旅行業登録を個人事業主が取得する際の注意点
インバウンド需要の回復から、旅行業登録に関するご相談が増えていますが、その中で時折あるのが、「旅行業を個人で開業することはできますか?」というご質問です。
結論から言えば、旅行業を個人で営むことに関しては、何の規制も制約もありません。実際に自営業という形で、個人で登録を受け、旅行業を営業している旅行業者も少なからず存在しています。
その一方で、旅行業の登録は非常にハードルが高く、さらに個人で申請するにあたっては、事前に検討すべきポイントがいくつか存在します。
そこで本稿では、これから旅行業を個人で始めようとお考えの皆さまに向けて、重要なポイントや注意点について、詳しく解説していきたいと思います。
目 次
旅行業について
旅行業法では、「報酬を得て、旅行に関する行為を行う事業」を、旅行業として定義しています。「旅行に関する行為」として列挙されている行為は以下のとおりですが、旅行業施行要領(PDF:278KB)によれば、これらの行為を行うにあたり、その行為が旅行業に該当するかどうかは、旅行業務に関する対価の設定、募集の範囲、日常的に反復継続して実施されるものであること等を踏まえ、総合的な判断を要するものとされています。
① | 企画旅行 | 旅行に関する計画を作成するとともに、必要と見込まれる運送業等サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等サービスを提供する者との間で締結する行為 |
② | 手配旅行 | 旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為 |
③ | 運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為 | |
④ | 他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為 | |
⑤ | 付属的行為 | ①に付随する必要と見込まれる運送等関連サービスの提供に係る契約を、自己の計算において、運送等関連サービスを提供する者との間で締結する行為 |
⑥ | 付属的行為 | ③〜⑤の行為に付随して、旅行者のため、運送等関連サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為 |
⑦ | 付属的行為 | ③〜⑤の行為に付随して、運送等関連サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等関連サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為 |
⑧ | 付属的行為 | ①及び③〜⑤の行為に付随して、旅行者の案内、旅券の受給のための行政庁等に対する手続の代行その他旅行者の便宜となるサービスを提供する行為 |
⑨ | 旅行相談 | 旅行に関する相談に応ずる行為 |
上記の行為のうち、「専ら」運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものは除外するという規定が設けられているため、以下のようなケースは、代理、媒介、取次ぎ又は利用のいずれにも該当せず、基本的旅行業務に付随しているとは言えないため、旅行業に該当しないことになります。
- 運送事業者のために、発券業務のみを行う場合(航空運送代理店、バス等の回数券販売所等)
- ウェブサイトを介して旅行取引を行う場合で、旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引に対し働きかけを行わない場合(予約入力画面に入力された情報を送信するまでに、旅行者と旅行業者又はサービス提供事業者との間での取引となる旨が明確に表示されている場合)
ここまでを総括すれば、具体的に、以下のようなケースは、旅行業には該当しないものと考えられます。
- 添乗員の派遣業務
- 運送、宿泊の伴わないサービスの提供
- 回数券販売所や航空運送代理店
- 同一職場内において有志が募集をするケース
- 学校が児童・生徒を対象に募集するケース
- 日常的な接触のある団体内部における構成員による参加者の募集
- 現地集合・解散する日帰りツアーを募集するケース
- テーマパークやイベントの入場券のみの販売といった運送等関連サービスのみの手配を行うケース
- 運送事業者や宿泊事業者自らが行う運送等サービスの提供
- 一般貸切旅客自動車運送事業者が自社のバスを使って日帰りバスツアーの募集を行うケース
- 旅館業許可を取得している宿泊施設が自ら運営する温泉やレジャーを併せたパックツアーの募集
旅行業務
登録を受けた旅行業者が行う前記の行為を旅行業務といいますが、旅行業務には、以下のとおり、企画旅行、手配旅行、付随的旅行業務及び旅行相談業務があります。
後ほど解説する旅行業の登録種別ごとに関与することができる旅行業務が定められているなど、登録において重要なポイントになるため、しっかりと確認するようにしてください。
