旅館業における消防法上の基準と手続きについて│消防法令適合通知書とは
旅館・ホテル営業を開始するためには旅館業として都道府県知事の許可を受ける必要がありますが、申請の際にはどの自治体でも「消防法令適合通知書」を提出するよう求められます。改めて説明するまでもなさそうですが、この書面は宿泊施設として使用する建物が消防法令に適合していることを管轄の消防本部が確認して通知するものです。
宿泊施設を新築するのであればともかく、築年数が相当に経過している建物の場合は、新築当時は基準に適合していたとしても、現行の法令では基準に適合しなくなっていることも考えられます。これは元々旅館であった居抜物件であっても同様です。
そこで本稿では、旅館業を開始するために避けては通れない消防法令の基準や手続上の注意点について、できる限り分かりやすく解説していきたいと思います。
目 次
消防法令による規制
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(消防用設備等)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従って、設置し、及び維持しなければならない。
(消防法第17条第1項)
消防法においては、防火対象物を「山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属するもの」と定義しています。
より分かりやすくいえば、「出火しては困るもの」はすべて防火対象物に該当することになります。また、1つの防火対象物において、2つ以上の用途を含むものを複合用途防火対象物と呼んでいます。
上記の条文は、多数の人が出入りしたり、敷地が広大であったり構造が巨大であったりする防火対象物に対して、一般的な建造物よりも一段と厳しい防火管理を求める規定です。
さらに消防法施行令では、百貨店、旅館、地下街等不特定多数の者が出入りする防火対象物を、火災が発生した際に人命に危険を及ぼすおそれの大きいものとして、特定防火対象物に指定しています。(消防法施行令別表一5項イ、16項イ)
消火器具
延べ面積150㎡以上の旅館・ホテル・宿泊施設(以下、旅館等)では、消火器又は簡易消火用具(消火器具)を設置する必要があります。
延べ面積が150㎡未満であっても、地階、無窓階又は3階以上の階で、床面積が50㎡以上のものについては、その部分についてやはり消火器具を設置する必要があります。
なお、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備又は粉末消火設備を技術上の基準に従い、又は当技術上の基準の例により設置したときは、消火器具の設置個数を減少することができます。
屋内消火栓設備
屋内消火栓設備とは、火災の初期消火を目的としたもので、人が操作して使用する設備です。延べ面積700㎡以上の旅館等では、屋内消火栓設備を設置する必要があります。また、地階、無窓階又は4階以上の階で、床面積が150㎡以上のものについても同様です。
屋内消火栓設備には1号消火栓、易操作性1号消火栓、及び2号消火栓がありますが、旅館等では比較的操作が容易な2号消火栓が設置されていることが多いです。
なお、上記の延べ面積の数値は、主要構造物を耐火構造とし、内装制限したものは「3倍」、主要構造物を耐火構造としたもの又は準耐火建築物で内装制限したものは「2倍」の数値とすることができます。
★技術上の基準
屋内消火栓設備の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- 屋内消火栓は、階ごとに、その階の各部分からホース接続口までの水平距離が25m(複合用途防火対象物である場合は15m)以下となるように設けること
- 屋内消火栓設備の消防用ホースの長さは、ホース接続口からの水平距離が25m(複合用途防火対象物である場合は15m)の範囲内の階の各部分に有効に放水することができる長さとすること
- 水源は、その水量が屋内消火栓の設置個数が最も多い階における設置個数(設置個数が2を超えるときは2とする)に2.6㎥(複合用途防火対象物である場合は1.2㎥)を乗じて得た量以上の量となるように設けること
- 屋内消火栓設備は、いずれの階においても、階のすべての屋内消火栓(設置個数が2を超えるときは2個の屋内消火栓とする)を同時に使用した場合に、それぞれのノズルの先端において、放水圧力が0.17Mpa(複合用途防火対象物である場合は0.25Mpa)以上で、かつ、放水量が130l/分(複合用途防火対象物である場合は60l/分、ホースの長さをホース接続口からの水平距離が25mの範囲内の階の各部分に有効に放水することができる長さとする場合は80l/分)以上の性能のものとすること
- 水源に連結する加圧送水装置は、点検に便利で、かつ、火災等の災害による被害を受けるおそれが少ない箇所に設けること
- 屋内消火栓設備には、非常電源を附置すること
- 複合用途防火対象物である場合、屋内消火栓設備の消防用ホースの構造は、一人で操作することができるものとして総務省令で定める基準に適合するものとすること
スプリンクラー設備
以下の構造を有する旅館等では、スプリンクラー設備を設置する義務があります。
- 地階を除く階数が11以上のもの(総務省令で定める部分を除く)
- 平屋建以外の防火対象物で総務省令で定める部分以外の部分の床面積の合計が6,000㎡以上のもの
- 地階、無窓階又は4階以上10階以下の階(総務省令で定める部分を除く)で、階の床面積が、地階又は無窓階にあっては1,000㎡以上、4階以上10階以下の階にあっては1,500㎡以上のもの
- 複合防火対象物である旅館等で、旅館等の用途に供される部分(総務省令で定める部分を除く)の床面積の合計が3,000㎡以上のものの階のうち、その部分が存する階
