構造改革特別区域法に基づく構造改革特区について

道しるべ

構造改革特別区域法は、地方公共団体の自発性を最大限に尊重した構造改革特別区域を設定し、地域の特性に応じた規制の特例措置の適用を受けて地方公共団体が特定の事業を実施し又はその実施を促進することにより、教育、物流、研究開発、農業、社会福祉その他の分野における経済社会の構造改革を推進するとともに地域の活性化を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の発展に寄与することを目的として制定された法律です。

噛み砕いて説明すると、実情に合わなくなった国の規制が、民間企業の経済活動や地方公共団体の事業を妨げていることを鑑(かんが)み、実情に合わなくなった国の規制について、地域を限定して改革することにより、構造改革を進め、地域を活性化させることをその目的としています。

他方、どのような分野において、どのような規制緩和が行われているのかについては、一般層にはあまり伝わっていないのが現実です。

そこで本稿では、構造改革特別区域法の規定を網羅的に確認し、構造改革特区において民間事業者等が受けうる規制の特例措置について、ざっくりと解説していきたいと思います。

構造改革特別区域

構造改革特別区域(以下、構造改革特区)とは、地方公共団体(都道府県、市区町村又は地方自治法の規定する一部事務組合若しくは 広域連合)が地域の活性化を図るために自発的に設定する区域であって、地域の特性に応じた特定事業を実施し又はその実施を促進するものをいいます。

さらに、ここでいう特定事業とは、地方公共団体が実施し又はその実施を促進する事業のうち、下表に掲げる事業であって、規制の特例措置の適用を受けるものをいいます。

第12条学校設置会社による学校設置事業
第13条学校設置非営利法人による学校設置事業
第14条職業能力開発短期大学校の修了者の大学編入学事業
第15条条例による事務処理の特例に係る事務の合理化事業
第18条病院等開設会社による病院等開設事業
第19条市町村教育委員会による特別免許状授与事業
第20条公私協力学校設置事業
第21条市町村による狂犬病予防員任命事業
第23条地方公務員に係る臨時的任用事業
第24条特定法人による農地取得事業
第25条特定農業者による特定酒類の製造事業
第26条特産酒類の製造事業
第27条清酒製造者による清酒の製造体験事業
第28条民間事業者による公社管理道路運営事業
第29条地方公共団体の長による学校等施設の管理及び整備に関する事務の実施事業
第30条民間事業者による特別養護老人ホーム設置事業
第31条社会保険労務士を活用した労働契約の締結等に係る代理事業
第32条地方公共団体による特定市街化調整区域をその施行地区に含む土地区画整理事業
第33条再生資源を利用したアルコール製造事業
第34条国立大学法人による土地等貸付事業
第35条政令等規制事業で第35条の規定による政令又は主務省令で定めるもの
第36条地方公共団体事務政令等規制事業で第36条の規定による政令又は主務省令で定めるもの

なお、民間事業者等が、構造改革特区における規制の特例措置を受けるためには、前提として、地方公共団体自体が、単独で又は共同して、構造改革特区として、教育、物流、研究開発、農業、社会福祉その他の分野における区域の活性化を図るための計画(構造改革特別区域計画)を作成し、内閣総理大臣の認定を受ける必要があります。

規制の特例措置

構造改革特区において規制の特例措置を受けることができるのは、教育、物流、研究開発、農業、社会福祉その他の分野であって、構造改革特別区域法第12条から36条までに列記されているものが対象となります。

学校教育法の特例

学校教育法第2条においては、学校の設置主体を、国、地方公共団体及び学校法人と限定していますが、構造改革特区においては、地方公共団体が、教育上又は研究上「特別なニーズ」があると認める場合には、株式会社が学校を設置することを認めています。(第12条)

また、地方公共団体が、不登校児童生徒等を対象とした教育について「特別なニーズ」があると認める場合には、そうした教育を行うNPO法人であって、一定の実績等を有するものについても、学校を設置することが認められます。(第13条)

