小水力発電と流水占用登録申請について
農業用水、水道用水、工業用水、水力発電などの目的に応じて河川の流水を利用することを「水利使用」といいます。河川を流れる水は公共物ですから、このような目的をもって河川の流水を利用しようとする際には、その目的ごとに河川管理者(国又は都道府県)の許可や登録が必要になります。
河川からの取水など、流水を占用しようとする者は、あらかじめ河川管理者に対して流水占用の許可の申請を行う必要がありますが、この許可を受けた水利使用のために取水した流水その他これに類する流水として政令で定めるもののみを利用する発電のために河川の流水を占用しようとする者については、河川管理者の登録を受ける必要があります。
要するに、河川から新たに取水し、小水力発電等を河川区域内で行う場合には、許可申請が必要となる一方で、他の水利使用に従属して発電を行う場合や、ダム等から放流される維持流量等を利用して、新たに減水区間を生じさせることなく発電を行う場合には、河川環境等に新たな影響を与えるおそれが少ないことから、許可よりも簡素化された手続きである登録で足りることとされているわけです。なお、農業用水の排水路や、下水処理水を利用して発電を行う場合など、河川法の手続きが不要な場合もあれば、小水力発電を行う際には河川法以外の関係法令に基づく手続きが必要となる場合もあります。
本稿では、既存の水路工作物等を利用して行う小規模な発電(小水力発電)のために、 水利使用しようとする際に必要となる申請手続と書類の作成方法について解説していきたいと思います。
目 次
流水の占用の登録
流水の占用の許可を受けた水利使用のために取水した流水のみを利用する発電のために河川の流水を占用しようとする者は、河川管理者から登録を受ける必要があります。 河川管理者は、登録の申請があったときは、申請が登録拒否事由に該当することにより登録を拒否する場合を除き、水利台帳に登録を行います。
登録の拒否
申請が次のいずれかに該当する場合、登録を受けることはできません。
- 申請者が河川法の規定に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者であるとき
- 申請者が許可、登録又は承認の取消しを受け、その取消しの日から2年を経過しない者であるとき
- 申請者が法人又は団体であって、その役員が上記のいずれかに該当する者であるとき
- 許可を受けた水利使用のために取水した流水を利用する発電のために河川の流水を占用しようとする場合において、次の者の同意を得ていない場合
- 申請者と当該申請に係る流水の占用に係る発電のために利用する流水の占用について許可を受けた者とが異なるときは、当該許可を受けた者
- 申請者と当該申請に係る流水の占用に係る発電のために利用する流水が放流されるダム又は堰を設置した者とが異なるときは、当該ダム又は堰を設置した者
- 許可を受けた水利使用のために取水した流水を利用する発電のために河川の流水を占用しようとする場合において、河川に新たに減水区間を生じさせる場合
- 申請に係る流水の占用に係る水利使用に関して必要な土地の占用又は工作物の新築等の許可を受ける見込みがない場合
- 申請書又はその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は重要な事項の記載が欠けている場合
手続きの要否
必要な手続きの確認
許可を得ている他の水利使用に従属 | 登録申請 |
ダム等から放流される維持流量等に従属 | 登録申請 |
慣行水利権の期別の取水量が明確であり、従属関係が確認できるもの | 慣行水利権はそのままで従属発電として登録申請 |
慣行水利権の権利内容が不明確であり、従属関係が確認できないもの | 新規の発電水利として許可申請 |
慣行水利権を正式に許可化するとき | 正式な水利権の従属発電として登録申請 |
発電のために河川から新たに取水 | 許可申請 |
河川に新たに減水区間を生じさせるもの | 許可申請 |
魚類の遡上が可能な施設を利用するもの | 許可申請 |
手続きの流れ
登録申請に必要となる書類
- 登録申請書(PDF)
- 欠格事由に該当しない旨の誓約書(PDF)
- 許可を受けた者の同意書の写し(申請者と当該申請に係る流水の占用に係る発電のために利用する流水の占用について許可を受けた者とが異なるとき)
- ダム又は堰を設置した者の同意書の写し(申請者と当該申請に係る流水の占用に係る発電のために利用する流水が放流されるダム又は堰を設置した者とが異なるとき)
- 水利使用に係る事業の計画の概要を記載した図書
- 使用水量の算出の根拠を記載した図書
- 当該申請に係る流水の占用に係る発電のために利用する流水の占用の許可に関する水利使用の目的、許可水量、許可期間、取水口若しくは注水口の位置及び条件を記載した書面(許可に条件が付されている場合)
- 新築等を行うことについて申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地において工作物の新築等を行う場合又は河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する工作物について改築若しくは除却を行う場合)