なお、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備又は粉末消火設備を技術上の基準に従い、又は当該技術上の基準の例により設置したときは、これらの設備の有効範囲内の部分についてスプリンクラー設備を設置しないことができます。
★技術上の基準
スプリンクラー設備の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- スプリンクラーヘッドは、総務省令で定める部分に、それぞれ設けること
- 天井又は小屋裏に、天井又は小屋裏の各部分から一のスプリンクラーヘッドまでの水平距離が、以下の距離となるように、総務省令で定める種別のスプリンクラーヘッドを設けること
耐火建築物 | 2.3m(高感度型ヘッドにあっては、スプリンクラーヘッドの性能に応じ総務省令で定める距離)以下 |
耐火建築物以外の建築物 | 2.1m(高感度型ヘッドにあっては、当該スプリンクラーヘッドの性能に応じ総務省令で定める距離)以下 |
平屋建以外の防火対象物で、総務省令で定める部分以外の部分の床面積の合計が3,000㎡以上のもの又はその部分 | 1.7m以下 |
- 開口部(10階以下の部分にある開口部にあっては、延焼のおそれのある部分に限る)には、防火対象物の10階以下の部分にある開口部で防火戸、ドレンチャーその他火炎を遮る設備(通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)に火炎を出さないもの又は国土交通大臣の認定を受けたものに限る)が設けられているものをの、その上枠に、上枠の長さ2.5m以下ごとに一のスプリンクラーヘッドを設けること
- スプリンクラー設備には、その水源として、防火対象物の用途、構造若しくは規模又はスプリンクラーヘッドの種別に応じ総務省令で定めるところにより算出した量以上の量となる水量を貯留するための施設を設けること
- スプリンクラー設備は、防火対象物の用途、構造若しくは規模又はスプリンクラーヘッドの種別に応じ総務省令で定めるところにより放水することができる性能のものとすること
- スプリンクラー設備には、点検に便利で、かつ、火災等の災害による被害を受けるおそれが少ない箇所に、水源に連結する加圧送水装置を設けること
- スプリンクラー設備には、非常電源を附置し、かつ、消防ポンプ自動車が容易に接近することができる位置に双口形の送水口を附置すること
- スプリンクラー設備には、補助散水栓を設けることができること
自動火災報知設備
自動火災報知設備とは、自動火災報知設備は、感知器を用いて火災により発生する熱や煙を自動的に検知し、受信機、音響装置を鳴動させて建物内に報知することにより、避難と初期消火活動を促す設備です。
旅館等では自動火災報知設備を設置する必要があります。また、複合用途防火対象物である旅館等については、以下に該当する場合には自動火災報知設備を設置する必要があります。
- 延べ面積300㎡以上の複合用途防火対象物である場合
- 旅館等の用途に供される部分が避難階以外の階に存する防火対象物で、その避難階以外の階から避難階又は地上に直通する階段が2(階段が屋外に設けられ、又は総務省令で定める避難上有効な構造を有する場合にあっては1)以上設けられていないもの
- キャバレー、ナイトクラブなどの風俗営業に類する営業の用途に供される部分が存する複合用途防火対象物である旅館等であって、地階又は無窓階で、旅館等の用途に供される部分の床面積の合計が100㎡以上のもの
なお、一般家庭に設置されていることの多い「住宅用火災警報器」とは別物であるという点については注意が必要になります。
★技術上の基準
自動火災報知設備の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- 自動火災報知設備の警戒区域は、防火対象物の2以上の階にわたらないものとすること(総務省令で定める場合を除く)
- 一の警戒区域の面積は、600㎡以下とし、その一辺の長さは、50m以下(光電式分離型感知器を設置する場合にあっては100m以下)とすること(防火対象物の主要な出入口からその内部を見通すことができる場合にあつては、その面積を1,000㎡以下とすることができる)
- 自動火災報知設備の感知器は、天井又は壁の屋内に面する部分及び天井裏の部分(天井のない場合にあっては、屋根又は壁の屋内に面する部分)に、有効に火災の発生を感知することができるように設けること(主要構造部を耐火構造とした建築物にあっては、天井裏の部分に設けないことができる)
- 自動火災報知設備には、非常電源を附置すること
ガス漏れ火災警報設備
以下に該当する旅館等では、総務省令で定める部分を除き、ガス漏れ火災警報設備を設置する必要があります。
- 地階で床面積の合計が1,000㎡以上のもの
- 複合用途防火対象物の地階のうち、床面積の合計が1,000㎡以上で、かつ、旅館等の用途に供される部分の床面積の合計が500㎡以上のもの
- 収容人員が総務省令で定める数に満たないものを除き、その内部に、温泉の採取のための設備で総務省令で定めるもの(温泉法に基づく確認を受けた者が温泉の採取の場所において温泉を採取するための設備を除く)が設置されているもの
★技術上の基準
ガス漏れ火災警報設備の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- ガス漏れ火災警報設備の警戒区域は、総務省令で定める場合を除き、防火対象物の2以上の階にわたらないものとすること
- 一の警戒区域の面積は、総務省令で定める場合を除き、600㎡以下とすること
- ガス漏れ火災警報設備のガス漏れ検知器は、有効にガス漏れを検知することができるように設けること
- ガス漏れ火災警報設備には、非常電源を附置すること
漏電火災警報器
