農地法5条許可(届出)の手続きについて
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。契約の当事者は、法令の範囲内において、契約の内容を自由に決定することができる。
(民法第521条第1・2項)
いきなりですが民法に規定する「契約自由の原則」について明らかにした条文です。このように契約に関しては、誰でも自由に相手方を選択し、どんな内容であっても自由に締結することができるのが原則です。
ん?法令に特別の定めがある場合を除き?
誰もが自由に農地を宅地にして売却したり、駐車場を作って他人に賃貸したりすることを無制限に認めてしまうと、日本の農業はあっという間に廃れていってしまいます。
そこで農地法という法律では、農地の売買などの取引や用途の変更については行政による許可制度を採用し、農業と優良農地の保護を図っているのです。つまり、上の条文でいうところの「法令(農地法)に特別の定めがある場合」に該当するものとして、本来自由に行えるはずの契約に制限を設けているわけです。
さて、田畑を宅地に変えて売却したいと考えたとき、一体どんな手続きが必要になるのでしょうか?
本稿では、取引に伴って農地の用途を変更しようとする場合に必要となる「5条許可」についてご案内したいと思います。
農地転用許可制度の概要について
目 次
農地法5条とは
農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く)にするため、これらの土地について一定の権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。
(農地法第5条第1項前段)
農地を他の用途に変更することを農地転用(農転)といいますが、取引に伴って転用を行う場合に必要となるのが「5条許可」です。例えば、農地の売却に伴って当該農地に住宅や駐車場を設置するようなケースです。
農地法における許可制度には、他に「3条許可」や「4条許可」があります。
いや。数字並べられてもわからんよ。
ごもっともです。農地法という法律では農地の取引や転用について規制を設けています。そしてそれぞれの規制が設けられた条項に対応する形で「○条許可」や「○条届出」といった具合に呼称し区分しています。
農地としての用途はそのままに売買や賃貸などの取引によって権利の設定や変更が生ずる場合に必要となるのが「3条許可」。自己所有の農地を転用しようとする際に必要となるのが「4条許可」。そしてこれらを合わせたようなものが「5条許可」です。表にすると以下のとおりです。
許可の区分 | 転用の有無 | 原因 |
---|---|---|
3条許可 | 農地又は採草放牧地のまま | 売買等の取引 |
4条許可 | 農地の転用 | 自己所有農地の転用 |
5条許可 | 農地又は採草放牧地の転用 | 売買等の取引 |
転用しない農地の取引(3条許可)
自己所有農地の転用(4条許可)
5条許可の概要
対象となる土地
農地法5条の許可が必要となるのは、土地の現況が「農地又は採草放牧地」である場合です。登記上の地目が農地であっても現況が農地又は採草放牧地でなければ許可は必要ありません。逆にいえば地目が農地以外の土地であっても、現況が農地又は採草放牧地であると認められる場合には許可が必要になります。なお、採草放牧地の転用について規制を受けない4条許可とは異なり、5条許可においては採草放牧地の転用についても規制の対象となります。
農地とは、耕作の目的に供される土地をいい、採草放牧地とは、農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるものをいう。
(農地法第2条第1項)
対象となる取引
5条許可は、取引に伴って農地の転用を行うために必要となる許可です。このうち「取引」について、どのような行為がこれに該当するのかについて確認していきましょう。
- 売買
- 贈与
- 貸し借り
- 競売・公売
- 共有物の分割
- 譲渡担保・買戻し
- 特定遺贈
なお、次のような原因に伴って農地の転用を行う場合は、一旦権利が設定された後に「4条許可」の申請を行うことになります。
- 相続
- 時効による取得
- 法人合併による取得
- 包括遺贈
許可権者
農地法5条の許可については、原則として都道府県知事又は指定市町村長がその権限を有しています。指定市町村長とは、農地転用許可制度を適正に運用し、優良農地を確保する目標を立てるなどの要件を満たしているものとして農林水産大臣が指定する市町村(指定市町村)の長のことであり、農地転用許可制度において、都道府県知事と同様の権限を有することになります。
なお、許可権者が、4ヘクタールを超える農地の転用を許可しようとする場合には、あらかじめ農林水産大臣(地方農政局長)に協議することとされています。
許可を必要とするケース
売買などの取引に伴って農地を宅地や工業用地に転用しようとする場合は、都道府県知事又は指定市町村長の許可を受ける必要があります。
不動産会社が購入した農地を転売する場合などが該当します。売主(農地所有者)と買主の双方が申請者となります。
許可が不要となるケース
国、都道府県又は指定市町村が転用する場合には許可は不要とされていますが、学校、社会福祉施設、病院、庁舎又は宿舎のために転用する場合には、許可権者と協議を行う必要があり、協議が整った場合には許可を受けたものとみなされます。また、後述するように、市街化区域内農地の転用については農業委員会への届出制となっています。
また、採草放牧地を農地に変更するための権利移転等については、農地法第5条の適用はありません。
届出を必要とするケース
転用しようとする農地が市街化区域外にある場合については許可が必要ですが、当該農地が市街化区域内にある場合は許可は不要です。ただし、都道府県知事又は指定市町村長に対して届出を行う必要があります。
ちなみにわが尼崎市の農地はすべて市街化区域内にあるため、農地を転用する場合は届出のみが必要となります。ただし、生産緑地は転用することができません。
なお、農地の賃貸借や使用貸借後に、解約するときにも農業委員会への解約届が必要になります。
市街化区域
都市計画法により指定された都市計画区域の1つであり、既に市街地を形成している区域と、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とされてます。用途地域が定められており、自治体による公共施設の整備も重点的に実施されるほか、土地区画整理事業や市街地再開発事業などによる整備も積極的に進められています。
市街化調整区域
市街化を抑制し、優れた自然環境等を守る区域です。用途地域も定められていません。原則として自治体などによる都市基盤の整備もしないこととされているため、新たに開発や建築をすることは制限されています。