企画旅行 | 旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることができる運送及び宿泊のサービス内容並びに旅行者が支払うべき対価に関する事項を定めた旅行計画を、旅行者の募集のためにあらかじめ、又は旅行者からの依頼により作成するとともに、計画に定めるサービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる契約を、自己の利益を図るためにサービス提供者との間で締結する行為 | |
募集型企画旅行 | 旅行業者があらかじめ旅行計画を企画し提供するように働きかけるタイプの旅行 | |
受注型企画旅行 | 旅行業者が旅行者からの依頼によって旅行計画を作成し、提供するように働きかけるオーダーメイド型の旅行 | |
手配旅行 | 運送及び宿泊のサービスの提供について、旅行業者が代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをするサービス | |
付随的旅行業務 | 企画旅行に付随して、運送及び宿泊のサービス以外の旅行に関するサービスを旅行者に確実に提供するために必要と見込まれる関連サービスの提供に係る契約を、自己の利益を図る目的でサービスを提供する者との間で締結する行為 | |
旅行相談業務 | 旅行に関する相談に応ずる行為 |
★報酬について
報酬には単に旅行者から受け取る旅行代金のみならず、募集経費、割戻金、販売手数料、送客手数料、及び旅行業務取扱料金など旅行業務を行うことによる経済的収入のすべてが該当します。
旅行業の登録種別
旅行業は、取り扱う業務範囲によって第一種から第三種の旅行業と地域限定旅行業の4種に区分されています。個人であれ法人であれ、複数の種別で登録を行うことは認められておらず、必ず一つの種別のみを選択して登録することになります。
また、4種の旅行業には該当しない関連業種として、旅行業者代理業と旅行サービス手配業という業種も設けられています。
★旅行業
登録種別 | 申請先 | 業務範囲 |
---|---|---|
第一種旅行業 | 官公庁長官 | 海外・国内の募集型企画旅行・受注型企画旅行・手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
第二種旅行業 | 主たる営業所を管轄する都道府県知事 | 国内の募集型企画旅行 海外・国内の受注型企画旅行・手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
第三種旅行業 | 主たる営業所を管轄する都道府県知事 | 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行 海外・国内の受注型企画旅行・手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
地域限定旅行業 | 主たる営業所を管轄する都道府県知事 | 営業所の所在地とそれに隣接する市区町村内の募集型企画旅行・受注型企画旅行 ・手配旅行 他の旅行業者が実施する募集型企画旅行契約の代理締結 |
★旅行に関する業種
上の表で上に表記している種別ほど業務範囲が広く、自由度が高くなる反面、必要となる資金要件に大きな違いが生ずるなど、登録を取得するためのハードルも高くなります。
旅行業の業務範囲
上の方で軽く触れていますが、旅行業はその登録種別により、携わることのできる業務範囲が定められています。第一種旅行業ともなれば、旅行に関するあらゆる業務を請け負うことができますが、地域限定旅行業では、請け負うことのできる業務範囲は極めて限定的になります。
上位の登録者別ほど、登録のハードルは高くなるので、特に個人での開業を考えるのであれば、最初は下位の登録種別で登録を行い、法人設立後にグレードアップした種別での登録を目指すというような計画も視野に入れるようにしてください。
旅行業登録
旅行業を営もうとする者は、以下の基準をすべて満たした上で、主たる営業所を管轄する都道府県知事(第一種旅行業については主たる営業所を管轄する地方運輸局)に対して申請を行い、観光庁長官の行う登録を受ける必要があります。
このうち財産的基礎の基準については、登録種別ごとに大きく異なることから各々の記事内での解説に委ねることとして、ここではすべての登録種別に共通する項目について解説していこうと思います。
- 旅行業務取扱管理者を選任すること
- 財産的基礎(基準資産額)をみたすこと
- 申請者が登録拒否条項に該当しないこと
旅行業務取扱管理者
旅行業者は、営業所ごとに1人以上の旅行業務取扱管理者を選任し、常勤専任として配置する必要があります。さらに従業員10人以上の営業所においては、その人数に応じて複数の旅行業務取扱管理者を選任します。
必ずしも申請者が旅行業務取扱管理者である必要はありませんが、旅行業務取扱管理者がいなくなるとすべての事業について運営が不可能となるため、申請者自身が旅行業務取扱管理者に就任することがベストの選択肢でしょう。
なお、選任した旅行業務取扱管理者が欠格事由のいずれかに該当し、又は欠けた場合には、その営業所において新たに管理者を選任するまでの間は旅行業務に関する契約を締結することはできません。
★旅行業務取扱管理者の職務
- 旅行に関する計画の作成に関する事項
- 料金の掲示に関する事項
- 旅行業約款の掲示及び備置きに関する事項
- 取引条件の説明に関する事項
- 書面の交付に関する事項
- 広告に関する事項
