ご存じですか?兵庫県における「地域のお酒で乾杯!条例」

宴会や式典の最初の乾杯を、ビールではなく地元の日本酒でしようと呼びかける条例があります。一般に「乾杯条例」と呼ばれるもので、平成25年1月に京都市が施行した「京都市清酒の普及の促進に関する条例」をきっかけに、酒どころの自治体を中心として全国に広がりました。対象のお酒も、日本酒にとどまらず、焼酎やワイン、梅酒、ゆず酒、さらには地元の食材や器にまで及び、それぞれの地域の特色が色濃く表れています。
兵庫県は、灘五郷や伊丹、播磨、丹波といった名だたる酒どころを抱え、酒米の最高峰とされる山田錦の主産地でもあります。こうした土地柄を反映して、県内では神戸市や西宮市、伊丹市、姫路市をはじめ、播磨や但馬、丹波、淡路の市町が相次いで乾杯条例を制定してきました。確認できるだけでも15の市町に条例があり、全国的に見ても乾杯条例が集中している地域の一つといえます。
乾杯条例には罰則がなく、住民がビールで乾杯したからといって不利益を受けることもありません。それでも、条例を制定した自治体は、地元の酒をテーマにしたイベントの開催や、成人式や記念式典での地酒の採用といった取組を通じて、地域の酒造業と酒米づくりを支えようとしています。酒類を扱う事業者にとっても、地元の酒への関心を高める追い風として、販路の拡大や商品づくりに生かす余地があります。
本稿では、乾杯条例の成り立ちと法的な性格を確認したうえで、兵庫県内で制定されている条例を一覧にし、灘五郷を抱える西宮市の条例を例に内容を読み解きます。あわせて、地元の酒を販売する事業を始める際に必要となる酒類販売業免許の基本についても整理します。
乾杯条例とは
乾杯条例の第一号とされるのは、京都市が平成25年1月15日に施行した「京都市清酒の普及の促進に関する条例」です。伏見の蔵元らの働きかけを受けて議員提案で制定されたこの条例は、清酒による乾杯の習慣を広めることで日本文化への理解を深めることを目的に掲げ、メディアで大きく取り上げられました。これを機に、同じ年のうちに兵庫県の加東市や三木市をはじめとする酒どころの自治体が次々と同様の条例を制定し、ブームと呼ばれるほどの広がりを見せています。
制定の数は平成25年と平成26年に集中し、その後は落ち着いたものの、新たに制定する自治体はその後も現れています。立命館大学の研究グループが条例を制定した全自治体を対象に行った調査によれば、2020年時点で146の自治体が乾杯を促進する条例を制定しており、そのうち12は都道府県の条例でした。対象のお酒で分類すると、日本酒を対象とするものが46、日本酒以外の酒類や地元の食材も対象とするものが80、焼酎を対象とするものが12、ワインや梅酒、ゆず酒を対象とするものが8となっています。
乾杯条例の大きな特徴は、罰則や具体的な義務を定めず、自治体や事業者、住民に対して、地元の酒の普及に取り組むよう努めることを求める内容にとどまっている点にあります。飲み物の好みは個人の自由に属する事柄ですから、条例で特定のお酒による乾杯を強いることは想定されておらず、あくまで地元の酒や食文化への理解を促す理念的な条例として位置づけられています。首長が提案するより議員提案で制定される例が多いことも、乾杯条例に共通して見られる傾向です。
条例の効果について、先の調査では、地元の酒や食材への理解が深まったことを効果として挙げる自治体が半数を超えた一方で、対象となる酒の製造量や消費量が増えたかどうかについては「どちらとも言えない」との回答が54.2%を占めました。また、イベントや取組を継続している自治体や、酒造組合や酒蔵が取組を続けている自治体ほど、住民の認知度も高い傾向が見られたとされています。条例を制定しただけで効果が生まれるのではなく、制定後の地道な取組が成果を左右することがうかがえます。
兵庫県内の乾杯条例
兵庫県内で乾杯条例を制定している市町は、地方自治研究機構の一覧(令和7年12月3日時点)と各市の公表資料で確認できる範囲では、次の15市町です。県としての乾杯条例は、この一覧では確認できません。
| 自治体 | 条例名 |
