個室居酒屋やネカフェの注意点│区画席飲食店と風営法3号営業許可について

居酒屋とビール

飲食店をオープンしようと物件を選択する際は、誰しもが「広さ」にこだわりを持たれるように思います。中にはただ広ければ良いというだけではなく、あえて狭い個室を用意して、密着感やプライベート感を演出するのも、コンセプトとしては十分に有りうるのではないかと思います。

ただし、飲食店における個室にはルールが設けられており、これを知らずに営業していると、違法営業として刑罰の対象となってしまうことがあります。

また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)では、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5㎡以下である客席を設けて営む飲食店を「区画席飲食店」として、風俗営業のひとつに位置づけていることから、これに該当する飲食店を営もうとするときは、公安委員会(警察)から風俗営業の許可を受ける必要があります。

そこで本稿では、飲食店を適切に営むために不可欠となる「個室」のルールについて解説するとともに、風俗営業の「区画席飲食店」の取扱いについても、詳しく解説していきたいと思います。

飲食店等における個室のルール

飲食店その他の施設における個室の設置には、その営業形態に応じて以下のようなルールが設けられています。これらの施設はいずれも許可を必要とする営業形態であるため、基準を満たせなければ、そもそも営業を開始することができません。

飲食店内に設置する個室全般5㎡以下は風俗営業に該当する
深夜酒類提供飲食店の店内に設置する個室9.5㎡未満の個室は使用不可
接待飲食店の店内に設置する個室16.5㎡未満(和室の場合は9.5㎡未満)の個室は使用不可
低照度飲食店の店内に設置する個室5㎡未満(客に遊興をさせる態様の営業においては33㎡未満)の個室は使用不可
特定遊興飲食店営業の客室1室につき33㎡以上とすること

区画席飲食店とは

風営法では、喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5㎡以下である客席を設けて営むものを「区画席飲食店」と定義し、風俗営業として規制の対象としています。

このように区画席飲食店が風俗営業にカテゴライズされているのは、周囲から目の届かない狭い密室内で、違法な取引や淫らな行為が行われることを防止することが目的とされています。そのため、区画席飲食店に該当する飲食店を営業しようとする際は、風俗営業(3号営業)として、都道府県公安委員会から許可を受ける必要があります。

インターネットカフェの注意点

区画席飲食店の何たるかを説いたところで、リスクセンサーが敏感な方であれば、「あれ?これってインターネットカフェのこと?」と受け取ったのではないかと思います。その感覚はあながち間違いではなく、上記の規定にあてはまる構造を持つインターネットカフェであれば、当然風俗営業に該当することになります。

他方、風営法では、周囲から目の届かない狭い密室内で、違法な取引や淫らな行為が行われることを防止することを本来の目的としており、具体的には男女が利用するカップル喫茶のような飲食店を想定しています。

また、インターネットカフェ側は、「喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5㎡メートル以下である客席を設けて営むもの」という区画席飲食店の定義を逆手に取って、以下のような対策を講ずることにより、風俗営業許可を不要とするスキームを構築しています。

  • 各客室の床面積が5㎡を超えるようにする
  • 客室扉は撤去又は透明にする(小窓を設ける)
  • 客室の高さを下げて見通せる構造にする
  • 鍵付個室では飲食を提供しない

ただし、これはあくまでも現状における法令を解釈しただけに過ぎません。警察庁の解釈運用基準でも「各店舗の構造、設備、営業方法に応じた判断が必要」と明示していることからも、インターネットカフェの開業前には、所轄警察署や風営法に精通した行政書士に相談することが無難なように思います。

風営法3号営業許可

区画席飲食店を営業しようとする者は、営業所の所在地を管轄する警察署に対して申請し、都道府県公安委員会から風俗営業許可を受ける必要があります。

すべての風俗営業に共通することではありますが、区画席飲食店として風俗営業許可を取得するためには、人的要件営業所の場所的要件及び施設設備の構造要件の3つの要件をすべてクリアする必要があります。

人的要件

犯罪傾向がある人や反社会的勢力とつながりのある人が風俗営業に関与することは好ましくありません。このため風営法および風営法施行規則には、風俗営業を営むことができない事由(欠格事由)が列挙されており、このうちのいずれかの事由に該当する者については、風俗営業許可を受けることはできません。

