兵庫県条例における賭博や風俗営業を連想させる介護保険サービスに対する規制について

パチンコに熱中する人

介護保険法第1条では、「入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練等を要する者が、尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう必要な給付を行う」ことを介護保険の趣旨・目的としていますが、近年その趣旨・目的にそぐわない事業所等が乱立していたことから、兵庫県ではこの状態を是正するため、「法令の規定により条例に委任された基準等に関する条例」(以下、条例)を改正し、風俗営業等の規制及び務の適正化等に関する法律(以下、風営法)に規定される遊技と同種の遊技(遊技に使用する設備、備品、遊技の方法は同等だが営利目的ではないもの)を提供する事業所等に係る設備及び運営等の基準を設けるとともに、風営法に規定されている風俗営業を連想させる外観等を規制しています。

規制の対象

規制の対象は、通所介護(デイサービス)等の居宅サービス事業所、介護老人福祉施設及び介護老人保健施設であり、具体的には下表のとおりです。(以下、対象事業)

基準該当居宅サービス及び指定居宅サービスの事業(条例第17条)通所介護及び基準該当通所介護
通所リハビリテーション
短期入所生活介護及び基準該当短期入所生活介護
短期入所療養介護
特定施設入居者生活介護
基準該当介護予防サービス及び指定介護予防サービスの事業(条例第18条)介護予防通所リハビリテーション
介護予防短期入所生活介護及び基準該当介護予防短期入所生活介護
介護予防短期入所療養介護
介護予防特定施設入居者生活介護
旧介護予防通所介護及び旧基準該当介護予防通所介護
指定介護老人福祉施設(条例第21条)介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)におけるサービス
介護老人保健施設(条例第22条)介護老人保健施設におけるサービス

規制される遊技

制限対象となる「利用者の射幸心をそそるおそれ又は依存性が強くなるおそれのある遊技」とは、風営法第2条第1項に規定する遊技と同種のもの(営利目的でないもの)を指し、同項第4号及び第5号に規定する遊技を言います。

風営法第2条第1項第4号に関連する遊技麻雀、パチンコ、その他設備(射的、輪投げ、スマートボールなど)を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技
風営法第2条第1項第5号に関連する遊技本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができる遊技設備で行う遊技
①スロットマシンその他遊技の結果がメダルその他これに類する物の数量により表示される構造を有する遊技設備
②テレビゲーム機(勝敗を争うことを目的とする遊技をさせる機能を有するもの又は遊技の結果が数字、文字その他の記号によりブラウン管、液晶等の表示装置上に表示される機能を有するものに限るものとし、射幸心をそそるおそれがある遊技の用に供されないことが明らかであるものを除く)
③フリッパーゲーム機
④上記のほか、遊技の結果が数字、文字その他の記号又は物品により表示される遊技の用に供する遊技設備(人の身体の力を表示する遊技の用に供するものその他射幸心をそそるおそれがある遊技の用に供されないことが明らかであるものを除く)
⑤ルーレット台、トランプ及びトランプ台その他ルーレット遊技又はトランプ遊技に類する遊技の用に供する遊技設備

利用時間に関する規制

対象事業を行う者は、機能訓練又はリハビリテーションその他必要なサービスとして、利用者の射幸心をそそるおそれ又は依存性が強くなるおそれのある遊技を、利用時において相当と認められる程度を超えて、又は日常生活を逸脱して、利用者に提供することができません。

通所介護や通所リハビリテーションなどの通所サービスの場合は、遊技を「利用時において相当と認められる程度を超えて」提供することが規制されますが、ここで言う「利用時において相当と認められる程度を超えて」とは、遊技に充てる時間が居宅サービス計画(ケアプラン)の記載に関わらず、実際の利用時間の半分程度を超える場合を言います。

また、特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設におけるサービスや、短期入所生活介護、短期入所療養介護及び特定施設入居者生活介護といった、時間ではなく日単位でサービスが提供される場合は、遊技を「日常生活を逸脱して」提供することが規制されますが、「日常生活を逸脱して」とは、遊技に充てる時間が、機能訓練、リハビリテーション及びレクリエーションの合計時間の半分程度を超える場合を言います。

★機能訓練

運動療法など、機能の改善・減退防止を目的とする訓練を言います。

★リハビリテーション

医師の指示に基づき理学療法士、作業療法士など専門職員の立ち合いのもとに行う機能の維持、回復を目的とする訓練を言います。

★その他必要なサービス

レクリエーション、休養、気分転換などを目的としたサービス言います。

疑似通貨に関する規制

対象事業を行う者は、利用者の射幸心をそそるおそれ又は遊技に対する依存性が強くなるおそれのある疑似通貨を、利用者に提供し、又は使用させることができません。

疑似通貨とは、通貨に類する交換手段としての機能を有するものであって、景品などとの交換手段としての機能を有するものであれば、紙幣や硬貨を模したものだけでなく、麻雀で使用する点棒、遊技に使用するチップ、ポイントが記録されたカードなども含まれます。

また、「利用者の射幸心をそそるおそれのある疑似通貨」とは、偶然の利益を労せずに得たいといった心理(射幸心)をあおることをいい、そのような心理をあおる遊技の結果によって、景品表示法による制限(1日当たり介護サービス利用料個人負担額の20%)を超える程度の金額の景品や食事券などを獲得できるルールにより運用されるものを言います。

