小規模事業者持続化補助金の計画書の書き方のポイントと具体的な事例検討

手助けする人

補助金は、国や自治体が事業者の取組みに対し、資金の一部を給付する制度です。補助金ごとに目的や趣旨が異なるため、取り組もうとする事業にマッチする補助金を探し当てるのは、それだけでも大変骨の折れる作業です。

その中でも、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)は、通年で公募が行われていることからも比較的メジャーな存在で、汎用性が高いことも相まって、様々な事業形態に馴染みやすい補助金であるように思います。

他方、補助金の交付申請をする際に、最も高い心理的ハードルとなっているのが、申請書の指定様式にある「経営計画」「補助事業計画」の存在ではないかと推察します。

補助金の取扱説明書となる公募要領も、内容が大ボリュームで、なおかつ記載内容が専門的であることから、「何だか難しそう」という印象だけを残し、申請を断念してしまったというケースも多く耳にします。

そこで本稿では、この「経営計画」と「補助事業計画」という2つの計画書の書き方について、事例を交えながら詳しく解説していきたいと思います。

申請書の様式

ペンを持つ手とノート

以下は小規模事業者持続化補助金<一般型>における申請書類となります。単独申請・共同申請の別にダウンロードして使用できるようにしています。(すべてWord形式)

また、リンク先の小規模事業者持続化補助金事務局(以下、事務局)の特設サイト(外部サイト)では、様式記載例(PDF)が参考資料として掲載されていますのでご確認ください。

単独申請共同申請
持続化補助金事業に係る申請書様式1-1様式1-2
経営計画書兼補助事業計画書①様式2-1様式2-2
補助事業計画書②様式3-1(Excel版) 操作マニュアル
【参考】様式3-1(Word版)
様式3-2
補助金交付申請書様式5様式5(共同申請用)
宣誓・同意書様式6
賃金引上げ枠誓約書様式7
卒業枠誓約書様式8
インボイス枠誓約書(法人用)様式9(法人用)
インボイス枠誓約書(個人事業主用)様式9(個人用)

持続化補助金事業に係る申請書

持続化補助金事業に係る申請書

持続化補助金事業に係る申請書は、いわば申請書類の表紙となる書類です。特に小難しい項目はなく、申請者の基本的な情報を記載します。

経営計画書兼補助事業計画書①

経営計画書兼補助事業計画書①

経営計画書兼補助事業計画書は、申請書類の肝となる書面です。応募者が運営する事業の概要について記入し、確認事項の該当欄にチェックを入れていきます。経営計画及び補助事業計画は、まさに本稿におけるメインディッシュです。詳しい書き方やポイントについては後述することにします。

(経営計画)
経営計画
(補助事業計画)
補助事業計画

補助事業計画書②

補助事業計画書の②は、経費明細表と資金調達方法の2つのブロックに分かれています。経費明細表には、補助対象となる経費について内訳を含めて詳細に記入していきます。資金調達方法には、自己資金、補助金の額、借入金その他について、各項目ごとに記入していきます。

(経費明細表)
経費明細表
(資金調達方法)
資金調達方法

補助金交付申請書

補助金交付申請書

宣誓・同意書

宣誓・同意書

書類作成時の一般的ルール

付箋

計画書の具体的作成方法を解説する前に、まずは申請書類の作成時における一般的ルールについて確認していくことにしましょう。

要点を押さえて簡潔に記載する

自身をPRしようとする際に、あれやこれやを付け加え、過剰にアピールしてしまいがちなのが人間の心理です。しかしながら、蛇足(不必要な部分)の多い計画書はかえって好まれず、むしろマイナスポイントとなってしまうことがあります。

補助金に係る審査は、外部有識者、経済産業局、採択審査委員会によって段階的に行われます。各段階で審査を担当するのはAIではなく人間ですから、読みやすさにも配慮し、要点を押さえて簡潔に記入するようにしてください。

箇条書きが推奨されている

事務局では箇条書きでの記載を推奨しています。もちろん文章で記載することに問題はありませんが、要点を整理する上でも箇条書きを上手く活用することをお薦めします。

写真や図表を活用する

補助事業計画書中にある「補助事業で行う事業名」(30文字以内)以外は、特に文章量に制限は設けられていません。ただし、先に説明したとおり、読みにくい長文は好まれません。この点写真や図表を添付することも自由なので、これらを効果的に使用することで読み手も計画の全体像をイメージしやすくなります。

