
- 免許の申請者が国税若しくは地方税に関する法令、酒類業組合法、アルコール事業法の規定により罰金の刑に処せられ、又は国税通則法、関税法、地方税法の規定により通告処分を受け、それぞれ、その刑の執行を終わり、若しくは執行を受けることがなくなった日又はその通告の旨を履行した日から3年を経過するまでの者である場合
- 未成年者飲酒禁止法、風営法、暴力団対策法の規定により、又は刑法上の一定の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者である場合
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わった日又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者
- 正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとする場合
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合
- 酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合
場所的要件
税区分を明確にする必要性から、酒類の販売場を、製造免許を受けている酒類の製造場や、販売業免許を受けている酒類の販売場、酒場、旅館又は料理店等と同一の場所に設けることはできません。
また、申請販売場における営業が、販売場の区画割り、専属の販売従事者の有無、代金決済の独立性その他販売行為において他の営業主体の営業と明確に区分されていることも求められています。
このような理由から、オープンスペースやフリースペース及びオフィスとしての実態がないバーチャルオフィスについては、販売場として認められません。
なお、販売場の物件が自己所有であるか他人所有(賃貸)であるかは問われませんが、賃貸物件である場合には、賃貸契約書の写しのほか、賃貸人からの使用承諾書も求められます。
たとえ自己所有の物件であったとしても、管理規約が定められたマンションの一室を販売所としようとする場合には、住民や管理組合の承諾を求められることがあります。
受給調整要件
すでに説明したとおり、「全酒類卸売業免許」と「ビール卸売業免許」については、酒税の保全上、酒類の需給の均衡を維持する必要があることから、地域的需給調整を行うための卸売販売地域が設けられています。
条件緩和の申出時の要件
すでに酒類小売業免許を受けている販売場が、同一の販売場において新たに卸売を行おうとするときは、以下の基準を満たすことを要件として、その免許について、条件緩和の申出を行います。
- 酒類販売業免許の取消要件に該当していないこと
- 販売場における年平均販売見込数量(卸売基準数量)が、全酒類卸売業免許に係る申出の場合は100kl以上、ビール卸売業免許に係る申出の場合は50kl以上であること
- 需給調整要件を満たしていること
経営基礎要件
経営能力に乏しい事業者に酒類の販売を任せていると、中長期的には徴収する酒税が目減りすることにつながるため、経営状況が安定しない事業者を酒類販売業に関与させることは好ましくありません。
したがって、資産状況、経験、資金および設備等を総合的に照らし合わせ、一定の経営基礎を持たないものと判断された申請者については、免許を受けることができません。
資産状況等
申請者の資産状況等に係る要件は、以下のとおりです。
- 現に国税又は地方税を滞納していないこと
- 申請前1年以内に銀行取引停止処分を受けていないこと
- 最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っていないこと
- 最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じていないこと
- 酒税法等の関係法令に違反し、通告処分を受け、履行していない又は告発されていないこと
- 販売場の申請場所への設置が、建築基準法、都市計画法、農地法、流通業務市街地の整備に関する法律その他の法令又は地方自治体の条例の規定に違反したことにより、店舗の除却又は移転を命じられていないこと
- 申請した販売場において、酒類の適正な販売管理体制が構築されないことが明らかではないこと
経験要件
申請者は、経験その他から判断し、適正に酒類の小売業を経営するに十分な知識及び能力を有すると認められる者又はこれらの者が主体となって組織する法人であることが求められています。
小売業免許とは異なり、求められる実務経験については、酒類販売管理研修の受講によって実務経験に代えることができず厳密に経歴を問われることが多く、また、単に従業員として上記の業務に従事していただけでは足りず、個人事業主又は法人役員として、これらの業務に主体的に関わっていたという事実が必要になります。
必要な経歴①
全酒類卸売業免許及びビール卸売業免許の申請者(法人の場合はその役員)及び販売場の支配人に求められる経歴は、以下のとおりです。
- 免許を受けている酒類製造業若しくは販売業(薬用酒だけの販売業を除く)の業務に引き続き10年(申請販売場が沖縄県に所在する場合は3年)以上直接従事した者
- 調味食品等の販売業を10年(申請販売場が沖縄県に所在する場合は3年)以上継続して営業している者
