古民家で旅館・民泊をはじめる際の注意点
日本の伝統的な建築手法や生活様式を今に伝える古民家や、これを活用した旅館・民泊は、海外の観光客を中心に人気を集めています。弊所は旅館業や民泊の申請に携わる機会の多い行政書士事務所ですが、古民家を活用した旅館・民泊についても、たびたびご相談のをいただくコンテンツのひとつとなっています。
他方、古民家を利用する上では、古民家ならではの注意点がたくさんあるため、見切り発車での物件選びは大きなリスクとなり得ます。
そこで本稿では、古民家を旅館や民泊に活用する際の注意点について、詳しく解説していきたいと思います。
旅館と民泊の違い
旅館業法では、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」を旅館業として定義しています。人を宿泊させることが旅館業の該当要件であることから、生活の本拠を置くアパートや間借り部屋を賃貸する行為は旅館業には該当しません。また、寝具を提供しない場合や、宿泊料を徴収しない場合も旅館業には該当しないことになります。
これに対して民泊とは、一般的に「自宅の一部や空き別荘、マンションの空室などを活用して宿泊サービスを提供するもの」とされています。さらにひとくくりに民泊とはいっても、実務上は以下の3タイプが混在しており、それぞれの形態に応じた手続きを行う必要があります。
事業形態 | 手続き | 難易度 |
---|---|---|
簡易宿所 | 許可 | 高 |
特区民泊 | 認定 | 中 |
住宅宿泊事業 | 届出 | 低 |
上記のうち、純粋に旅館業法の適用を受ける旅館業は簡易宿所のみであり、特区民泊及び住宅宿泊事業については、旅館業の規定の大部分が適用除外とされています。
実務上、古民家を活用した宿泊事業では、簡易宿所として旅館業の営業許可を取得するケースが一般的であるように思いますが、事業内容、規模等も踏まえ、営業形態を選択するようにしてください。
旅館業や民泊(特区民泊、住宅宿泊事業)の許可や届出を行わずに宿泊サービスの提供を行っている場合は旅館業法違反となります。
また、許可や届出を行っていても、その実態が法令の要件に逸脱している場合は行政指導の対象となり、場合によっては旅館業法違反となる可能性があるためご注意ください。
建築基準法
古民家は基本的に建築基準法の施行前に竣工した戸建住宅を指すことが多いため、現行法の基準には適合しない建築物であることは珍しくありません。たとえ竣工当時の基準に適合していたとしても、新たに旅館や民泊として営業するためには、原則として現行法の基準を満たす必要があります。
また、そもそも「旅館業」を営業するのか「民泊」を営業するのかによって要求される構造基準が変わってきます。特に建築物を旅館業として利用する場合は、建物用途が「ホテル又は旅館」に該当し、一般の住宅の構造設備では要件を満たせず、用途変更が必要になる等、手続きが複雑化するケースが多くあります。(旅館業として使用する建物の床面積が200㎡以下の場合、行政への申請は不要)
申請には建築確認検査済証を添付する必要がありますが、これが存在しないケースも多く、その場合には建築士による構造検査を受け、証明書を発行してもらう必要があります。
民泊であったとしても、たとえば古民家の「蔵」等を居室にリノーベーションしようとするときは外気に接し光を採り入れることができる採光窓を設置する必要があったり、急な階段がある場合には階段の寸法を現行法に準拠した構造に変える等の措置を実施する必要に迫られます。
違法な増改築が行われていることも珍しくないため、古民家物件を押さえる際は見切り発車せず、専門家の意見を必ず聴くようにしてください。
消防法
消防法においては、防火対象物を「山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属するもの」と定義しています。
より分かりやすくいえば、「出火して困るもの」はすべて防火対象物に該当することになります。また、1つの防火対象物において、2つ以上の用途を含むものを複合用途防火対象物と呼んでいます。
不特定多数の人が出入りしたり、敷地が広大であったり構造が巨大であったりする防火対象物に対しては、一般的な建造物よりも一段と厳しい防火管理を求められており、さらに消防法施行令では、百貨店、旅館、地下街等不特定多数の者が出入りする防火対象物を、火災が発生した際に人命に危険を及ぼすおそれの大きいものとして、特定防火対象物に指定しています。(消防法施行令別表一5項イ、16項イ)
もちろん古民家であるからと言って消防法の適用が排除されることはなく、現行法の基準に適合させた上で「消防法令適合通知書」の交付を受ける必要があります。たとえば旅館にせよ民泊にせよ、少なくとも誘導灯、自家用火災報知器、消火器の設置はほぼ必須になります。
無難なところで言えば、火が出るガスコンロ等を使用せず、IH化することも選択肢のひとつです。ただし、古民家ゆえにIHの導入を考慮していない構造であることがほとんどなので、専用コンセントを増設する等の対応が必要になる場合があります。
都市計画法
都市計画法では、すでに市街地として栄えている地域や今後市街化が進められる地域を「市街化区域」、市街化を抑制すべき区域を「市街化調整区域」として線引きを行っています。
このうち市街化調整区域は、開発行為や施設の整備を極力行わない定められている地域であることから、この区域内では住宅の建築や営業行為に制限がかかります。
市街化調整区域であっても、古民家であることから、何らかの権利(既存宅地等)により建築されていることは推測できますが、旅館や民泊として転用する場合には改修がほぼ必須であるため、改修を行う際には開発許可を受けなければならないケースが多くあります。
そもそも市街化調整区域内において旅館や民泊を営業することは原則として禁じられているため、多くの自治体では市街化調整区域における申請を認めていません。
いずれにせよ市街化調整区域内にある物件を営業予定施設の候補のひとつとするときは、安価であるからと言って見切り発車で取得することは控え、事前に管轄の行政機関に問い合わせる等するようにしてください。
その他の注意点
古民家では、土地や建物が未登記であることも多いため、表題登記を求められる場合があります。また、井戸水を利用している場合には、水質検査や行政への届出が必要になります。
その他、例えば景観計画区域内において、建築物の新築、増築、改築若しくは移転等の行為をしようとする際は、あらかじめ景観行政団体の長に対し、一定の事項を届け出る必要があります。
各市町村の自治体においても特別な条例が設けられていることが多いため、古民家を居宅以外の用途に転用する際は、計画以前に、とにかくしっかりと事前調査を実施することが重要になります。
古民家宿泊業申請サポート
弊所では、関西圏を中心に、古民家を活用する旅館・民泊に関する事務をサポートさせていただいています。年間300件以上の許認可申請に携わりますが、旅館・民泊の営業許可の取得は、その中でも十八番のひとつとしています。弊所は「話しの分かる行政書士事務所」として、さまざまな事情をくんだ上での柔軟な対応を心がけています。古民家を活用した旅館・民泊の関連事務でお困りの際は、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。
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