  1. 成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない者
  2. 1年以上の懲役・禁錮の刑に処せられ、その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
  3. 風営法その他の一定の法律に違反したことにより、1年未満の懲役・罰金の刑に処され、その執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
  4. 集団的又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれがある者
  5. アルコール、麻薬、大麻、阿片、覚醒剤の中毒者
  6. 風俗営業の許可を取り消され、取消しの日から5年を経過していない者(法人である場合は取消処分に係る聴聞公示日以前60日以内に法人の役員であった者で、取消しの日から5年を経過していない者
  7. 風俗営業許可の取消し処分に係る聴聞公示日から処分をする日又は処分をしない事を決定した日の間に風俗営業を廃止した事を理由とする許可証の返納をした者で、返納日から5年を経過していない者
  8. 風俗営業許可の取消処分に係る聴聞公示日から処分をする日又は処分をしない事を決定した日の間に合併により消滅した法人、許可証を返納した法人、分割により聴聞に係る風俗営業を承継させた法人、分割により聴聞に係る風俗営業以外の風俗営業を承継した法人の取消処分に係る聴聞公示日以前60日以内に役員であった者で消滅・返納・分割の日からそれぞれ5年を経過していない者
  9. 営業に関し、成年者と同一の能力を有しない未成年者(その者が営業者の相続人であって、その法定代理人が上記のいずれにも該当しない場合は除く)
  10. 法人の役員、法定代理人が欠格事由に該当する場合

場所的要件

風俗営業については、営業所の設置場所に関する規制が非常に重要で、許可を受けるための最大のハードルとなります。せっかく良物件と見込んで契約しても、その場所がそもそも風俗営業を行うことができない場所であったということも珍しくはありません。

用途地域

都市計画法では、地域内に色々な土地や建築物がごちゃごちゃと混在する状況を避けるために、「住居地域」や「商業地域」という風に、○○地域という「用途地域」を定めて都市内部を整理・区分しています。

風俗営業は住宅地において営業することが好ましくないものとされていることから、その営業が許容されるのは、原則として住居地域ではない以下の用途地域内に所在する営業所に限られます。

  1. 商業地域
  2. 近隣商業地域
  3. 準工業地域
  4. 工業地域
  5. 工業専用地域
  6. 無指定地域

契約書等に記載されている○○地域という表記が用途地域ですが、稀に間違ったまま記載されていることがあるため、自治体が発行する用途地域証明書やサイト等でしっかりと確認するようにしてください。

なお、上記の用途地域はあくまでも原則であり、自治体によってはこれら以外の用途地域内でも風俗営業を行うことが認められている場合があります。実際に都道府県をまたいで申請数をこなしていると、運用方法に違いがあることを感じます。

保全対象施設

風営法を運用する各都道府県の条例では、風俗営業の営業所から有害な影響を受けないよう一定の保護を受ける施設を保全対象施設として定めており、風俗営業の営業所は、この保全対象施設から一定以上離れていることが要求されています。

  • 病院・入院施設のある診療所
  • 学校教育法に定めのある学校
    • 幼稚園・小学校・中学校・高等学校
    • 中等教育学校・特別支援学校
    • 大学・高等専門学校
  • 認定保育所・幼保連携型認定こども園
  • 図書館
  • 児童福祉施設

兵庫県及び大阪府を例に取ると、上記の施設が保全対象施設として定められており、営業所の場所がこれらの施設の敷地から、地域に応じて以下の距離より離れている必要があります。

兵庫県
(第2種地域)
病院・有床診療所から50m超
学校・図書館・保育所・認定こども園から70m超
兵庫県
(第3種地域)
病院・有床診療所から30m超
学校・図書館・保育所・認定こども園から50m超
兵庫県
(第4種地域)
病院・有床診療所からは距離制限なし
学校・図書館・保育所・認定こども園から30m超
大阪府
保全対象施設が商業地域外にある場合
100m超
大阪府
保全対象施設が商業地域内にある場合
50m超
大阪府
(特例地域)
距離制限なし

保全対象施設には、既に設置されている施設だけではなく、風俗営業許可の申請時において届出が出されている建設予定の施設も含まれます。このため、直前の入居テナントが風俗営業を取得していた場合であっても、その後に完成した保全対象施設が制限距離内に存在する場合は許可は下りません。

このように住宅地では風俗営業を営むことができないほか、住宅地以外であっても、病院や学校からもある程度離れた場所でなければ風俗営業の営業所を設置することができません。なお、営業可能地域や保全対象施設の設定は各都道府県ごとに異なるため、申請の着手段階で必ずしっかりと確認するようにしてください。

  • 風俗営業が許容される地域であること
  • 保全対象施設から一定の距離があること

構造要件

風俗営業には、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持するため、より健全な営業姿勢が求められます。このため、その営業所内の施設や設備についても、以下のように細やかな要件が定められています。

