ペット事業の将来性│海外における動物取扱業の動向と日本への影響とは

ちょこんとおすわりする子猫

2021年11月18日、フランス議会上院は、動物の取扱いに関する法律の改正案を可決しました。2024年から施行される改正法では、ペットショップ等における犬猫の販売を禁止し、その取引は、ブリーダーからの直接購入、若しくは個人や保護施設からの引取りなどに限定されることになります。

また、衝動買いによるペットの遺棄を防止するため、購入後7日間は解約を可能としたうえで、購入者には飼育に関する知識があることを証明する書類への署名も義務づけられることになります。

さらにこの改正法では、イルカやシャチのショーは2026年から、巡回式サーカスで野生動物を利用することについては2028年から、それぞれ禁止することとされています。

フランス国内でペットとして愛育されている犬猫は、合わせて2,200万匹にものぼり、このうち毎年約10万匹(約4.5%)が不当に遺棄されているとも言われています。このため、ペット事業者やサーカス業界団体など一部の業界からは猛烈な反発がある一方で、市民間ではおおむね歓迎ムードでこの改正法が受け入れられているとも言われています。

(以上、NHKの報道による引用)

日本における現状

生命の取引に関わる法律であるという点で、考えさせられる報道ではありますが、フランスというお国柄もあり、そもそも海外の法律ということで、本稿ではその是非や賛否を問うことはいたしません。気になるのは、こういった海外の動向に対し、日本では一体どのような影響が出て来るのかといったところではないかと思います。

現状を調べたところ、日本では、犬の約半数が「ペットショップからの購入」という経路をたどって家族入りを果たしているようです。猫については少し意外だったのですが、その約3分の1が「野良猫を拾う」という経路をたどって家族入りし、「ペットショップからの購入」という経路は、約16.6%にとどまっているようです。(いずれも令和2年のデータ)

そもそも「野良猫を拾う」という経路にしても、それが多過ぎるのであれば、野良猫になった元々の経緯なども踏まえると、それはそれで考えるべき問題点であるような気もします。いずれにせよ、犬と猫とで違いはあるものの、現在の日本におけるマッチングツールとして、ペットショップが担っている役割は決して小さくないということは間違いなさそうです。

なお、これらのデータは、一般社団法人ペットフード協会のサイトから引用させていただいたものです。古いデータにはなりますが、環境省の動物愛護管理室が公開しているページも一緒にご案内いたしますので、ご興味のある方は、下記サイトにてご確認いただくようお願いいたします。

日本における同法の適用

さて、それではフランスと同じように、日本でも犬や猫がペットショップで販売できなくなることを仮定すると一体どうなるのでしょうか。

フランスでも期待されているように、衝動買いによる飼育放棄は減るように思います。ただ、犬や猫に癒やしを求める層がこのまま減少する訳ではないため、一部のブリーダーには人気が集中することになり、その取引価格も高騰するのではないかと考えます。

ブリーダーは、一般の衆目にさらされることになるため、劣悪な環境下で飼育を行っていた事業者は淘汰され、繁殖場における子犬や子猫の処遇は改善が図られることになるでしょう。

他方、懸念されるのは、取引価格の高騰に伴う「闇市場」の形成です。禁酒令を例に挙げるまでもなく、禁止若しくは厳格に規制される事案には、残念なことに必ずや暗躍する人物や団体が出現することが歴史において証明されています。これに関しては、言い始めるときりがないのですが、当初よりこれらの観点を踏まえた上でしっかりと政策を提示することが重要です。

また、全国に既存する5,000以上の店舗と、1,000億円規模ともいわれる市場に対し、どのように折り合いをつけていくのかも政策的課題となることでしょう。

日本における現実的な影響

以上のようなことから考察すると、現時点ではフランスのような劇的な法改正は行われないものと予測します。ただし、動物愛護法改正の変遷(下表)を踏まえると、6〜7年ごとの規制強化が明らかとなっているため、徐々にではあるものの、さらなる厳格化が図られていく流れであることは間違いありません。海外の動向や反応によっては、法改正のスピードが早まることも十分にありえるのではないかと思います。

昭和48年9月「動物の保護及び管理に関する法律」制定
平成12年12月「動物の愛護及び管理に関する法律」に名称変更
動物取扱業の規制、飼い主責任の徹底、虐待や遺棄に関わる罰則の適用動物の拡大、罰則の強化など
平成18年6月動物取扱業の規制強化、特定動物の飼育規制の一律化、実験動物への配慮、罰則の強化など
平成25年9月動物取扱業の適正化、終生飼養の明文化、罰則の強化など
令和2年6月責務規定の明確化、第一種動物取扱業の適正化、罰則の強化、特定動物の規制強化、マイクロチップの装着など

市場という観点から考察すると、短期的には事業者が増加し、中でも「輸出販売」の区分が増加するのではないかと思います。

日本の法改正に対する手法を考えると、これらに対し、現状の「登録制度」が見直され、必要となる資格などの要件を厳格化し、「許可制」又は「免許制」に移行することになるものと予測します。

まとめ

本稿で扱ったテーマは、生命の取引というデリケートな問題を含んでおり、政治的意見の対立も予見されることから、あくまでも中立な立場による記述にとどめました。海外の法改正とはいえ、何らかの形で日本にも波及することは必至なため、現に動物取扱業を営んでおられる方や、将来的に動物取扱業を営もうとお考えの方は、十分に留意するようにしてください。

弊所においては、動物取扱業に関する手続きの取扱いもありますが、現状の把握のみならず、事業の将来性もしっかりと検討したうえで計画を進めるようにしましょう。

いずれにせよ、今後も業界の動向は注視していきたいと思います。最後になりますが、動物には愛情を持って接するように心がけましょう。

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