これらの特例を受ける際には、学校の公共性、継続性及び安定性を確保するため、必要な要件が株式会社やNPO法人等に課されるとともに、情報公開、評価の実施及びセーフティネットの構築等必要なシステムを整備することが求められます。

職業能力開発短期大学校の修了者の大学編入学事業

構造改革特区においては、職業能力開発短期大学校において高度職業訓練で長期間の訓練課程を修了した者について、構造改革特区内の大学に編入学することができるという規制緩和が行われています。

条例による事務処理の特例に係る事務の合理化事業

条例による事務処理の特例とは、構造改革特区である都道府県知事の権限に属する事務の一部を、都道府県の条例で定めるところにより、市町村が処理することとすることができる制度です。この特例制度により、市町村の意見も反映しつつ、都道府県が主導し、市町村に対する多くの事務・権限の移譲が進められています。

移譲されている事務・権限の内容は、まちづくり(土地利用を含む)、産業、福祉・保健、教育、環境・衛生、生活・安全等の幅広い行政分野にわたっています。

病院等開設会社による病院等開設事業

構造改革特区においては、株式会社が自由診療で高度先端医療の提供を目的とする病院又は診療所を開設することが認められています。

市町村教育委員会による特別免許状授与事業

構造改革特区においては、都道府県教育委員会の行う教育職員検定により授与するという特別免許状について、本来の授与権者である都道府県教育委員会に加えて、市町村教育委員会もこれを授与することが認められます。

公私協力学校設置事業

構造改革特区においては、高等学校及び幼稚園を対象に、地方公共団体と民間事業者とが連携し協力することによる新たな学校設置の仕組みとして、「公私協力学校」が制度化されています。

この制度においては、地方公共団体と民間主体とが協力して新たに学校法人を設立し、その学校法人(協力学校法人)が、地方公共団体(協力地方公共団体)による一定の支援と関与の下に、学校(公私協力学校)の設置運営を行うこととしています。

このような公私協力学校の設置を促進するため、協力学校法人の設立に係る寄附行為の認可に当たり、所轄庁である都道府県知事において、資産要件の審査を行うことを要しないこととする特例措置が講じられています。

市町村による狂犬病予防員任命事業

構造改革特区においては、従来であれば、狂犬病予防法に基づき、都道府県知事又は保健所を設置する市長が実施する、狂犬病予防員の任命、捕獲人の指定、犬の抑留等を行う措置について、地域の事情や市町村の判断に応じ、市町村長がこれらを実施することを認めています。

地方公務員に係る臨時的任用事業

構造改革特区において、地方公共団体が地域固有の課題に即応した効率的かつ弾力的な人事行政を可能とするため、特例措置として、地方公共団体が臨時的任用を行おうとする場合に、構造改革特別区域における人材の需給状況等にかんがみ後任が確保できない等の一定の要件の下に、採用した日から3年を超えない範囲内に限り、6か月を超えない期間で更新することが認められています。

特定法人による農地取得事業

地方公共団体が農地等の効率的な利用を図る上で、①農業の担い手が著しく不足しており、かつ、②従前の措置のみによっては耕作の目的に供されていない農地等その他効率的な利用を図る必要がある農地の面積が著しく増加するおそれがあることから、構造改革特区内において、農地等の効率的な利用を通じた地域の活性化を図るため、農地所有適格法人(以外の法人が農地等の所有権を取得して農業経営を行うことが必要と認めて構造改革特区の認定を受けた時は、認定の日以降、一定の要件を満たす法人が地方公共団体から農地等の所有権を取得しようとする場合、構造改革特区内にある農地等を管轄する農業委員会が農地法第3条第1項の許可をすることができます。

酒税法の特例

構造改革特区においては、都市と農村の交流の活性化に資するよう、農家民宿や農園レストラン等を営む農業者であって、自ら生産した果実又は米を原料として一定の果実酒又はその他の醸造酒(特定酒類)を製造しようとする者が一定の果実酒又はその他の醸造酒の製造免許を申請した場合には、酒税法第7条第2項に規定されている年間6klという最低製造数量基準は適用されません。(第25条:特定農業者による特定酒類の製造事業)

