灌漑(かんがい)とは│農地転用・河川法許可が必要になるケースを行政書士が解説

農地転用や河川法の許可申請について調べていると、必ずと言っていいほど登場するのが「灌漑(かんがい)」という言葉です。日常生活ではあまり馴染みのない用語ですが、河川区域内での工事や農地の転用を検討している方にとっては、許可の要否そのものを左右しかねない重要なキーワードになります。
灌漑という言葉の意味だけを知りたいのであれば、辞書やインターネット検索でもある程度は事足りるかもしれません。しかし実務の現場では、灌漑という言葉の背後に、建設業許可、河川法上の各種許可、農地転用許可といった、複数の法制度が絡み合っています。単に用語の意味を押さえるだけでなく、どのような場面でどの許可が必要になるのかまでセットで理解しておかないと、実際に事業を進める段階で思わぬ手戻りが発生しかねません。
この記事では、灌漑の基本的な意味から、灌漑に関連する工事を行う際に必要となる許可・手続きまで、行政書士としての実務目線でまとめて解説していきます。すでに具体的な工事や転用を計画されている方はもちろん、まだ情報収集の段階という方にも、全体像を掴んでいただける内容になっています。
灌漑とは
灌漑とは、河川、湖沼、地下水などの水源から、農地へ人工的に水を供給するシステムのことを指します。日本の地形は山地が険しく平野部が少ないため、たとえまとまった降雨があったとしても、その水は短期間のうちに海へ流出してしまうという特性を持っています。そのため、日本の農業は昔から常に干ばつへの備えを必要としてきた歴史があり、灌漑はその備えの中核を担う仕組みとして発展してきました。
灌漑の主目的は、土壌の乾燥を防ぎ、農作物の生育に適した環境を維持することにあります。ただし、灌漑が果たしている役割はそれだけにとどまりません。気温が急激に下がる時期には、灌漑によって供給された水が作物を霜害から守る役割を果たしますし、継続的な水の供給は土壌が固く締まってしまう「圧密」と呼ばれる現象を防ぐ効果も持っています。つまり灌漑は、単なる水やりのシステムではなく、農地の環境そのものを維持管理するためのインフラだと捉えることができます。
具体的な供給方法は、農地の種類によって異なります。水田では主に河川に取水口と堰(せき)を設け、用水路を通じて安定的に水を導く方式が取られます。一方、畑地の場合はダムから吐水槽に貯めた水を、自然流下によって「ファームポンド」と呼ばれる小規模な貯留施設にいったん蓄え、そこから各耕作地へ引き込んだ水をスプリンクラーなどで給水するのが一般的です。水田と畑地とでは求められる水量や供給のタイミングが異なるため、こうした仕組みの違いが生まれています。
灌漑工事とは
灌漑工事とは、灌漑用の施設を新たに建設したり、それに付随して河川や湖沼を開発したりする行為のことをいいます。灌漑施設本体の建設だけでなく、それに関連する護岸工事なども広義には灌漑工事の範疇に含まれると考えられており、想定より対象範囲が広くなりやすい点には注意が必要です。
建設業の業種区分においては、灌漑工事は「土木一式工事」に該当します。そのため、請負代金が500万円(消費税込み)以上となる工事を施工する場合には、事前に建設業許可を取得しておかなければなりません。500万円という金額は決して大きな規模の工事でなくても超えてしまうことがあるため、着工前の段階で許可の要否を確認しておくことが重要です。
さらに、灌漑工事の実施にあたっては、その内容や規模に応じて、河川法上の手続きや農地法上の手続きが別途必要となる場合があります。これらの手続きは建設業許可とは別個のものであり、しかも複数の手続きが重複して必要になることも珍しくありません。いずれも所管する行政機関が異なり、審査基準や必要書類もそれぞれ独自に定められているため、実務上は難解かつ煩雑なプロセスになりがちです。
| 河川法上の手続き | 流水の占用の許可 | 河川の流水を占用しようとする場合 |
| 流水の占用の登録 | 許可を受けた水利使用のために取水した流水のみを利用する発電のために河川の流水を占用しようとする場合 | |
| 土地の占用の許可 | 河川区域内の土地を占用しようとする場合 | |
| 土石等の採取の許可 | 河川区域内の土地において土石を採取しようとする場合 | |
| 工作物の新築等の許可 | 河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする場合 | |
| 土地の掘削等の許可 | 河川区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を変更する行為又は竹木の栽植若しくは伐採をしようとする場合 | |
| 竹木の流送等の許可 | 河川における竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航をしようとする場合 | |
| 河川管理上支障を及ぼすおそれのある行為の許可 | 河川の流水の方向、清潔、流量、幅員又は深浅等について、河川管理上支障を及ぼすおそれのある行為をしようとする場合 | |
| 農地法その他の手続き | 開発許可 | 都市計画が定められている区域内で一定以上の面積で開発行為を行おうとする場合 |
| 農地転用許可 | 農地を農地以外の用途に転用しようとする場合 |
手続きが重複しやすい理由
灌漑工事は、その性質上、河川法と農地法の両方にまたがるケースが非常に多い工事です。たとえば、農業用水路を新設するために河川から取水しようとすれば、河川法に基づく「流水の占用の許可」が必要になります。そして、その水路が通過する土地が農地であった場合には、あわせて農地法上の「農地転用許可」も必要になってくるといった具合に、複数の手続きが同時並行で発生することが珍しくありません。
厄介なのは、これらの手続きがそれぞれ独立した制度として設計されている点です。所管する行政機関も、必要書類も、審査にかかる期間も、手続きごとにばらばらに定められています。そのため、これらを自己判断で一つずつ個別に進めていくと、ある手続きの途中で別の手続きの必要性に気づき、そこから許可漏れが発覚して手戻りが発生したり、想定していたスケジュールから着工が大幅に遅れてしまったりするリスクが常につきまといます。
こうしたリスクを避けるためには、着工前のできるだけ早い段階で、河川法や農地法の両方に精通した行政書士に相談し、その事業でどの手続きが必要になるのかを漏れなく洗い出したうえで、全体のスケジュールをあらかじめ組み立てておくことが極めて有効です。個別の手続きに詳しくても、それらを横断的に整理できる専門家でなければ、結局は対応が後手に回ってしまうことも少なくありません。
まとめ
灌漑は、農地を守るための水利システムであると同時に、それに関連する工事を行う際には、建設業許可、河川法上の許可、農地転用許可といった複数の制度が絡んでくる分野でもあります。用語としての意味を理解するだけでなく、自分が計画している工事や転用がどの手続きに該当するのかまで把握しておくことが、円滑な事業の進行には欠かせません。
弊所では、灌漑工事や農地転用、河川法上の許可申請に関するご相談を承っております。どの手続きが必要になるのか見通しが立っていない段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。