商工会議所・商工会からアドバイスを受ける

小規模事業者持続化補助金の申請窓口は、商工会議所・商工会です。申請に必要となる事業支援計画書を発行するのも、補助事業を開始してから支援してくれるのもこれらの機関です。そのため各地の商工会議所・商工会においては、会員以外の事業者であっても、小規模事業者持続化補助金についての申請や相談をすることができます。

担当者によって対応はまばらですが、割とあっさりした対応をされることも多い一方で、中には何度も足を運ぶよう促してくる手厳しい方もいらっしゃいます。商工会議所・商工会は、それこそ補助金のプロですから、指摘される点が多い分、それだけ採択の可能性は近づくので、ここは素直にアドバイスを受け入れるようにしましょう。

早めに取り組む

書類の作成や資料の準備には時間がかかります。また、書類の見直しや補正もほぼ必須の作業になります。前述した事業支援計画書の発行にも一定の期間を要するため、少しでも早めに取り組むに越したことはありません。

それでは次からいよいよメインディッシュにかぶりついていきましょう!

経営計画

戦略を練る男性

経営計画は、「企業概要」、「顧客ニーズと市場の動向」、「自社や自社の提供する商品・サービスの強み」、「経営方針・目標と今後のプラン」の4つの項目で構成されています。

①企業概要

企業概要の欄には、企業の概要・沿革基本情報商品構成及び利益構成等について記載します。個人事業主であれば取得済みの関連資格、法人であれば保有する許認可等についても記載します。

会社の外観、事業所内の様子、商品などを写した画像を添付すると事業内容もよりイメージしやすくなります。また、代表者の写真を添付する事例もよく目にします。なお、商工会議所の様式記載例では、売上総額の大きい商品と利益総額の大きい商品を図表にしています。

概要・沿革設立年、基本理念、代表の経歴、後継者の有無や後継者候補の経歴など
基本情報営業時間、人員体制、店舗立地など
商品構成商品やサービスの内容など
利益構成売上とその内訳、客層など

②顧客ニーズと市場の動向

顧客ニーズと市場の動向の欄には、過去・現在・未来にわたる市場の動向と、将来を見据えて顧客が何を求めているのかを分析した結果を記載します。図表を活用すると見やすくなるのでお薦めです。

なお、一般的な市場調査のデータについては、地域経済分析システム(RESAS)(外部サイト)のご利用が便利です。

顧客ニーズ顧客(消費者・取引先)が求めている商品・サービス
市場の動向属する業界の歴史・現状・見通し、競合他社の存在、顧客の増減など

③自社や自社の提供する商品・サービスの強み

自社や自社の提供する商品・サービスの強みの欄には、独自のアイデアや商品により、既存顧客から評価されている点について記載します。ここでも図表やデータを効果的に活用すると、視覚的にもきれいにまとまった計画になります。

自社の強み他社と比較して自社の商品・サービスが優れている点
顧客の評価お客様の声、お客様アンケートの結果、メディアでの掲載実績など

④経営方針・目標と今後のプラン

経営方針・目標と今後のプランの欄には、①から③までの計画をすべて踏まえた上で、これからの経営方針及び具体的な数値目標等について記載していきます。「〇年までに来店客数〇%増、客単価○○円」といった数字だけではなく、「企業イメージの向上」といった無形の目標についても記載します。

経営方針経営計画に基づくこれからの経営方針
目標3〜5か年計画での数値目標(顧客数や客単価の増加など)

補助事業計画

ビジネスピープル

補助事業計画書は、補助金の交付を受けて取り組もうとする事業について記載する書面です。「補助事業で行う事業名」、「販路開拓等(生産性向上)の取組内容」、「業務効率化(生産性向上)の取組内容」、「補助事業の効果」の4つの項目で構成されています。

①補助事業で行う事業名

事業名の欄には、たとえば「○○の開発・販路開拓」のような事業名を30文字以内で記入します。独創的な事業名をつけようとされる事業者さまも多くありますが、この点において体感的には、事業名が採択結果に影響することはあまり無いように思います。

②販路開拓等(生産性向上)の取組内容

販路開拓等(生産性向上)の取組内容の欄には、補助事業の概要従来の取組との違い創意工夫した点・特徴事業の具体的な進め方等について記載します。

事業概要自社の強みを利用した事業の展開方法、顧客のニーズに沿った事業のPRなど
従来の取組との違い自社における従来の取組との相違点、競合他社の同様の取組との違いや優位な点など
創意工夫した点・特徴取組にあたって工夫した点、独創的な視点など
事業の具体的な進め方担当者ごとの役割分担、具体的な方法など