許可基準
立地基準
農地をその優良性や周辺の土地利用状況等によって区分し、それに従って転用の許否を判断する基準です。転用を農業上の利用に支障が少ない農地へ誘導する基準であることから、農業上の重要性が高い農地ほど転用が厳しく制限されます。
区分 | 状況 | 許可の方針 |
---|---|---|
農用地区域内農地 (青地) | 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 | 原則不許可 農業用施設等市町村が定める農用地利用計画において指定された用途のために転用する場合は例外的に許可 |
甲種農地 | 市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)等、特に良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 土地収用法の認定を受け、告示を行った事業等のために転用する場合は例外的に許可 |
第1種農地 | 10ヘクタール以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 土地収用法対象事業等のために転用する場合は例外的に許可 |
第2種農地 | 鉄道の駅が500m以内にある等、市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地 | 農地以外の土地や第3種農地に立地困難な場合等に許可 |
第3種農地 | 鉄道の駅が300m以内にある等、市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地 | 原則許可 |
一般基準
- 申請に係る農地を当該申請の用途に供することが確実であること
- 周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがないこと
- 一時的な利用のための転用において、その利用後にその土地が耕作の目的に供されることが確実であること
立地にかかわらず申請書に記載された内容などに基づいて判断します。おもな基準は上の3つですが、これらのほかに特別の要件を加える自治体もあります。
農業振興地域の除外申請
農地について定めた法律には農地法の他に農振法(農業振興地域の整備に関する法律)があります。この法律に基づく農業振興地域制度は非常に制約が多く、農業振興地域整備計画によって優良農地の確保と保全のため開発が制限されている区域として設定された農用地区域において転用が認められるためには、まずは農用地区域から除外するための手続きを経る必要があります。ハードルは非常に高いので、まずはこの農用地区域に該当するかどうかをしっかりと確認するようにしましょう。
区域 | 必要となる手続き |
---|---|
農業振興地域内の農用地区域内(青地) | 区域の除外申請 ↓ 5条許可 |
農業振興地域内の農用地区域外(白地) | 5条許可 |
市街化区域内 | 5条届出 |
農業振興地域制度について
他法令との調整
農地法や農振法以外にも遵守すべき法令があります。農地転用を行う際は、これらすべての基準をクリアする必要があります。
建築基準法
建築確認申請が認められない場所に家を建てるような転用は認められません。
都市計画法
都市計画法の規制を受ける転用の場合は、都市計画課と協議の上、開発行為事前審査会の意見を盛り込んだ内容でなければ申請を行うことはできません。
開発許可制度の概要について
その他
地上権、賃借権に基づく耕作者の存在などを登記簿で確認し、権利関係の調整なども行う必要があります。また、ケースによっては隣接する農地の所有者の同意が必要になる場合もあります。
このほか、土地改良区の除外手続きや水利組合の排水承諾を必要とする場合があるなど、周辺の法令との調整は意外に厄介ですので、事前にしっかりと確認・調査を行うように心がけましょう。
土地改良区の地区除外申請について
5条許可の手続き
手続きの流れ
申請は取引の当事者双方が、農地の所在する農業委員会を経由し、都道府県知事又は指定市町村長に対して行います。各自治体によって求められる事項に違いがあるため、詳細については農地所在地の農業委員会に確認をするようにしましょう。
30アール以下の農地
30アール超の農地
農業委員会は、必要があると認めるときには、都道府県農業委員会ネットワーク機構へ意見を聴くことができます。
市街化区域内農地
許可申請ではなく、農業委員会への届出という形式です。
必要となる書類
おおむね以下のような書類が必要となりますが、この辺りについても各自治体による違いがありますので事前にしっかりと確認するようにしましょう。
- 申請書
- 申請に係る土地の登記事項証明書
- 各種図面
- 申請に係る土地の地番を表示する図面
- 転用候補地の位置及び附近の状況を示す図面(縮尺10,000分1~50,000分の1程度)
- 転用候補地に建設しようとする建物または施設の面積、位置および施設間の距離を表示する図面(縮尺500分1~2,000分の1程度。当該事業に関連する設計書等の写しも可)
- 転用事業を実施するために必要な資力及び信用があることを証する書面(金融機関等が発行した融資を行うことを証する書面や預貯金通帳の写し)
- 所有者の同意書(所有権以外の権原に基づく申請の場合)
- 耕作者の同意書(耕作者がいるとき)
- 転用に関連して他法令の許認可等を了している場合には、その旨を証する書面
- 申請に係る農地が土地改良区の地区内にある場合には、当該土地改良区の意見書(土地改良区に意見を求めた日から30日を経過してもその意見を得られない場合には、その事由を記載した書面)
- 転用事業に関連して取水または排水につき、水利権者、漁業権者その他関係権利者の同意を得ている場合には、その旨を証する書面
- 定款又は寄付行為の写し(法人)
- 登記事項証明書(法人)
- その他参考となるべき書類
標準処理期間
自治体による違いはありますが、申請書の提出後、おおむね40〜60日程度で許可(不許可)処分がなされます。
まとめ
農地の規制についての複雑さについてはざっくりとご理解いただけたのでないでしょうか。農地転用については農地法以外にもクリアすべき法令は多く、市街化区域内であっても農地用区域(青地)が存在していたり、多くの役所をたらい回しにされたりと、事前の調査なしに取引を行うことは非常に危険です。その点も十分に加味した上でしっかりとした事業計画を策定しましょう。
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