農地法3条許可(届出)の手続きについて

農家の男性

農地については、いわゆる農地転用(農転)以外にもさまざまな規制が設けられ、その保護が図られています。本稿では、その中のひとつであり、農地の用途のまま取引を行う場合に必要となる「3条許可」についてご案内したいと思います。

農地転用許可制度の概要について

農地法3条とは

農地の所有者が農地(田畑又は採草放牧地)を農地の用途のまま売買等により所有権を移転し、または賃借権その他の使用収益権を設定し、もしくは移転しようとする場合は、農地法第3条の規定により農業委員会の許可が必要となります。

第一次産業である農業を維持拡大するためには、生産性の高い農業経営者に農地を効率的に利用されることが好ましいのは当然のことです。このため、農地法では、農地を耕作する目的で売買や貸し借りを行う際にも一定の規制を加えることで、農地が資産保有や投機目的等の対象として農業者以外の者により取得されることを規制しているわけです。この許可を受けることなく農地の売買や貸借等の取引を行っても法律上は無効であり保護はされません。

3条許可の概要

対象となる土地

農地法3条の許可が必要となるのは、取引の対象となる土地が取引前後のいずれも「農地」である場合です。登記上の地目が農地であっても現況が農地でなければ許可は必要ありません。逆にいえば地目が農地以外の土地であっても、現況が農地であると認められる場合には許可が必要になります。

なお、取引後に農地以外の用途への転用が予定されているような場合は、3条ではなく農地法5条の許可が必要になります。

許可権者

農地法3条の許可については、農業委員会がその権限を有しています。許可権者が都道府県知事又は指定市町村長である4条、5条許可とは異なる点はご注意ください。

許可を必要とする取引

農地について以下の取引を行う場合には、農業委員会の許可を受ける必要があります。したがってこれらの取引については、許可がなければ効果そのものが発生しないことになります。

  • 売買
  • 贈与
  • 貸し借り
  • 競売・公売
  • 共有物の分割
  • 譲渡担保・買戻し
  • 特定遺贈
農地の賃貸借について

農地賃貸借を終了する旨の通知(解除・解約申入・合意解約・更新拒絶)をする場合は、事前に都道府県知事の許可を得る必要があります。したがって、この許可を得ることなく契約を終了させることはできません。許可権者が農業委員会ではなく都道府県知事である点はご注意ください。

なお、安定した耕作を保護するという観点から、農地法17条、民法617・618条と比べて借地人に不利となる特約を付すことはできません。つまり、有期賃貸借の場合には契約更新拒絶の通知は6か月以上前に行う必要があり、また、解約の申し入れがあれば即日契約が終了するという特約を結ぶこともできません。解約の申入は、耕作の季節の始まる前に行い、その日から1年を経過後に契約は終了となります。

許可が不要な取引

農地について以下の取引を行う場合には、特に許可を受ける必要はありません。ただし、農業委員会が農地の権利変動について把握する必要があることから、これらの権利変動の際にも農業委員会に対する届出は必要とされています。

  • 相続
  • 時効による取得
  • 法人合併による取得
  • 包括遺贈
  • その3条第1項に規定される取引

また、国や都道府県、その他地方自治体による用地買収や利用集積計画による権利の設定・移転の場合は、許可を受ける必要はありません。

不許可基準

農地法第3条第2項では、以下のようなケースにおいては許可をすることができないように規定しています。なお、これらの要件は土地やその取得者についての定めであって、権利を譲り渡す側には特に要件はありません。

所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を取得しようとする者又はその世帯員等の耕作又は養畜の事業に必要な機械の所有の状況、農作業に従事する者の数等からみて、これらの者がその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき農地及び採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作又は養畜の事業を行うと認められない場合

(農地法第3条第2項第1号)

権利を取得しようとする者が、権利取得後に農地及び採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作又は養畜の事業を行うと認められない場合です。「農地及び採草放牧地の全て」には、既に権利を有する農地や、他人に使用収益させている農地の全てを含んでいます。したがって、耕作放棄地を所有しているような場合には、「農地及び採草放牧地の全て」を効率的に利用するとは認められず、許可を取得することはできません。(全部効率利用要件)

また、「効率的な利用」については、現在と将来の機械的・労働力・技術的な要素から、近傍における自然的・利用的条件が類似している農地と比較して判断されることになります。

農地所有適格法人以外の法人が権利を取得しようとする場合

(農地法第3条第2項第2号)

農地所有適格法人とは、農事組合法人、非公開株式会社又は持分会社であって、一定の要件の全てを満たしているものをいいます。(農業生産法人要件)

一般の法人が農地の権利を取得することは原則として許されていません。ただし、賃貸借・使用貸借については例外が認められることがあります。

信託の引受けにより権利が取得される場合

(農地法第3条第2項第3号)

原則として農地の権利の移転に信託を用いることはできませんが、農地中間管理機構や農協では一部認められています。

権利を取得しようとする者(農地所有適格法人を除く)又はその世帯員等がその取得後において行う耕作又は養畜の事業に必要な農作業に常時従事すると認められない場合

(農地法第3条第2項第4号)