|---|---|
| 神戸市 | 神戸灘の酒による乾杯を推進する条例 |
| 西宮市 | 西宮市清酒の普及の促進に関する条例 |
| 伊丹市 | 清酒発祥の地伊丹の清酒の普及の促進に関する条例 |
| 姫路市 | 姫路市日本酒の振興及び日本酒を活用した地域観光の促進による地域の活性化に関する条例 |
| 明石市 | 明石市の伝統産業である清酒による乾杯の普及の促進に関する条例 |
| 西脇市 | 日本のへそ西脇地域食材でおもてなし条例 |
| 三木市 | 三木市日本酒による乾杯を推進する条例 |
| 加西市 | 加西の酒で乾杯を推進する条例 |
| 加東市 | 加東市日本酒による乾杯を推進する条例 |
| 宍粟市 | 日本酒発祥の地宍粟市日本酒文化の普及の促進に関する条例 |
| 神河町 | 神河町ゆず酒による乾杯及び普及に関する条例 |
| 香美町 | 香美町今日の良き日、日本酒で乾杯条例 |
| 新温泉町 | 新温泉町日本酒の普及の促進に関する条例 |
| 丹波篠山市 | 丹波篠山ふるさとに乾杯条例 |
| 淡路市 | 淡路市ふるさとの恵みによる乾杯の普及の促進に関する条例 |
県内で最も早く施行されたのは、平成25年6月6日に公布と同時に施行された加東市の条例です。続いて三木市が同月24日に施行し、西宮市が同年7月10日に公布して10月1日に施行、伊丹市が同年9月27日に公布しています。その後も加西市が平成26年4月1日、神戸市が同年11月1日に施行し、神河町が平成27年3月26日に公布するなど、京都市の条例から2年ほどの間に県内の制定が相次ぎました。
条例の名称や内容には、それぞれの地域の個性が表れています。加東市の条例は、市の特産である酒米の山田錦と愛山を原料とする日本酒による乾杯を推進し、日本酒の消費拡大を通じて農家の酒米づくりへの意欲を高めることを目的に掲げ、農家の役割についても規定を設けています。伊丹市は「清酒発祥の地」、宍粟市は「日本酒発祥の地」を条例名にうたい、それぞれの歴史を地域の誇りとして打ち出しています。一方、神河町は特産のゆず酒、淡路市はふるさとの恵み、西脇市は地域の食材を対象としており、日本酒に限らない形で地元の産品を広めようとしています。
三木市では、令和7年12月の市議会に、条例の名称を「三木市産の山田錦を使用した日本酒による乾杯を推進する条例」に改める議員提出議案が出されました。日本酒であれば産地を問わず乾杯を推進するという当初の内容から、三木市産の山田錦を使った日本酒に焦点を絞る方向へ見直そうとするものです。制定から10年以上が経過した条例を地域の実情に合わせて見直す動きとして、今後の取扱いが注目されます。
灘五郷と西宮市の条例
灘五郷は、神戸市の西郷、御影郷、魚崎郷と、西宮市の西宮郷、今津郷からなる酒造地の総称です。六甲山系から流れる良質な水と、背後に控える播磨の酒米、江戸へ酒を運ぶ廻船に適した港という条件に恵まれ、江戸時代から「灘の酒」として名声を高めてきました。神戸市や地元の酒造業界は、灘五郷を日本一の生産量を誇る酒どころと紹介しており、平成30年6月28日には、国税庁長官から清酒の地理的表示(GI)「灘五郷」の指定を受けています。
西宮市は、このうち西宮郷と今津郷を擁する酒どころであり、清酒造りに欠かせない「宮水」の保全にも条例を定めて取り組んできました。こうした背景のもと、平成25年7月10日に「西宮市清酒の普及の促進に関する条例」を公布し、同年10月1日から施行しています。市は条例の趣旨として、市民や事業者とともに清酒造りの伝統と技を守り、冠婚葬祭の場で行われてきた「日本酒で乾杯」の習慣を発信して、次の世代に引き継いでいくことを掲げています。
条例は、前文で制定の目的を示したうえで、市と事業者、市民のそれぞれの役割を定める構成になっています。市には清酒による乾杯の奨励を通じて普及の促進に努めることを、清酒の製造業者には主体的に普及に取り組むことを、それ以外の事業者には市や製造業者の取組に参加することを、市民にはこれらの取組に協力することを求めており、いずれも努力義務の規定です。罰則は設けられておらず、乾杯条例に共通する理念的な性格をそのまま備えた条例といえます。