また、構造改革特区内において生産される農産物、構造改革特区の周辺の漁場の区域内において採捕(若しくは養殖)された水産物、又はこれらを原材料として製造される加工品(特区内農産物等)であって地域の特産物であるものを原料とした単式蒸留焼酎、果実酒、原料用アルコール又はリキュール(特産酒類)を製造しようとする者が特産酒類に係る製造免許を申請した場合には、酒類の製造免許に係る最低製造数量基準を、単式蒸留焼酎又は原料用アルコ ールについては適用除外、果実酒にあっては2kl、リキュールにあっては1klに引き下げられます。(第26条:特産酒類の製造事業)

さらに、清酒の製造体験を通じて地域の活性化を図ることを目的として、既に構造改革特区内に清酒の製造免許を受けた製造場を有する清酒製造者が、同構造改革特区内に所在する区域の魅力の増進に資する施設に設ける体験製造場において清酒の製造体験事業を実施しようとする場合には、一の体験製造場に限り、既存の製造場と体験製造場とを合わせてひとつの製造場としてみなすことにより、体験製造場でも、清酒を製造することができます。(第27条:清酒製造者による清酒の製造体験事業)

民間事業者による公社管理道路運営事業

公社管理有料道路の通行者及び利用者の利便の増進を図るため、地方道路公社が公社管理道路運営権を設定する場合には、民間事業者に料金を収受させることとし、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律に基づくコンセッション方式を活用して民間事業者による公社管理道路の運営を可能とするものです。

地方公共団体が、その設定する構造改革特区において、公社管理道路の交通の状況及びその近傍に立地する商業施設等の利用の状況に照らし、施設を運営する事業と連携して民間事業者が公社管理道路運営事業を実施することが、公社管理道路の利用者の利便の増進を図るため必要であると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、認定の日以後、公社は、民間資金法第19条第1項の規定により公社管理道路運営権を設定する場合には、公社管理道路運営権を有する者に認定公社管理道路運営事業に係る利用料金を自らの収入として収受させることができます。

公社管理道路運営権者が収受する利用料金は、民間資金法第5条第1項の規定に基づき公社が定める実施方針に従い、かつ、公社が国土交通大臣の認可を受けて定めた上限の範囲内で、公社管理道路運営権者が定めます。

地方公共団体の長による学校等施設の管理及び整備に関する事務の実施事業

地方公共団体の長が学校等施設の管理及び整備に関する事務の全部又は一部を管理し、及び執行することについて、当地方公共団体が、学校等施設及び公の施設の利用及び配置の状況その他の地域の事情に照らし、学校等施設及び公の施設の一体的な利用又はこれらの総合的な整備の促進を図るため必要であり、かつ、学校等における教育活動の適切な実施に支障を及ぼすおそれがないと認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、認定の日以後は、学校等施設の管理及び整備に関する事務の全部又は一部については、地方公共団体の長が管理し、及び執行することができます。

この際、認定を受けた地方公共団体の長は、学校等施設の管理及び整備に関する事務のうち学校等における教育活動と密接な関連を有するものとして地方公共団体の規則で定めるものを管理し、及び執行するに当たっては、地方公共団体の規則で定めるところにより、あらかじめ、教育委員会の意見を聴く必要があります。

また、上記の規則を制定し、又は改廃しようとするときにも、認定を受けた地方公共団体の長は、あらかじめ、教育委員会の意見を聴く必要があります。

民間事業者による特別養護老人ホーム設置事業

民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(以下、PFI法)に基づく選定事業者である法人は、構造改革特区内の特別養護老人ホーム不足区域(特別養護老人ホームの入所定員総数が、都道府県の老人福祉計画における特別養護老人ホームの必要入所定員総数を下回る老人保健福祉圏域が含まれる区域)において、都道府県等の条例(※2)の定めるところにより、都道府県知事等の認可を受けて、特別養護老人ホームを設置することができます。

