メンズエステ(メンエス)が違法となるラインとは

のマッサージを受けるアジア人男性

近年巷(ちまた)ではメンズエステ(メンエス)といわれる営業形態が流行していますが、同時に一部の店舗が「違法性風俗店」に当たるものとして、これを取り締まる動きも活発化しています。

弊所は性風俗店に関する手続きを多く手掛けていますが、代表自身は「エステ」には疎(うと)く、女性が利用するエステの男性版くらいの認識で、そこで実際にどのようなサービスが提供されているのかについては摘発事例が続くまでは詳しく把握していませんでした。

そこで本稿では、おもに風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)及び警察庁の運用解釈基準等をベースに、メンズエステが違法営業店となりうるラインを確認するとともに、メンズエステを適正に運営するために必要となる手続きについても詳しく解説していきたいと思います。

メンズエステとは

エステとは、一般的にはエステティックサロンの略語として使用されており、痩身や脱毛をはじめとした全身の美容やリラクゼーションを目的とする施術やこれを行う店舗のことを指します。

従来はどちらかと言えば女性向けの美容サービスとして認識されていましたが、昨今は男性に対するサービスに特化したメンズエステ(メンエス)が台頭しています。

ただし、「エステ」という言葉が多様な解釈を含む言葉であるため、これを明確に定義づけすることは難しく、サービス内容をひとくくりにして説明することができません。このためエステに対する規制は、サービス内容や営業の実態に合わせて運用されることになります。

医療関連行為との関係

医師法では医師以外の者が医行為を行うことを禁じています。例として以下に示す行為は、医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生ずるおそれのある行為(医行為)として、医師免許を有しない者が業として行うことは禁止されています。

  • 用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為
  • 針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為
  • 酸等の化学薬品を皮膚に塗布して、しわ、しみ等に対して表皮剥離を行う行為

また、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師が行う医業類似行為についても、それぞれあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師の免許を有する者でなければこれを行うことはできません。

あん摩衣服の上から遠心性(心臓の位置から手足に向かって)におさえ、又はなでることにより行う手技療法
マッサージ求心性(手足から心臓の位置に向かって)におさえ、又はなでることにより直接皮膚を刺激していく施術
指圧衣服の上から、親指を中心に四指や手のひらなどを使い、身体の指圧点(ツボ)を垂直かつ持続的に押していく施術
はり身体の「ツボ」と呼ばれる部分に金属の「針」を刺し、刺激をあたえて体調を整える治療方法
きゅう身体の「ツボ」と呼ばれる部分にモグサをおいて燃やし、温熱刺激をあたえて体調を整える治療方法
柔道整復骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの損傷に対し、手術をしない「非観血的療法」によって、整復・固定などを行い、人間の持つ治癒能力を最大限に発揮させる施術

なお、いわゆるカイロプラクティック療法といわれるものの中には危険な手技が含まれており、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為についても禁止されています。

理容・美容との関係

いわゆる美顔施術については、施術が容姿を整え、又は美しくするために化粧品又は医薬部外品を用いる等業を行うに当たって公衆衛生上一定の知識を必要とするような場合には、理容師又は美容師の業務範囲となります。

他方、「容姿」とは主として首から上部、マニキュア及びペディキュアとされているため、逆に言えば全身美容を目的とする行為は「美容」には該当せず、エステにおいてこれを行うことについて特に資格は必要とされません。ただし、全身美容の目的をもって入浴施設を備え、多数人を反復継続して入浴させるときは公衆浴場法の営業許可が必要になります。

なお、いわゆる美顔施術であっても、簡易なマッサージ、皮膚の汚れ落し程度のものである場合には、理容にも美容にもあたらないため、理容師や美容師の資格も必要とはされていません。

メンズエステの実態

本来は全身美容の一種として認知されていたエステですが、最近ではこれらのエステとは別に、個室で女性セラピストが紙パンツ一枚の男性に施術を行うリラクゼーション・エステをメンズエステとして営業するケースが増加しています。

このスタイルで営業すること自体特に問題はありませんが、女性セラピストとの密着度が高いことから性風俗店と誤認する客が多く、また店側もあえてそれをセールスポイントとしているケースもあるようです。現在摘発事例が続いているのはまさにこのタイプの店舗で、適切な手続きを経ることなく「隠れ性風俗店」として運営していることが問題となっています。