③業務効率化(生産性向上)の取組内容

業務効率化(生産性向上)の取組内容の欄は任意記入ですが、業務効率化によって、従業員の労働環境を改善するなどの取組があれば記入します。

④補助事業の効果

補助事業の効果の欄には、補助事業実施による売上等への影響のほか、取引先や地域社会への波及効果について記載します。

売上等への効果補助事業実施による顧客数・売上・利益率などの増加見込みなど
波及効果補助事業実施により取引先や地域社会にもたらすポジティブな影響など

計画書に盛り込むべき要素

黒板に書かれたポイントの文字とひらめきアイコン

計画書に事実と目標のみを淡々と落とし込んでいても、なかなか採択には結びつきません。採択に近づくため、ひいては事業の持続発展を図るためには、客観性新規性・革新性・独創性社会貢献性といった観点から事業を見つめ直し、計画を策定する必要があります。

客観性

補助金は厳正な審査のもと、公平に採択されるものであって、決して慈善事業ではありません。真に支援を求めていたとしても、主観的な事情を盛り込み過ぎていたり、感情的な文章を書き連ねていると採択は遠ざかってしまいます。

補助事業にかかわらず、計画を策定して実施する際には、客観的な事実やデータを分析し、実現可能な計画書を準備することが重要です。

新規性・革新性・独創性

補助金の財源は公費(税金)によってまかなわれています。予算には限りがあるため、残念ながら申請者すべてに対して採択が行われる訳ではありません。採択に係る審査は加点方式で行われ、点数が高い方から順ぐりに採択されています。つまり、新規性・革新制・独創性といった観点は、競合となる他の申請者との差別化につながります。

商品やサービス自体に新規性がなくても、販売方法や集客方法等、アイデアは無数に存在しています。計画を策定する際は、これらの観点も重視して計画書を作成するようにしてください。

社会貢献性

社会貢献性とは、補助事業を行うことにより、自己のみならず、多くの他者に対してもメリットをもらすことができる状態やその度合いをいいます。国・自治体は、補助事業がもたらす利益がより多くの方に波及することに期待して、いわば先行投資という形で予算を投入しています。費用対効果の悪い事業に投資することをためらうのは、何も民間人に限ったことではありません。繰り返しになりますが、補助金は慈善事業ではありません。

計画書には、「地域社会への経済効果」や「雇用の創出」といった計画を、具体的内容とともに盛り込むと、採択にグッと近づけることは間違いありません。

事例検討

セッティングされたケーキやマカロン

ツナグ製菓店は、職人気質のオーナーが、常時従業員3名を雇用して切り盛りする街のケーキ屋さんです。オーナーは人当たりが良く、腕も達者なパティシエですが、いかんせん営業が苦手で、いつも資金繰りには苦労しています。

この度オーナーは、新商品の「ドラゴンフルーツケーキ」を開発し、これを看板商品として積極的に販路拡大を図ることにしました。

その資金繰りに困っていたところ、小規模事業者持続化補助金の存在を知り、オーナーは補助金を活用しようと思い立ちました。

ただ、公募要領が難解で、何をどうすれば良いのか、皆目検討がつきません。そんな中、オーナーが薄ぼんやりと思い描いているのは次のとおりです。

①自社サイトを制作したい(自分ではできない)

②商品宣伝のためののぼり旗を購入したい

③ケーキ屋さんNo.1を決めるケーキ1グランプリに出場したい

④従業員の給料を上げてあげたい

⑤古くなったショーケースを交換したい

さて、オーナーはどのような計画書を作成すれば良いのか、そもそも補助金の交付を受けることができるのかなどについて、一緒に考察していくことにしましょう。

補助対象者

まずはツナグ製菓店のオーナーが補助対象者になりうるのかという問題があります。この点において、製菓店は「製造業その他」に分類されており、常時使用する従業員も20人以下であることから、小規模事業者として補助対象者になるように思われます。

期待される補助率等

オーナーは「従業員の給料を上げてあげたい」という思いを抱いています。このことから、オーナーは通常枠での申請の他に、「賃金引き上げ枠」での申請を選択することができるものと思われます。

賃金引上げ枠で申請することにより、補助上限額は50万円から200万円に引き上がり、経費の出費について余裕が持てるようになります。さらにツナグ製菓店の業績が赤字である場合には、補助率が2/3から3/4へ引き上がると共に、政策加点による優先採択が実施されます。

ただし、実際に従業員の給料を上げる必要があるほか、補助対象経費として「従業員の給料」を計上することができないという点については注意が必要になります。

補助対象経費

従業員の給料を補助対象経費に計上することができないことを説明しましたが、他の要望についてもそれぞれ確認していくことにしましょう。

②商品宣伝のためののぼり旗を購入したいという要望については、補助経費中の「広報費」として計上することができるものと考えられます。したがって、のぼり旗の購入は、補助事業の範囲で行えるものと考えていいでしょう。