★不当景品類及び不当表示防止法

不当景品類及び不当表示防止法では、一般消費者に対して懸賞によらないで提供する景品類の価額は、景品類の提供に係る取引価額の20%の金額(200円未満の場合は200 円)の範囲内とされています。

次に「遊技に対する依存性が強くなるおそれのある疑似通貨」とは、遊技を繰り返して行わずにはいられないと思うようになることをいい、専ら遊技を通じて授受されることにより遊技を反復して行いたいという思いをあおるものを言います。

ただし、疑似通貨がリハビリテーションの一環として実施する施設の花壇の水やりや草引きの手伝いなど、遊技以外の手段でも獲得でき、また、機能訓練やリハビリプログラムに参加する際に利用するなど、疑似通貨の獲得及び利用が遊技に限定されず、疑似通貨を用いる目的をリハビリ効果や自立度を高めることとしており、そのことが事業所の運営規程や事業計画書等で確認できるものであれば、利用者の射幸心をそそることや遊技への依存性を強くするおそれのない疑似通貨として、利用者に提供し、又は使用させることは問題ありません。

不要なサービスに関する規制

介護保険サービスの過剰な提供及び利用を防止するため、対象事業を行う者は、居宅サービス計画に記載された回数、時間その他の計画の内容(計画が作成されていない場合は、必要と認められる内容)を超えた不要なサービスを提供することができません。

ただし、居宅サービス計画に記載された回数、時間等を超える場合であっても、冠婚葬祭や子どもの学校行事など介護を行っている家族にとって重要な行事への出席、家族の病気や事故で介護できなくなった場合など、やむを得ないと認められる場合は、「不要なサービス」とはされません。

事業所の外観等に関する規制

利用者の射幸心をそそり遊技への依存性を強くすることにつながるおそれがあるとともに、低照度等での運営は介護サービスの提供に支障を来すおそれがあることから、対象事業を行う者は、対象事業を行う事業所の外観若しくは内装、設備若しくは備品若しくはこれらの配置又は事業所の運営を、賭博又は風俗営業(風営法第2条第1項に規定する風俗営業)を連想させるものとすることはできません。

賭博又は風俗営業を連想させる可能性がある場合は、これらの規定に抵触するか否かについて審査が実施され、事業者に対し、その意図や考え等について聴取が行われることがあります。

外観について

「外観」で賭博又は風俗営業を連想させるものとは、直接「カジノ」等の文言を用いたものや、遊技を助長するような文言を用いたもののように、外側から見た事業所等の様子であって、看板、幟、垂れ幕、電光掲示板又はネオンサイン等により、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められるものを言います。

内装について

「内装」で賭博又は風俗営業を連想させるものとは、室内の壁に貼付されたビラ、ポスター、写真又は壁紙などにより、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められるものを言います。(「カジノ」等の文言や遊技を助長するような文言を用いたビラ、外国のカジノの写真、カジノ設備の模様を印刷した壁紙など)

設備・備品について

「設備若しくは備品若しくはこれらの配置」で賭博又は風俗営業を連想させるものについて、設備、備品とは、「疑似通貨」の交換カウンターやミラーボール等、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められるものであって、施設に据え付けられたものを設備、移動可能なものを言います。(通常、風俗営業施設でのみ使用するようなもの)

また、賭博又は風俗営業を連想させる設備若しくは備品の配置とは、麻雀卓やパチンコ台等を多数配置(利用定員との適度なバランスを欠くような場合)することにより、賭博又は風俗営業を行う施設を連想させるものと社会通念上認められるものを言います。

なお、基準上必要な静養室及び相談室等のほか、食事を提供できるスペースを別途確保する必要があります。

事業所等の運営について

「事業所等の運営」で賭博又は風俗営業を連想させるものとは、上記のほか、職員の衣装や、利用者に遊技への参加を促すこと等、事業所等の運営方法や実態が、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められるものを言います。

広告の内容に関する規制

介護を目的とした事業所等ではなく遊技のための事業所等であるかのような誤解を招くことを防止するため、対象事業を行う事業所の名称及び当該事業所についての広告の内容は、賭博又は風俗営業を連想させるものとすることはできません。

このうち「名称」は、「カジノ・デイサービス」等、明らかに賭博又は風俗営業を連想させるものが規制対象となりますが、「ラスベガス」「マカオ」「モンテカルロ」等カジノで有名な地名や外国においてカジノ施設を設けているホテル等の施設名であっても、事業所等が提供する遊技の内容等を総合的に勘案して、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められる場合には規制対象となります。

また、「広告の内容」については、遊技を助長するような文言や、カジノ施設の映像等、広告に用いる文言、映像、写真又は音声等が、賭博又は風俗営業を連想させるものと社会通念上認められるものについて規制されます。

まとめ

介護保険法が推奨する自立支援のアプローチ方法はさまざまであり、アミューズメントやレクリエーションも、確立された手法のひとつであることは間違いありません。

他方、介護保険は社会保険制度のひとつであり、その財源は国民の社会保険で賄われています。限られた財源て社会資源の中で、適切なサービスと給付が行われることが本来あるべき姿です。

本来の制度目的と照らし合わせつつ、事業者の創意工夫に対して規制的になり過ぎないようバランスを保つことが重要であるように思います。

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