市街化調整区域内における農地転用の実務│農地転用と開発許可
農地を農地以外の用途に変更(転用)しようとする際は、大体のケースにおいて、単独の申請では終わらず、数次の手続きを経ることを求められます。
代表的なのが、市街化調整区域内の農地を転用しようとする際に、同時に開発許可を取得するよう求められるというパターンです。
都市計画法という法律では、原則として市街化調整区域内における開発行為を禁止しており、市街化調整区域内において農地転用を行おうとする場合も、開発許可や建築許可を取得するよう促されます。
そこで本稿では、この複雑な手続きを出来る限り分かりやすくイメージしていただくため、大阪府高槻市において実際に携わった事例を下敷きにして、解説を試みたいと思います。
目 次
取得する許可の確認
何はともあれ、まずはご自身がどの許可を必要としているのかを確認しましょう。農地の取引や転用に関する許可には、大きく分けて、次のパターンが存在しています。
許可の区分 | 対象となる行為 | 原因 |
---|---|---|
3条許可 | 農地又は採草放牧地のまま権利を設定し又は移転すること | 売買等の取引 |
4条許可 | 農地の転用 | 自己所有農地の転用 |
5条許可 | 農地又は採草放牧地を転用するために権利を設定し又は移転すること | 売買等の取引 |
今回ご紹介するのは、他人が所有する農地を営利法人が一時的に賃貸借して仮設事務所を設置する事例ですので、必要な許可は5条許可ということになります。
これが単に農地を農地のまま賃貸借するパターンであれば3条許可、自己所有の農地に自己の事業のための仮設事務所を建築するパターンであれば4条許可が必要になってくるということになります。
申請先の確認
必要となる許可を確認した後は、窓口となる申請先の行政機関を特定します。農地転用の許可を与えるのは都道府県又は指定市町村の長ですが、いずれにせよ申請先は転用を行おうとする農地が所在する市町村の農業委員会です。農業委員会は、市町村の本庁舎に隣接していることが多いのですが、その所在地についても事前に確認するようにしましょう。
転用検討中の農地が高槻市内である今回の事例における申請先は、高槻市農業委員会事務局ということになります。所在地も高槻市役所と同じ高槻市総合センター内にありました。
高槻市農業委員会
大阪府高槻市桃園町2番1号
Tel:072-674-7421
事前相談
申請先を特定できれば、さっそく事前相談に出向きます。この際に事前の連絡なく突然訪庁するのは避けましょう。担当者が不在の場合もありますし、何よりも連絡なく公共施設を訪れる行為は、現在の世情を考慮しても適切ではありません。
窓口に出向く際は、簡単な図面や周辺地図、現況写真などを持参するようにしましょう。土地の登記簿謄本や公図を持参すると尚良です。行政機関といえど担当者も人間ですので、農地の住所を伝えるだけでは現況をイメージすることが出来ません。事前相談をスムーズに進行させるためにも、準備はしっかりと整えるようにしましょう。
相談内容
事前相談では、おもに次のような内容を確認します。
- 農用地であるかどうか(青地・白地)
- 転用許可の可能性
- 他法令による規制
- 土地改良区の手続き
農用地(青地・白地)
農用地区域として指定されている区域を青地、その他の区域を白地と呼んでいます。もし転用を希望する農地が青地内農地であれば、許可取得のハードルは極めて高くなります。
これは青地が特に優良な農地として保全されていて、農地転用や開発行為に対して極めて厳しい制限措置がとられているからです。
今回の事例における農地は農用地区域には該当していなかったため、とりあえずはホッとひと安心するところです。
転用許可の可能性
次に確認するのは、農地転用の可能性についてです。具体的には、転用を希望する農地が下表のどの区分に該当するのかを確認します。
区分 | 状況 | 許可の方針 |
---|---|---|
農用地区域内農地 | 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 | 原則不許可 農業用施設等市町村が定める農用地利用計画において指定された用途のために転用する場合は例外的に許可 |
甲種農地 | 市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった農地(8年以内)等、特に良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 土地収用法の認定を受け、告示を行った事業等のために転用する場合は例外的に許可 |