風営法の規制と解釈

風営法においては、いわゆる「性風俗店」を「性風俗関連特殊営業」として規制の対象としています。同法第2条第5項にその根拠があり、さらに同条第6項から第10項において、店舗型性風俗特殊営業(6項)、無店舗型性風俗特殊営業(7項)、映像送信型性風俗特殊営業(8項)、店舗型電話異性紹介営業(9項)及び無店舗型電話異性紹介営業(10項)が定義されています。

店舗を設けて性的サービスを提供する営業は「店舗型性風俗特殊営業」に該当しますが、メンズエステについて指摘されているのは、いわゆる「ファッションヘルス」との類似性です。

個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業

(風営法第2条第6項第2号)

上記がいわゆる「ファッションヘルス営業」を定義した条文ですが、「ヘルス」を名乗ろうが「エステ」を名乗ろうがそこは問題ではなく、これに当てはまる営業はすべて店舗型性風俗特殊営業となります。

また、条文が法令独特の回りくどい表現であるため、警察庁ではこれを以下のように解釈して運用を行っています。

「性的好奇心に応じて」とは、客の性的な感情に応えてという趣旨である。したがって、通常のマッサージ等は、店舗型ファッションヘルス営業には当たらない。

「ホテルヘルス」等と称して派遣型ファッションヘルス営業を装いつつ、レンタルルーム、ラブホテル等を営む者と提携して個室を確保しているような場合も「個室を設け」に該当する。

(警察庁風営法解釈運用基準第5-2)

要するに社会通念上「通常のマッサージ等」とされているものの範疇(はんちゅう)を超え、客の性的な感情に応えて行うマッサージ等を「ファッションヘルス営業」として規制の対象としています。

これでもまだ表現が曖昧なため、以前ある業務を請け負った際に3府県の警察本部に問い合わせたところ、いわゆる「抜き」があるかどうかが大きなポイントとなるほか、「抜き」が無い場合であっても著しく性的興奮を高めるようなサービスは性的サービスに該当するという回答を得ました。

店舗型性風俗特殊営業の現状

店舗型性風俗特殊営業に該当したとしても手続きさえ踏めばいいだろうと考えていても、実際はそう簡単に事は運びません。以下は兵庫県における規制内容ですが、ご覧のとおり店舗型性風俗特殊営業はラブホテルやアダルトショップといった一部の営業を除き、県内全域において新規で開業することができないようになっています。

兵庫県における性風俗関連特殊営業

上記はあくまでも兵庫県条例に基づく規制ですが、ほとんどの都道府県において同様の規制が設けられているため、現状ではファッションヘルス型の性風俗店の新規開業はほぼ不可能であると言ってもいいでしょう。

それでは性風俗店の新規開業がまったく認められていないかと言えばそんなことはありません。風営関連法令や条例では「店舗」であったり「場所」であったりについては非常に厳しく規制しているのに対し、店舗を構えない無店舗型の性風俗店については、比較的規制の手を緩めてくれています。つまり店舗型ではなく無店舗型での営業を選択すれば、特に制限なく開業することが可能となっています。

これを逆に言えば、メンズエステにおいて適法に性的サービスを新たに提供しようとする場合は、無店舗型性風俗特殊営業(いわゆるデリヘル)として開業するほか道はありません。

無店舗型性風俗特殊営業

無店舗型性風俗特殊営業とは、読んで字のごとく店舗を設けずに性的サービスを提供する営業を指しますが、このうち人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むものをデリヘルとして定義しています。

このまどろっこしい文面をかみくだいて説明すると、客の自宅やホテル等の施設(ホテヘル)に異性の従業員を派遣して性的なサービスを提供する形態の営業がこれに該当します。したがって、特定のホテルと契約し、その一部を事実上の店舗として使用する行為等はデリヘルには当たらず店舗型性風俗に該当することになります。

まとめ

メンズエステを従来型のタイプで営業するのであればともかく、性的サービスを提供するとなると、そのハードルは途端に厳しいものとなります。客の中にはむしろ性的サービスを期待して利用する層もあるので、(性的サービスを)提供するならする、提供しないのであればしない、という姿勢を明確に打ち出し、これをしっかりと明示する必要があります。

グレーゾーンをグレーのまま歩くのではなく、法令を遵守して適正な手続きを心がけ、どこからも睨まれることのないように運営するようにしてください。

弊所は風営法関連の申請をはじめ許認可の取得や届出を十八番とする行政書士事務所ですので、手続きにお困りの際はどうぞご遠慮なくご相談ください。

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