- 処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面(工作物の新築等に係る行為又は事業に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするとき)
- 許可等の同時申請をすべきところ、これをしないことについてやむを得ない理由があるときは、その理由及び同時に行うべき他の許可の申請の経過又は予定を記載した書面
- その他参考となるべき事項を記載した図書
工作物の新築、改築又は除却を伴う水利使用の許可の申請にあっては、工事計画に係る次の図書(工作物の新築等の許可の申請が含まれていないときは、工事計画の概要を記載した図書)を添付します。
ダムの新築又は改築に関する工事計画
- ダムの新築又は改築に関する工事計画一覧表
- 洪水流量に関する計算書
- ダムの安定に関する計算書
- 施設又は工作物に関する水理計算書
- 施設又は工作物に関する構造計算書
- 背水に関する計算書
- 貯水池容量計算書
- 占用面積計算書
- 降水量表(日降水量、月降水量及び年降水量)
- 最高最低気温表(月の最高気温及び最低気温)
- 水位及び流量表
- 掘削土石処理計画表
- 工程表
- 一般平面図(縮尺50,000分の1の地形図)
- 集水地域
- ダム、水路、観測施設その他水利使用に関する主要な施設又は工作物の位置
- 水利使用により影響を受ける施設又は工作物のうち、他の水利使用のためのもの、道路、橋その他主要なものの位置
- その他参考となるべき事項
- 貯水池実測平面図(縮尺5,000分の1の地形図)
- 湛水区域
- ダム及びこれに附属する施設又は工作物の位置
- 土捨場その他ダムに関する工事に附帯して設置する施設又は工作物で主要なものの位置
- 測点の番号及び位置
- その他参考となるべき事項
- 貯水池実測縦断面図(縮尺縦200分の1以上、横5,000分の1以上)
- 最低河床
- ダムの位置
- ダムの新築又は改築前における計画洪水位並びに新築又は改築後における計画洪水位、常時満水位及び最低の水位
- 推定堆砂面
- 測点の番号及び標高
- 測点間の距離及び逓加距離
- その他参考となるべき事項
- 貯水池実測横断面図(縮尺500分の1以上)
- 最高の水位から20mの高さまでの地盤面
- ダムの新築又は改築前における計画洪水位並びに新築又は改築後における計画洪水位、常時満水位及び最低の水位
- 推定堆砂面
- 測点の番号及び標高
- その他参考となるべき事項
- 地質に関する図面
- ダムの設計図(ダムの基礎処理に関するものを含む)
- ダムに関する工事を施行するための設備に関する図面
- 流況曲線図
- 流量累加曲線図
- 貯水量曲線図
- 貯水面積曲線図
- 占用する土地の丈量図
- ダムの新築又は改築の場所をその上流側及び下流側から撮影した写真にダムの外形を記載したもの
- 工事費概算書
- 資金計画の概要を記載した書面
- その他工事計画に関し参考となるべき事項を記載した図書
ダム以外の工作物の新築又は改築に関する工事計画
- 工作物に関する水理計算書
- 工作物に関する構造計算書
- 計画洪水流量及び背水に関する計算書(ダム又は堰せき以外の工作物については不要)
- 占用面積計算書
- 水位及び流量表
- 工程表
- 位置図(縮尺50,000分の1の地形図)
- 実測平面図
- 実測縦断面図(ダム又は堰せき以外の工作物については不要)
- 実測横断面図(ダム又は堰せき以外の工作物については不要)
- 工作物の設計図
- 工事費概算書
- その他工事計画に関し参考となるべき事項を記載した図書
工作物の除却に関する工事計画
- 位置図(縮尺50,000分の1の地形図)
- 工作物の構造図
- 工事の実施方法を記載した図書
- 工事費概算書
- その他工事計画に関し参考となるべき事項を記載した図書
登録申請書
発電計画の概要
発電に使用する水量の根拠
発電の最大使用水量
誓約書
同意書の写し
位置図
水車発電機一般図
発電所設置箇所
水利使用の内容を示す書面
まとめ
近年は地球温暖化対策として、温室効果ガスを排出しないクリーンな再生可能エネルギー利用を推進するための新技術の開発により、平地部の水路等、既存の水路工作物を利用した小規模な水力発電が多く計画されるようになりました。このような小水力発電は、その大小に係わらず、河川の流水とは、切り離すことのできない関係にあります。
許可申請と比べ、登録申請は随分と簡素化された手続きとなっています。とはいえ、水利権は複雑な仕組みが絡み合って構成されており、関係河川使用者の意見や河川管理者の裁量が大きなウェイトを占める手続きでもあります。あくまでも、個別具体的な事情に対応させた資料を提示して河川管理者との協議に臨むことになります。いずれにせよ、人縄筋では進まない手続きであることはご理解ください。
弊所では、河川に関する面倒な手続きをサポートさせていただいております。個別の事情や難易度、求められる資料の数等に応じて見積もりは増減させていただきますが、弊所は「話しの分かる行政書士事務所」でもあります。さまざまな事情をくんだ上での柔軟な対応には自信があります。また、海事代理士事務所を併設しているため、水際の手続きにも専門性を有しています。河川法に関する手続きでお困りの際は、ぜひ弊所までお気軽にご相談ください。