第1種農地 | 10ヘクタール以上の規模の一団の農地、土地改良事業等の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地 | 原則不許可 土地収用法対象事業等のために転用する場合は例外的に許可 |
第2種農地 | 鉄道の駅が500m以内にある等、市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地 | 農地以外の土地や第3種農地に立地困難な場合等に許可 |
第3種農地 | 鉄道の駅が300m以内にある等、市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地 | 原則許可 |
上に表示している区分ほど、転用のハードルは高くなります。基本的には、第2種または第3種農地以外は許可が下りないか、もしくは極めて困難であるということをご理解ください。また、第2種または第3種農地であることは、申請者側で証明するように求められることも多いのでご留意ください。
ちなみに今回の事例は、第2種農地に該当するケースでした。
他法令による規制
- 都市計画法
- 建築基準法
- 国土利用計画法
- 国有財産法
- 生産緑地法
農地転用に際しては、農地法や農振法以外にも遵守すべき法令がたくさんあります。上記はあくまで一例ですが、農地転用を行う際は、これらすべての基準をクリアする必要があるため、担当者にはどのような規制があるのかをしっかりと確認するようにしましょう。
特に市街化調整区域において農地転用を行う場合は、都市計画法上の開発許可や建築許可が必要になります。この手続きは、農地転用の本申請よりも厳しく運用されていますので、農地転用の手続きとは同時に、もしくは先行して進めていくことになります。
また、生産緑地法に基づいて生産緑地に指定された農地においては、営農義務期間中、転用を行うことはできません。
市街化区域
市街化区域とは、端的に言えば積極的に開発が推し進められている区域です。この区域においては比較的自由に開発や建築を行うことが認められています。
市街化調整区域
市街化調整区域とは、市街化を抑制し、優れた自然環境等を保護するための区域です。原則として、新たに開発や建築を行うことは制限されています。
土地改良区の手続き
土地改良区の地区内にある農地を転用する場合、農地転用許可申請に先立って、管轄する土地改良区に対して地区除外申請の書類を提出します。
土地改良区は同じ市町村内に複数存在することもあるため、地区除外申請を行う際は、管轄の土地改良区の所在についても、しっかり確認するようにしましょう。
ここまでのまとめ
ここで弊所が携わった事例について一旦おさらいしていきましょう。
- 取得するのは農地法5条許可
- 申請窓口は高槻市農業委員会事務局
- 農地は農用地区域外(白地)
- 農地区分は第2種農地
- 農地は市街化調整区域内
- 開発行為には該当しない
- 生産緑地ではない
- 目的は仮設建築物の新築
これらを総合的に勘案し、必要になる手続きは、農地法5条許可と都市計画法43条建築許可であることが判明しました。
必要となる書類(高槻市)
下記は、本事例において求められた書類です。求められる書類は個別具体的に判断されますので、すべてのケースで流用できるものではありません。手続きをどのように進めたらいいのかは、担当者としっかり協議するようにしましょう。
都市計画法43条建築許可(事前相談)
必要書類 | 必要部数 | 備考 |
---|---|---|
委任状 | 1部 | |
事前相談書 | 1部 | PDF WORD |
位置図(1/2500以上) | 1部 | 方位、地形、開発等の予定地、周辺土地利用状況(予定地中心半径300m)、最寄交通機関からの経路、市街化区域・市街化区域調整区域・自然公園等の区域を明示 |
現況図 (1/500以上) | 1部 | 方位、開発等区域の境界、土地の地番、形状、断面、開発等の区域に含まれる公共施設及び都市計画施設の位置、形状を明示 |
土地利用計画図(配置図)(1/500以上) | 1部 | 方位、開発区域の境界、計画公共施投の位置、形状、予定建築物等の用途、規模、位置、接続道路の種類、名称、幅員、建築敷地境界線、道路後退線を明示 |
排水計画平面図 (1/500以上) | 1部 | 雨水、雑排水、汚水の経路を明示 |
地籍図(法務局備え付け地図) | 1部 | 全国の法務局で取得可能 |
固定資産評価証明書 | 1部 | |