- 企画旅行の円滑な実施のための措置に関する事項
- 旅行に関する苦情の処理に関する事項
- 契約締結の年月日、契約の相手方その他の旅行者又は旅行に関するサービスを提供する者と締結した契約の内容に係る重要な事項についての明確な記録又は関係書類の保管に関する事項
- 取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便を確保するため必要な事項として観光庁長官が定める事項
★旅行業務取扱管理者の区分
旅行業務取扱管理者となるためには、「旅行業務取扱管理者試験」という国家資格に合格する必要があります。「総合旅行業務取扱管理者」と「国内旅行業務取扱管理者」の資格があり、保有する資格によって取り扱うことのできる業務範囲が異なります。
取扱可能な範囲 | 総合旅行業務取扱管理者 | 国内旅行業務取扱管理者 |
---|---|---|
海外・国内 | ◯ | ✕ |
国内 | ◯ | ◯ |
★旅行業務取扱管理者の欠格条項
以下のいずれかに該当する者を旅行業務取扱管理者として選任することはできません。
- 登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者
- 禁錮以上の刑又は旅行業法違反による罰金刑に処せられ、その執行を終わった日又は執行を受けることがなくなったから5年を経過していない者
- 暴力団員等又は暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
- 申請前5年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者
- 未成年者で、その法定代理人が上記4つのいずれかに該当するもの又はその法定代理人が法人であって、その役員のうちに上記4つの項目、又は下記の項目のいずれかに該当するもの
- 成年後見人若しくは被保佐人又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
登録拒否条項
申請者である個人について、以下のいずれかの条項に該当する事情がある場合は、旅行業者としての適格性を欠く者として、登録を受けることができません。
- 登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者
- 禁錮以上の刑又は旅行業法違反による罰金刑に処せられ、その執行を終わった日又は執行を受けることがなくなったから5年を経過していない者
- 暴力団員等又は暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
- 申請前5年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者
- 未成年者で、その法定代理人が上記4つのいずれかに該当するもの又はその法定代理人が法人であって、その役員のうちに上記4つの項目、又は下記の項目のいずれかに該当するもの
- 成年後見人若しくは被保佐人又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 暴力団員等がその事業活動を支配する者
- 営業所ごとに旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者
個人開業の注意点
個人事業のまま旅行業を開業したい理由は多々あるように思われますが、これを検討する際には、以下のような点についても必ず熟考するようにしてください。
個人間の事業承継
個人で旅行業登録を受けた場合、その事業を他人に承継させることはできません。登録が個人の能力や信用をもとに与えられたものである以上、これを任意に譲り渡すことは認められません。たとえば個人事業主として登録していた父親が引退して息子さんに事業を譲り渡そうとするときは、息子さん側で新たに登録を受け直す必要があります。
他方、法人として旅行業登録をしていれば、法人が存続する限りは代表者が引退したとしても登録の効力は失われません。上記の例で言えば、代表取締役である父親が引退しても、法人の経営を引き継いだ息子さんはそのまま事業を継続させることができます。
法人化した際の取扱い
個人と法人とでは経営者が同一であったとしても、まったくの別人格として取り扱われます。したがって、旅行業登録を受けた個人がその後に法人を設立したとしても設立した法人に登録は承継されません。
なお、旅行業は定款の記載事項に厳しく、法人で申請する場合、定款及び登記簿謄本の目的欄には、「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」の記載が必要になります。
旅行業の登録をお考えなら
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第1種旅行業登録 | 330,000円~ |
第2種旅行業登録 | 198,000円~ |
第3種旅行業登録 | 165,000円~ |
地域限定旅行業登録 | 99,000円~ |
旅行業者代理業登録 | 88,000円~ |
旅行サービス手配業登録 | 88,000円~ |
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