漏電火災警報器とは、漏電を検知して警報を発報する装置です。以下に該当する旅館等では、間柱若しくは下地を準不燃材料以外の材料で造った鉄網入りの壁、根太若しくは下地を準不燃材料以外の材料で造った鉄網入りの床又は天井野縁若しくは下地を準不燃材料以外の材料で造った鉄網入りの天井を有するものに建築物の屋内電気配線に係る火災を有効に感知することができるように漏電火災警報器を設置する必要があります。
- 延べ面積150㎡以上の旅館等
- 延べ面積500㎡以上で、かつ、旅館等の用途に供される部分の床面積の合計が300㎡以上の複合用途防火対象物である旅館等
- 契約電流容量が50Aを超える旅館等
消防機関へ通報する火災報知設備
延べ面積500㎡以上の旅館等は、消防機関へ通報する火災報知設備を設置する必要があります。ただし、消防機関から著しく離れた場所、消防機関からの歩行距離が500m以下である場所、又は消防機関が存する建築物内(複合用途防火対象物である旅館等であって消防法施行令別表一6項イ(1)又は(2)に掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る)にある旅館等は除きます。
非常警報設備
収容人員20人以上の旅館等は、非常ベル、自動式サイレン又は放送設備を設置する必要があります。ただし、自動火災報知設備が技術上の基準に従い、又は技術上の基準の例により設置されているときは、自動火災報知設備の有効範囲内の部分については、これらを設置しないことができます。
また、以下に該当する旅館等は、非常ベル及び放送設備又は自動式サイレン及び放送設備を設置する必要があります。
- 地階を除く階数が11以上のもの又は地階の階数が3以上のもの
- 収容人員が300人以上のもの
- 複合用途防火対象物である旅館等であって、収容人員が500人以上のもの
自動火災報知設備又は総務省令で定める放送設備が技術上の基準に従い、又は技術上の基準の例により設置されているものについては、これらの設備の有効範囲内の部分について非常ベル又は自動式サイレンを設置しないことができます。
★技術上の基準
非常警報器具又は非常警報設備の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- 非常警報器具又は非常警報設備は、防火対象物の全区域に火災の発生を有効に、かつ、すみやかに報知することができるように設けること
- 非常警報器具又は非常警報設備の起動装置は、多数の者の目にふれやすく、かつ、火災に際しすみやかに操作することができる箇所に設けること
- 非常警報設備には、非常電源を附置すること
避難器具
旅館等の2階以上の階又は地階で、収容人員が30人(下階に消防関連施行令別表一1項から4項まで、9項、12項イ、13項イ、14項又は15項に掲げる防火対象物が存するものにあっては10人)以上のものは、避難階及び11階以上の階を除き、避難器具を設置する必要があります。
★技術上の基準
避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準は以下のとおりです。
- 避難器具を設置すべき階には、それぞれの階に適応するものとされる以下の避難器具のいずれかを、収容人員が100人以下のときは1個以上、100人を超えるときは100人までを増すごとに1個を加えた個数以上設置すること(防火対象物の位置、構造又は設備の状況により避難上支障がないと認められるときは、その設置個数を減少し、又は避難器具を設置しないことができる)
地階 | 避難はしご、避難用タラップ |
2階 | 滑り台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋、滑り棒、避難ロープ、避難用タラップ |
3階 | 滑り台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋、避難用タラップ |
4階 | 滑り台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋 |
6階 | 滑り台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋 |
- 避難器具は、避難に際して容易に接近することができ、階段、避難口その他の避難施設から適当な距離にあり、かつ、器具を使用するについて安全な構造を有する開口部に設置すること
- 避難器具は、上記の開口部に常時取り付けておくか、又は必要に応じて速やかに開口部に取り付けることができるような状態にしておくこと
誘導灯及び誘導標識
旅館等又は複合用途防火対象物である旅館等は、避難が容易であると認められるもので総務省令で定めるものを除き、以下の区分に従って誘導灯及び誘導標識を設置する必要があります。
避難口誘導灯 | 旅館等、複合用途防火対象物である旅館等 |
通路誘導灯 | 旅館等、及び複合用途防火対象物である旅館等の地階、無窓階及び11階以上の部分 |
客席誘導灯 | 複合用途防火対象物である旅館等 |
誘導標識 | 旅館等、複合用途防火対象物である旅館等 |
消防法令適合通知書
消防法令適合通知書は、宿泊施設として使用する建物が消防法令に適合していることを管轄の消防本部が確認して通知するものです。この書面の交付を受けるためには、まずは消防設備の配置図等を管轄の消防本部へ持参し、事前協議を行った上で申請し、確認のための現地調査を経る必要があります。
旅館業許可申請時にはほぼすべての自治体で添付することを求められる書面なので、旅館・ホテル営業の予定地が定まれば、(契約前に)まずは何よりも先立って管轄の消防本部に問い合せわることから始めるようにしましょう。
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