土地家屋全部事項証明書 | 1部 | 全国の法務局で取得可能 |
予定建築物の平面図・立面図 (1/100又は1/200 ) | 1部 |
都市計画法43条建築許可(本申請)
農地法5条許可
必要書類 | 必要部数 | 備考 |
---|---|---|
農地法第5条許可申請書 | 3部 | WORD |
印鑑登録証明書(譲渡人(設定人)のみ) | 2部(1部原本) | |
土地の全部事項証明書 | 2部(1部原本) | 全国の法務局で取得可能 |
付近見取図(位置図) | 2部 | |
地籍図(法務局備え付け地図) | 2部(1部原本) | 全国の法務局で取得可能 |
計画書(利用計画書・選定理由書) | 2部 | |
計画図(雨水・排水計画図含む) | 2部 | (1/200~1/250程度)(建物の場合は配置図・平面図・立面図) |
事業実施に必要な資力があることを証する書面 | 2部(1部原本) | 残高証明・融資証明・通帳の写し等 |
土地改良区意見書(土地改良区域内のみ) | 2部(1部原本) | |
農地法第18条第6項の規定による通知書または農地賃貸借解約合意書(小作地の場合のみ) | 2部(写) | |
開発行為に該当しない旨の証明書(露天もので転用面積が実測500㎡以上になる場合) | 2部(写) | |
法人の定款(当事者が法人の場合) | 2部(1部原本) | |
法人の履歴事項全部証明書(当事者が法人の場合) | 2部(1部原本) | 全国の法務局で取得可能 |
農地法5条農地転用届出書(正) | 1部 | |
農地法5条農地転用届出書(副) | 1部 |
事前相談書の作成
実際の書類作成の部分にも少しだけ触れておきましょう。本稿では、本事例におけるスタートラインとなった都市計画法43条建築許可の事前相談書を例にとって説明させていただきます。
上が実際の事前相談書です。たくさんの専門用語が登場しますので、スタートラインから心を折られそうになります。「住所氏名なら何とかなりそうだ」と思われた方、実はここにも落とし穴が潜んでいます。
開発行為等の区域の名称の欄をよく見ると(地名・地番はすべて記入)と書いてあるのがお分かりいただけると思います。
ここに記載するのは、登記簿謄本に記載のある「地番」であって、皆さまがよく知る「住所」とは表記が異なります。この「地番」を覚えている方は恐らく少数なので、ここは素直に土地の登記簿謄本を取得して確認するようにしましょう。
さて、お次はこちらです。用途地域に関しては、各自治体の担当部署が公式サイトで公開していることも多いので割と簡単に調べることができますが、その他規制法令等の欄については、何がなんやらさっぱり分からないという方も少なくないのではないでしょうか。
これらすべての情報を、1箇所の部署で把握しているケースは多くなく、また、電話やFAXでの問い合わせに応じてくれるお役所もなかなかありませんので、場合によっては、現場からかなり離れた場所にあるお役所まで出向いて調査する必要が出てきます。
実際に本事例では、砂防指定区域を確認するためだけに、高槻市のお隣りの茨木市にある大阪府茨木土木事務所まで足を運びました。
そして砂防指定区域ではないことを確認して、事前相談書というたった1枚の書類の、さらにたった1箇所の欄に、ようやく○印を落とし込むことができました。(ここまで往復所要時間約3時間)
こんな具合に調査を行い、地道に書類を作成していくことになりますが、所定の様式が公開されているこんな感じの書面であれば、実はさほど問題にはなりません。あえて事前相談書という比較的簡素な書面を例にとったのは、簡素なはずの書面を作成する煩わしさを提示して、さらに厄介な計画書(様式不指定)や、位置図、現況図、土地利用計画図、排水計画平面図などといった必要書類を整えることの手間暇を理解していただくためです。
いずれにせよ、相当根気が必要な作業であるということはご認識ください。
まとめ
農地転用や開発の分野は、とにかく専門用語が多く、それを調べ上げるだけで無駄に時間を浪費してしまいます。
そもそもこの規制は、第一次産業である農業を保護するためのものであり、許可権者である行政庁は、基本的には「できる限り転用を抑えたい」というスタンスで対応してきます。よって、求められる書類や手続きは複雑で煩雑になりがちで、協議を何度も重ねて、すべての手順を踏んだとしても、結局は行政庁の裁量により許可が下りなかったということも珍しくはありません。
時間や労力を考えると、やはり分業が適していると思います。農地転用や開発許可についてお悩みの方は、ぜひ弊所までお気軽にご相談ください。