防火対象物と防火管理者の選任について

消火用散水栓

防火管理者とは、消防法に定める国家資格であり、その資格を有する者のうち、防火対象物において防火上必要な業務を適切に遂行し、従業員を管理・監督・統括できる地位にある者として、防火対象物の管理権原者から選任され、その防火対象物の防火上の管理・予防・消防活動を行う者を言います。

一定規模の防火対象物の管理権原者は、有資格者の中から防火管理者を選任し、防火管理業務を行わせなければならないものとされています。

防火対象物

防火対象物は、山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属するものと定義されています。

多数の人が出入りしたり、敷地が広大もしくは構造が巨大である建築物では、火災発生時に甚大な被害が生じるおそれがあることから、必要な措置を講ずるため、一般建造物よりも厳しい防火管理が求められています。消防法施行令では、防火対象物の全般的な危険性を基準上で考慮し、戸建住宅を除き、ほぼすべての建築物及び工作物について、以下のように細かく用途区分が設けられています。(別表第1)

防火対象物

また、防火対象物は、その用途によって、以下のとおり「特定防火対象物」「不特定防火対象物」に大別されています。

特定防火対象物不特定多数の人が利用する用途の防火対象物
非特定防火対象物特定の人(従業員、作業員など)が利用する用途の防火対象物

防火管理者が必要な防火対象物

防火管理者を選任しなければならない対象物は、その防火対象物に出入りし、勤務し、又は居住する者の数(収容人員)により定められており、その規模により「甲種防火対象物」と「乙種防火対象物」とに区分されています。

火災発生時に自力で避難することが著しく困難な者が入所する社会福祉施設等のうち、防火対象物全体の収容人員が10人以上のもの
劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院など不特定多数の人が出入りする用途(特定用途)がある防火対象物のうち、防火対象物全体の収容人員が30人以上のもの(上記を除く)
共同住宅・学校・工場・倉庫・事務所などの用途(非特定用途)のみがある防火対象物のうち、防火対象物全体の収容人員が50人以上のもの
新築工事中の建築物で収容人員が50人以上のもののうち、総務省令で定めるもの
建造中の旅客船で収容人員が50人以上のもののうち、総務省令で定めるもの
同一敷地内の屋外タンク貯蔵所又は屋内貯蔵所で、その貯蔵する危険物の数量の合計が指定数量の1,000倍以上のもの
指定可燃物を貯蔵し、又は取り扱う防火対象物で、床面積の合計が1,500㎡以上のもの
50台以上の車両を収容する屋内駐車場
車両の停車場のうち、地階に乗降場を有するもの
防火対象物と防火管理者の資格区分

防火管理者

管理権限者・防火管理者

防火管理者とは、火災による防火対象物の被害を防止するために必要な安全対策を定め、防火管理上必要な業務を行う責任者のことです。防火管理者には防火対象物と同様に、「甲種防火管理者」と「乙種防火管理者」の資格区分があり、防火対象物の用途・規模などにより選任することのできる資格が異なります。

前項で説明した防火管理者が必要な防火対象物の管理権限者は、有資格者の中から防火管理者を選任し、防火管理業務を行わせなければならないこととされています。また防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出ることも必要となります。これは防火管理者を解任したときも同様です。

なお、1つの防火対象物において、2つ以上の用途を含む複合用途防火対象物については、防火管理者とは別に、統括防火管理者を設置する必要があります。

防火管理者の資格

  1. 防火管理業務を適切に遂行することができる管理的、監督的地位にあること
  2. 防火管理上必要な知識・技能を有していること

管理的、監督的地位とは、具体的には総務部長、係長、工場長など現場において従業員や居住者を管理監督する立場にある者を指します。なおこの要件は、防火管理者に選任されるときの要件であり、防火管理者講習を受講するための要件ではありません。

知識・技能の習得は、一般的には「防火管理講習」の過程を修了することにより行われますが、以下の学識経験者については、講習を受講することなくこの要件を満たすことができます。

  1. 市町村の消防職員で、管理的又は監督的な職に一年以上あった者
  2. 労働安全衛生法に規定する安全管理者として選任された者
  3. 防火対象物点検資格者講習の課程を修了し、免状の交付を受けている者
  4. 危険物保安監督者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者
  5. 鉱山保安法の規定により保安管理者又は保安統括者として選任された者
  6. 国若しくは都道府県の消防の事務に従事する職員で、1年以上管理的又は監督的な職にあった者
  7. 警察官又はこれに準ずる警察職員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
  8. 建築主事又は一級建築士の資格を有する者で、1年以上防火管理の実務経験を有する者
  9. 市町村の消防団員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者

防火管理講習

防火管理講習は、「都道府県知事」「消防本部及び消防署を置く市町村の消防長」「総務大臣登録講習機関」が、以下の3区分で開催するものとされています。いずれを受講するかは受講者の自由で、講習修了資格についても全国共通のものとなります。

なお、甲種防火管理講習修了者はすべての防火対象物で防火管理者に選任することができますが、乙種防火管理講習修了者は、防火管理者に選任することができる防火対象物が、比較的小規模なものに限られています。

種別概要講習時間内容
甲種防火管理新規講習甲種防火管理者の資格を取得するための講習おおむね10時間(2日間)①防火管理の意義及び制度
②火気管理、施設・設備の維持管理
③防火管理に係る訓練及び教育
④防火管理に係る消防計画など
乙種防火管理講習乙種防火管理者の資格を取得するための講習おおむね5時間(1日)上記の講習事項のうち、基礎的な知識及び技能
甲種防火管理再講習収容人員300人以上の特定用途防火対象物の甲種防火管理者が受講する講習おおむね2時間(半日)最近の法令改正の概要 火災事例研究

まとめ

許認可を必要とする営業の店舗や事業所では、その手続き内において消防法による規定とバッティングすることがあります。たとえば、福祉施設や医療機関、遊技場等の新規開設では、消防署による立入検査がほぼマストで行われています。火災などの災害は無いに越したことはありませんが、リスクはしっかりと把握する必要があり、何よりも未然に防止するという観点が重要です。「手続きに必要だから」ではなく、常日頃から防災意識を持って災害に備えることを心がけるようにしましょう。

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