③ケーキ屋さんNo.1を決めるケーキ1グランプリに出場したいという要望については、「ケーキ1グランプリ」の開催趣旨によるものと考えられます。仮に「ケーキ1グランプリ」が新商品等を展示することに主眼を置いたイベントであれば、出展等に要する費用は補助対象経費(展示会等出展費)に該当するものと思われますが、単なる選考会や審査会である場合には、その費用は補助対象経費に計上することはできません。

⑤古くなったショーケースを交換したいという要望については、補助対象経費としては認められないものと考えます。ただし、衛生向上や省スペース化のためのショーケースの購入であれば、その費用は補助対象経費(機械装置等費)として計上することができるものと思われます。

最後に①自社サイトを制作したいという要望についてですが、ウェブサイトを制作依頼した際の費用は、補助対象経費(ウェブサイト関連費)として計上することができるものと考えます。ただし、補助対象経費に計上できる額の上限は補助金交付申請額の1/4、かつ、補助金確定額の1/4となります。また、50万円(税抜)以上の費用で自社サイトを作成する場合、そのサイトは「処分制限財産」に該当し、一定の期間において処分(補助事業目的外での使用、譲渡、担保提供、廃棄等)することが制限されることになります。

経営計画書の作成

経営計画中の企業概要の欄には、企業の沿革、基本情報、現在の客層と客単価のほか、抜粋した商品一覧を価格とともに記載します。売れ筋商品を写真で紹介するコーナーや、オーナーの作業風景の写真を添えた経歴紹介スペースを設けるのも効果的です。

顧客ニーズと市場の動向の欄には、菓子製造業に対する顧客ニーズの変遷や、菓子製造業市場の動向をデータから抽出・分析して、将来の展望や課題とともに記載します。グラフ等の図表を活用すると見やすくなるのでお薦めです。

自社や自社の提供する商品・サービスの強みの欄には、今までに寄せられたお客様の声や評価などを記載してアピールします。菓子製造業であればGoogleでの評価も参考にすることが可能です。さらにツナグ製菓店には、「ドラゴンフルーツケーキ」という革新的な新商品があるので、写真を添えて大々的にPRすることにしましょう。

経営方針・目標と今後のプランの欄には、計画との間で矛盾が生じない範囲内で、これからの経営方針及び具体的な数値目標等(以下、参照)について記載していきます。

1年後2年後3 年後4年後5年後
来店客数〇%増〇%増〇%増〇%増〇%増
売上〇%増〇%増〇%増〇%増〇%増

補助事業計画書の作成

経営計画書では、まず補助事業で行う事業名を命名します。今回はあまり突拍子もない事業名は控えることにして、「アナログとデジタルを活用した新商品の販売促進事業」(24文字)というシンプルな事業名を命名しました。

販路開拓等(生産性向上)の取組内容の欄には、従来取り組んできた口コミによる集客方法と補助事業で新たに開拓する集客方法との違いや、補助事業の具体的な進め方について記載します。たとえば、自社サイトにはケーキのレシピや旬の果物に関するトリビアを紹介するブログページを設ける予定であることや、「インスタ映え」を意識した新商品を開発する予定であることなどを記載します。

業務効率化(生産性向上)の取組内容の欄には、たとえば閑散期には従業員が店前で広報を行っていたような場合において、補助事業によってその手間がなくなる見込みであることなどを記載します。

補助事業の効果の欄には、補助事業実施による売上等への影響のほか、たとえば所属する商店街への波及効果について、矛盾を生じさせることなく実現可能な範囲内で記載します。

まとめ

補助金の財源は元を正せば税金ですから、手続きにあえて複雑な仕組みを採用して高いハードルを設けていることについては、制度上仕方ないことのように思います。

補助金をお探しの皆さまも、「ダメ元で申請して、貰えればラッキー♪」というような感覚ではなく、補助金の目的や趣旨をしっかりと把握した上で、その必要性を見極めながら活用の検討をするように心がけましょう。

弊所では、そんな皆さまに対して、しっかりと寄り添ったサポートプランを用意しております。外部との連携をフル活用し、迅速かつ丁寧なサポートをお約束します。補助金の交付申請でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者自らが自社の経営を見つめ直し、経営計画を作成した上で行う販路開拓の取組を支援するものです。外部のサポートを受けること自体は問題ありませんが、申請の丸投げは認められていません。弊所が関与する際も、役割分担を明確にしながら適切にサポートさせていただきます。

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