- 上記の業務に従事した期間が相互に通算して10年(申請販売場が沖縄県に所在する場合は3年)以上である者
- 酒類業団体の役職員として相当期間継続して勤務した者又は酒類の製造業若しくは販売業の経営者として直接業務に従事した者等で酒類に関する事業及び酒類業界の実情に十分精通していると認められる者
必要な経歴②
洋酒卸売業免許、店頭販売酒類卸売業免許、協同組合員間酒類卸売業免及び自己商標酒類卸売業免許の申請者(法人の場合はその役員)及び販売場の支配人に求められる経歴は、以下のとおりです。
- 免許を受けている酒類製造業若しくは販売業(薬用酒だけの販売業を除く)の業務に引き続き3年以上直接従事した者
- 調味食品等の販売業を3年以上継続して営業している者
- 上記の業務に従事した期間が相互に通算して3年以上である者
- 酒類業団体の役職員として相当期間継続して勤務した者又は酒類の製造業若しくは販売業の経営者として直接業務に従事した者等で酒類に関する事業及び酒類業界の実情に十分精通していると認められる者
資金設備要件
申請者には、酒類を継続的に販売するために必要な資金、販売施設及び設備を有していること(又は必要な資金を有し、免許を付与するまでに販売施設及び設備を有することが確実と認められること)を求められています。
通常は、必要資金、販売施設及び設備のすべてについて、酒類小売販売免許で要求されるものよりも大き目のスケールと計画が求められます。
免許申請の手続き
酒類卸売免許の申請は、個人の居住地や法人の営業所所在地ではなく、開業予定地を管轄する税務署に対して行います。
たとえば、神戸在住の個人事業主や、大阪市に本店を置く株式会社であっても、尼崎市で開業する場合には、尼崎税務署に対して申請を行います。
なお、相談窓口となる酒類指導官(酒税官)はすべての税務署に常駐しているわけではなく、地域担当の複数の税務署を取りまとめている税務署に常駐しています。
たとえば、尼崎市で開業しようとする際の申請先は尼崎税務署ですが、相談窓口は酒、類指導官が常駐するお隣りの西宮税務署になります。
全酒類卸売業・ビール卸売業
すでに説明したとおり、全酒類卸売業免許とビール卸売業免許には免許可能件数が設けられており、毎年9月1日にその公告が行われます。
申請可能期間は、毎年9月1日から9月30日とされており、この間に免許申請書を提出する流れになります。書類の提出自体は同年の7月1日から可能ですが、早く提出したからといって優先的に審査されるわけではありません。
申請可能期間中に申請があったものについては、同年10月中に審査順位を決めるための「公開抽選」が行われますが、あくまでも「抽選」であるため、完全な運頼みになり、また、抽選結果により免許が確定するわけでもありません。
その他の卸売業
全酒類卸売業免許とビール卸売業以外の卸売業免許については、免許可能件数や申請可能期間は設けられておらず、いつでも申請することが可能です。
必要となる書類
酒類卸売業免許の申請は、以下の書類を、開業予定地を管轄する税務署に提出することにより行います。
書類 | 内容 | 個人 | 法人 |
---|---|---|---|
免許申請書 | (後述) | ○ | ○ |
履歴書 | 個人の場合は申請者 法人の場合は役員 | ○ | ○ |
定款の写し | 事業目的の中に「酒類販売」の文言が入っていることが必要 | × | ○ |
登記事項証明書 | 事業目的の中に「酒類販売」の文言が入っていることが必要 全国の法務局又はオンラインで取得 | × | ○ |
賃貸借契約書の写し又はこれにかわる書類 | 販売場が賃貸である場合 | ○ | ○ |
地方税の納税証明書 | ①未納の税額がない旨 ②2年以内に滞納処分を受けたことがない旨 両方の証明がされた納税証明書 | ○ | ○ |
貸借対照表及び損益計算書又はこれに準ずる書類 | 収支計算書等 | 最終事業年度以前3事業年度分の貸借対照表及び損益計算書 |
まとめ
酒類販売業は免許区分や免許要件が多く、許認可を必要とする事業の中でも、手続きの仕組みが複雑なもののひとつです。
特に小売店に大きな影響力を持つ卸売業の免許申請については、酒類販売業免許を何度も手掛けている行政書士であっても、頭を抱え込みたくなることがあるほどなので、実際に取り組んでみると、その煩(わずらわ)しさには辟易(へきえき)するのではないかと思います。
まずはご自身のしたい事できる事を確認し、酒類販売に係る規制等に対する理解を深め、た上で、しっかりと事前準備を整えてから計画を進めるようにしましょう。
弊所は、関西圏を中心に、全国各地において年間300件以上の申請に携わります。酒類に関する手続きについては、より難易度の高い製造免許を含めてコンスタントに発注があり、着々と対応エリアを拡大しています。
また、弊所では「話しの分かる行政書士事務所」を標榜し、迅速、格安での対応をお約束しています。経験豊富で迅速であるからこそ工期を短縮することができるため、格安料金での対応が実現可能となっています。酒類販売免許申請でお困りの際は、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。
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