社会保険労務士を活用した労働契約の締結等に係る代理事業

構造改革特区においては、都道府県労働局長の認定を受けた社会保険労務士が、求職者又は労働者の代理人として、労働契約の締結、変更及び解除を行うことができるように、社会保険労務士法第2条に規定する社会保険労務士の業務について、特例措置が行われています。

地方公共団体による特定市街化調整区域をその施行地区に含む土地区画整理事業

地方公共団体が、その設定する構造改革特区内の市街化調整区域であって、①周辺の市街化区域における都市機能の集積の程度及び市街化区域その他の地域との交通の利便性が特に高いと認められ、②土地の利用状況の著しい変化その他の特別の事情により、建築物の建築等に対する需要が著しく増大していることにより、市街化区域に編入された場合には建築物の建築又はその敷地の造成が無秩序に行われるおそれが特に大きいと認められるもの(特定市街化調整区域)において、特定市街化調整区域をその施行地区に含む土地区画整理事業を地方公共団体が自ら施行することが、特定市街化調整区域が市街化区域に編入された場合における計画的な市街化を図るために必要であると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、認定の日以後、特定市街化調整区域において、地方公共団体による認定に係る土地区画整理事業を施行することができます。

再生資源を利用したアルコール製造事業

アルコールの流通管理を行わないことによって、使用済物品等又は副産物を原料としてアルコールを製造する事業を側面的に支援するため、地方公共団体の長が指定した使用済物品等又は副産物を再生資源として、構造改革特区内においてアルコール事業法の許可を受けた製造事業者が製造するアルコールについては、アルコール事業法第9条(報告等)、第10条(業務改善命令)、第21条から第30条(販売の許可、使用の許可)並びに第35条から第37条(アルコールの希釈の制限、納付金の徴収、強制徴収)の規定は適用されません。

国立大学法人による土地等貸付事業

構造改革特区内において、国立大学法人が、その業務とは直接関係なく、その法人の所有する土地等を革新的な研究開発、研究開発の成果を活用した新たな事業の創出又は研究開発の成果を活用した施設の整備を行おうとする者に貸し付ける場合には、文部科学大臣の認可が不要となり、文部科学大臣への事前の届出をもってこれに代えることができます。

政令等で規定された規制の特例措置

地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域において、政令又は主務省令により規定された規制に係る事業(以下、政令等規制事業)を実施し又はその実施を促進する必要があると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、認定の日以後、政令等規制事業については、政令により規定された規制に係るものにあっては政令で、主務省令により規定された規制に係るものにあっては主務省令で、それぞれ定めるところにより、規制の特例措置が適用されます。

地方公共団体の事務に関する規制についての条例による特例措置

地方公共団体が、その設定する構造改革特区において、政令又は主務省令により規定された規制(地方公共団体の事務に関するものに限る)に係る事業(地方公共団体事務政令等規制事業)を実施し又はその実施を促進する必要があると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、認定の日以後、地方公共団体事務政令等規制事業については、政令により規定された規制に係るものにあっては政令で定めるところにより条例で、主務省令により規定された規制に係るものにあっては主務省令で定めるところにより条例で、それぞれ定めるところによ  り、規制の特例措置が適用されます。

まとめ

本稿で紹介した構造改革制度は、構造改革特別区域法に基づく特例措置を抜粋したものです。実際には、政令や主務省令により規定された特例措置が他にもいくつか存在しています。

日常的に許認可というある種の規制に接していると、そのいくつかは、不合理な制度であると感じることがあります。せっかく規制緩和がなされているのであれば、これを活用してビジネスチャンスを広げない手はありません。

各地域の自然的、経済的、社会的諸条件等を活かした地域の活性化を実現するために、妨げとなる規制を取り除くツールとして、構造改革制度をご活用ください。

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