権利を取得するだけではなく、ちゃんと農業に従事しなさいよという趣旨です。「常時」とは、作業日数150日以上が目安となりますが、農作業を行う必要がある限りにおいて作業を行っていれば作業日数がこれを下回っても認められます。(農作業常時従事要件)

権利を取得しようとする者又はその世帯員等がその取得後において耕作の事業に供すべき農地の面積の合計及びその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき採草放牧地の面積の合計が、いずれも一定の面積に達しない場合

(農地法第3条第2項第5号)

一定の面積とは、北海道では2ヘクタール、都府県では50アールとされています。なお、農業委員会が農林水産省令で定める基準に従い、市町村の区域の全部又は一部についてこれらの面積の範囲内で別段の面積を定め、農林水産省令で定めるところにより、これを公示したときは、その面積が該当します。(下限面積要件)

参考までに、尼崎市においては以外のような面積要件が設定されています。

尼崎市下限面積要件
出典元:尼崎市公式サイト

農地の効率的な利用・生産性の向上といった観点から、農家には一定の規模が求められています。例外として以下のような場合には、面積要件を満たしていなくても権利移転が許可されます。

  • 草花の栽培など、少ない面積に多くの資本・労働力を投入するような農業を営む場合
  • 農業委員会のあっせんに基づく農地の交換の場合
  • 隣接農地との一体的利用が必要な農地について、その隣接農地の権利者に移転する場合

農地又は採草放牧地につき所有権以外の権原に基づいて耕作又は養畜の事業を行う者がその土地を貸し付け、又は質入れしようとする場合

(農地法第3条第2項第6号)

権利関係の複雑化を防止するために、転貸や質入れを禁止した規定です。所有者の同意があったとしても、転貸や質入れは許されていません。ただし、以下のような場合には例外としてこれらの行為が認められています。

  • 事業を行う者又はその世帯員等の死亡、疾病や負傷による療養、就学、公選による公職への就任、その他農林水産省令で定める事由によりその土地について耕作、採草又は家畜の放牧をすることができないため一時貸し付けようとする場合
  • 事業を行う者がその土地をその世帯員等に貸し付けようとする場合、その土地を水田裏作(田において稲を通常栽培する期間以外の期間稲以外の作物を栽培することをいう)の目的に供するため貸し付けようとする場合
  • 農地所有適格法人の常時従事者たる構成員がその土地をその法人に貸し付けようとする場合

権利を取得しようとする者又はその世帯員等がその取得後において行う耕作又は養畜の事業の内容並びにその農地又は採草放牧地の位置及び規模からみて、農地の集団化、農作業の効率化その他周辺の地域における農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合

(農地法第3条第2項第7号)

農地には地域全体での効率的・総合的な利用という観点が重視されているため、これらに支障が生ずるおそれがあるケースを極力排除するようにしています。これには主に以下のようなケースが想定されます。(地域との調和要件)

  • 効率的な利用上まとまっている農地を分断するような場合
  • 他の農家の営農活動を阻害するような場合
  • 無農薬栽培の推進、特定品目の生産等、地域が一体的に取り組む独自の営農活動を阻害する場合
  • 農地の借賃を著しく釣り上げるおそれのあるような条件を設定する場合

3条許可と契約解除権・取消権

契約に錯誤・詐欺などがあったときには、許可取得後であっても契約の無効や取消を主張することができます。この場合において、はじめから取引がなかった状態に戻すような行為には3条許可は不要です。取引が無効となる以上、権利者に変動は生じないため、わこのような取り扱いになります。

3条許可の手続き

手続きの流れ

尼崎市の許可までの流れ
出典元:尼崎市公式サイト

申請は農地が所在する農業委員会に対して行います。各自治体によって求められる事項に違いがあるため、詳細については農地所在地の農業委員会に確認をするようにしましょう。

また、許可の申請は原則として契約の当事者双方が署名して行います。ただし、競売・公売・遺贈等の単独行為や判決による権利の移転などの場合には、権利を取得する者のみの署名で足ります。

必要となる書類

許可申請書のほか、各種図面(位置図・公図・平面図)、登記簿謄本、住民票、資金証明書、作付計画書などが必要となることもあります。この辺りについても各自治体による違いがありますので事前にしっかりと確認するようにしましょう。

標準処理期間

申請書の提出後、おおむね3~4週間程度で許可(不許可)処分がなされます。許可されれば許可通知を受け取ることができ、この時点でようやく権利の移転・設定が確定します。

まとめ

農地に関しては、所有者に変更があるだけでもこれだけ複雑な規制が設けられています。これだけ見ても政策がいかに農業を重視しているかが伝わってくると思います。

兵庫県や大阪府でも、都心部から離れた地域になると、農地法とバッティングする機会が結構出てきます。転用を含め、農地の取得や売買をご検討の皆さまは、弊所までぜひお気軽にご相談ください。

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