客室内部構造客室の内部が営業所の外部から容易に見通すことができないものであること
客室の出入口施錠の設備を設けないこと
営業所外に直接通ずる出入口は可
営業所の照度10ルクス超であること
その他善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと
騒音又は振動の数値が一定の数値に満たない要すること
性的好奇心をそそる物品を提供する自動販売機その他の設備を設置しないこと

許可を受けた営業の内容に変更があれば変更届を提出する必要がありますが、この届出を行わず、内部が違法状態のまま退去するケースは珍しくなく、そもそも前テナントが無許可営業であった可能性も排除できないため、以前のテナントが同種の営業を行っていた居抜物件だからといって安心はできません。必ず以下の事項についてしっかりと確認するようにしてください。

客室内部構造

他の風俗営業とは異なり、そもそも「他から見通すことが困難であること」が要件となっているため、客室内に見通しを妨げる設備を設けることを禁止する規定はありませんが、営業所の外部からは、容易に見通すことができない構造を有するものであることが必要です。また、個室の床面積については、5㎡以下であることが区画席飲食店の要件となります。

客室の出入口

客室に施錠をすることは認められていないため、たとえば鍵付きVIPルームのような個室を設けることはもちろんのこと、二重扉を設けてその両方に施錠をするような構造も認められません。ただし、営業所出入口のドアに鍵がついていることは特に問題ありません。

営業所の照度

施設内の照度は10ルクスを超えることが要件となります。また、店内においては、「調光器」(スライダック)を設置することも認められていません。

なお、営業所内の照度を10ルクス以下で営む飲食店については、「低照度飲食店」として別の許可が必要においてなります。(2号営業)

調光器
調光器
その他

善良の風俗もしくは清浄な風俗環境を害する恐れのある写真、広告物及び装飾その他の設備を店内に掲示することはできないほか、ラブホテル代わりに利用されることを防止するため、性的好奇心をそそる物品を提供する自動販売機その他の設備を設置することもできません。

騒音又は振動の数値が一定の数値に満たないことも必要条件とされています。具体的な数値については各自治体の条例によって異なるため、この点についても事前調査でしっかりと確認するようにしてください。

許可申請に必要となる書類

書類や鉛筆などが置かれたオフィスデスク
  • 風俗営業許可申請書
  • 営業の方法
  • 住民票の写し
  • 欠格事項に該当しない旨の誓約書
  • 誠実に業務を行う旨の誓約書
  • 身分証明書
  • 登記されてないことの証明書
  • 営業所使用権原を証明する書類
    • 賃貸契約書の写し
    • 営業所の使用承諾書
    • 建物登記簿謄本
  • 違法建築物でない旨を疎明する書類
  • 用途地域を証明する書類
  • 各種図面
    • 営業所周辺の概略図
    • 営業所の配置図
    • 求積図
    • 照明・音響・防音設備の配置図
  • 定款・登記事項証明書(法人)
  • 管理者の顔写真(2枚)

弊所のサポートをご利用いただける場合、皆さまが準備されるのは赤文字で示した書類のみです。残りの書類はすべて弊所がそろえます。

なお、添付する図面については相応に精度の高いものを求められます。不慣れであれば、大多数の方が図面作成の段階でつまづかれます。以下の記事内に図面の作成方法についてまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。

飲食店営業許可について

飲食店であることが前提となるため、風俗営業許可に先立って飲食店営業許可を取得する必要があります。令和3年6月以降は随分と許可要件も様変わりしたため、より一層の注意が必要になります。

特に厨房の2層式シンクの手洗いは、直接蛇口を触らずに済むレバー式やセンサー式のものを導入するようにしてください。

また、現在新規でオープンする店舗は、原則として喫煙することができません。この辺りについては、下記の記事内で解説していますのでご確認ください。

なお、接待を伴う営業を行う飲食店は、社交飲食店としう別の風俗営業に該当するため、別途異なる風俗営業(1号営業)の許可を取得する必要があります。ただし、そもそも風俗営業の兼業を認めていない自治体もあることから、この点については、警察署との事前協議の中で詰めていくことが重要になります。

まとめ

飲食店の個室について解説してきましたが、区画席飲食店に該当し、風俗営業許可が必要となった場合、手続きには相当な負担が強いられます。都道府県ごとに条例や運用方法の違いも存在するため、風営法に精通していなければ、たとえ行政書士であったとしても大変な作業となることは間違いありません。

下記の報酬は市場価格を反映したものですが、弊所は「話しの分かる行政書士事務所」として、さまざまな事情をくんだ上での柔軟な対応を心がけています。風俗営業許可の取得でお困りの際は、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。

風営法3号営業許可申請154,000円~
※税込み

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