条例の施行にあわせて、市は「“西宮の日本酒”振興プロジェクト」を立ち上げ、「新しい、日本酒の風景をつくろう」をテーマに日本酒の魅力を発信する企画を展開してきました。毎年10月に西宮神社とその周辺で開かれる「西宮酒ぐらルネサンスと食フェア」は、2026年に第30回を迎え、市内8蔵の日本酒の有料試飲や地元飲食店の出店、江戸時代の新酒輸送を再現した新酒番舩祝練り歩きでにぎわいました。条例が掲げる理念を、地域の行事として目に見える形にしている好例です。
地酒を販売するときの手続き
乾杯条例をきっかけに、地元の酒を扱う事業を始めたいと考える事業者もいるでしょう。酒類を継続して販売する場合は、酒税法第9条に基づき、販売場ごとにその所在地を管轄する税務署長から酒類販売業免許を受けることになります。店頭で一般の消費者や飲食店に販売する場合は一般酒類小売業免許、インターネットやカタログで2都道府県以上の消費者に販売する場合は通信販売酒類小売業免許が対象となり、仕入先や販売方法によって取得すべき免許の区分が変わります。
地酒をインターネットで全国に販売したい場合には、通信販売酒類小売業免許の範囲に注意が必要です。この免許で販売できる国産の酒類は、原則として、年間の課税移出数量がすべて3,000kl未満の製造者が製造・販売する酒類に限られています。地方の小規模な蔵元の地酒であれば対象となることが多い一方、大手酒造メーカーの商品は通信販売の対象にできないため、取り扱う銘柄を決める段階で製造者の規模を確認しておくことが大切です。
地域のイベントや催事で地酒を販売する場面では、期限付酒類小売業免許が関係します。これは、博覧会場や即売会場といった臨時の販売場で一定の期間に限って酒類を販売するための免許で、すでに酒類販売業免許を持つ事業者が、開催地を管轄する税務署長に申請して受けるものです。会場で開栓したお酒をその場で飲んでもらう形の提供は、酒類販売業免許ではなく、食品衛生法に基づく飲食店営業許可の対象となる点も押さえておきましょう。
酒類販売業免許の審査では、申請者の経歴や経営基礎に関する要件、販売場の設備、需給調整上の要件が確認され、標準処理期間は2か月とされています。乾杯条例に合わせたキャンペーンや、地元の祭りに合わせた販売を計画している場合は、審査期間を見込んで余裕のある日程で準備を始めることが欠かせません。免許の区分や要件は事業の形態によって細かく分かれるため、計画の早い段階で専門家に相談しておくと、取得までの道筋を立てやすくなります。
まとめ
乾杯条例は、平成25年の京都市を皮切りに全国へ広がった、地元の酒による乾杯を呼びかける条例です。罰則や義務を伴わない理念的な条例ではありますが、地元の酒や食文化への理解を深め、酒造業や酒米づくりを地域ぐるみで支えようとする自治体の姿勢を示すものとして、制定から10年以上を経た今も各地で取組が続いています。
兵庫県では、灘五郷を抱える神戸市や西宮市、清酒発祥の地を掲げる伊丹市、山田錦の産地である加東市や三木市をはじめ、15の市町が乾杯条例を制定しています。日本酒だけでなく、ゆず酒やふるさとの恵み、地域の食材を対象とする条例もあり、それぞれの地域が自らの強みを生かして地元の産品を発信しようとしている様子がうかがえます。
条例の効果は、制定後の取組の積み重ねによって大きく左右されます。西宮市の「西宮酒ぐらルネサンスと食フェア」のように、行政と酒造業者、地域の事業者が一体となった行事が続くことで、住民の認知も高まり、地元の酒を選ぶ人の輪も広がっていきます。酒類を扱う事業者にとっては、こうした流れを販路の拡大や商品づくりに生かすことが、条例の理念を事業に取り込む第一歩になるでしょう。
弊所では、一般酒類小売業免許、通信販売酒類小売業免許、期限付酒類小売業免許をはじめとする酒類販売業免許の申請を代行しています。地元の酒を扱う店舗の開業やネット販売、イベントでの販売をお考えの方は、免許の区分の判断から書類の作成まで一括してお任せいただけますので、どうぞお気軽にご相談ください。


