障がい福祉事業における共通の指定要件について
障がい福祉事業を行う際は、法令において定められている指定基準を満たした上で申請し、地方自治体による障害福祉サービス事業者の指定を受ける必要があります。
この指定基準は、サービス種別ごとに細かく定められており、さらには各自治体の独自ルールも反映されるため、すべてを把握し理解するには、相当な労力を費やすことになります。
その一方で、障害福祉サービス事業者であれば最低限備えておくべき共通要件も存在しており、あらかじめこれを知り備えることで、申請にかかる労力をある程度軽減することができます。
そこで本稿では、これから障がい福祉事業に踏み出そうとされる皆さまに向けて、「はじめの一歩」をお助けすべく、障害福祉サービス事業者として最低限抑えるべき共通の指定要件について解説していきたいと思います。
目 次
指定を行う行政機関
Q.誰が指定を行うの?
障害福祉サービス事業者の指定は、事業予定地を管轄する地方自治体が行います。ここでいう地方自治体とは、多くの場合は都道府県になりますが、地域によっては指定権限を市町に委譲していることがあり、その場合には市町が指定を行います。
たとえば尼崎市では、障害福祉サービス事業の指定は尼崎市が行います。他方、障害児入所施設等の指定については兵庫県が行います。このようにサービス種別によっては、そもそも指定権者が異なることがあるため、開業を検討する際には、事業地を確定した上で、指定権者が都道府県であるのか市町村であるのかを確認するようにしましょう。
Q.何のために指定を行うの?
障がい福祉事業には、給付金という形で公金から支出が行われています。公金は住民の負担によって集められたお金ですので、悪いことをしそうな人や信用のできない人にこれを使うわけにはいきません。公益性の高い事業であることも加味すれば、やはり信用のできない人に事業を任せることはできません。
このように、事業への新規参入に対して一定のハードルを設け、営業開始後も事業者を監督下に置いて適正な運営を促すために行われているのが「指定」の制度です。
共通指定要件
- 法人格を有すること
- 人員配置基準をみたすこと
- 設備基準をみたすこと
- 法令に適合していること
- 欠格事由に該当しないこと
上記は、すべての障害福祉サービス事業者に共通して求められている要件であり、これらのうち、いずれが欠けても指定を受けることはできません。
法人格を有すること
障がい福祉事業の「個人経営」は認められていません。障がい福祉事業を営むためには「法人格」の取得が前提条件となります。なお、法人の種類については特に定めはありません。
Q.「法人」って何?
法人とは、法律によって権利義務の主体となる資格(人格)を認められた「集団」や「財産」といった概念です。イメージとしては、「会社組織」がその最たる例です。
一般的には、個人よりも法人の方が信用度が高いとされている点に着目し、特に信用が重要視されている障がい福祉事業において、申請者にその信用を担保させるために設けられた要件になります。
★法人の代表例
- 株式会社
- 合同会社(LLC)
- 社団法人(一般・公益)
- 財団法人(一般・公益)
- NPO法人
Q.「定款」って何?
定款とは、会社を運営していく上での基本的規則を定めたルールです。定款の「目的」の部分には必ず「障害福祉サービス事業を行う旨」の記載がなければなりません。この記載を誤ると、指定申請が却下されることもあるので注意が必要です。
Q.他に「定款」に記載すべき事項はあるの?
就労継続支援A型(雇用型)については、専ら社会福祉事業を行う法人であることが要件とされているため、定款にも「社会福祉事業のみを行う」形での記載が必要です。
人員配置基準をみたすこと
各サービスごとに細かい基準が設定されています。ここでは配置すべき人員として多くのサービスに登場する管理者とサービス管理責任者(以下、サビ管)について紹介させていただきます。
Q.「管理者」って何?
管理者とは、運営全般の管理を行う者のことです。適切なサービスを提供すること、サービスを提供するために必要な従業員を確保して配置すること、従業員の業務を管理すること、正確な報酬請求の管理、建物・備品・消耗品等の管理などを通して、管理業務全般を行っています。
Q.「サービス管理責任者」って何?
管理者が運営全般を管理する者であるならば、サービス管理責任者(サビ管)はその名のとおりサービスの責任者です。サビ管は、おもに次のような業務を担当します。
- 個別支援計画の作成管理
- 従業員への指導や助言
- 関係者や関係機関との連絡調整
Q.「管理者」と「サビ管」の違いは?
上で述べたように、運営全般を管理するのが管理者であり、提供するサービスの責任者が「サビ管」です。組織図で例えるならば「管理者」が「取締役」で「サビ管」が「総務部長」といったイメージです。なお、「管理者」と「サビ管」は兼務することが可能です。
設備基準をみたすこと
- 構造は利用者の特性に応じて工夫されていて、かつ、日照、採光、換気等、利用者の保健衛生及び防災に配置されていること
- 面積や規模を定める規制については、サービスの質を維持するために必要最低限のものであること
- 設備は専ら事業所の用に供するものであること
人員と設備基準に関する参考資料
法令に適合していること
障がい福祉事業では、障害者総合支援法や児童福祉法といった法律のほか、関連するすべての法令について適合させることが求められています。具体的には、次のような法律がその代表例となります。
- 都市計画法
- 農地法
- 建築基準法
- 消防法
Q.「都市計画法」で注意すべきポイントは?
前提として、都市計画法で定める「市街化調整区域」では、障がい福祉事業を営むことができません。市街化調整区域は無秩序な市街地の拡大を防ぐために設定されている区域のため、積極的な開発は行いません。この区域において建築を行おうとする際は、開発許可を受ける必要があり、建築の方法や規模などについても多くの制限が設けられています。
土地の価格が割安な傾向があるので、格安な土地を購入してみたら市街化調整区域に指定されていたというようなケースも想定されるため、十分にご注意ください。
Q.「農地法」で注意すべきポイントは?
農地法で定める「農地」では、原則として耕作以外の用途で土地を使用することはできません。農地を耕作以外の用途で使用する際には、転用許可を受ける必要があります。また、たとえ許可を受けた場合であっても、許可条件に反する土地利用は認められません。
したがって、農地においては、転用の許可なく障がい福祉事業を営むことはできません。
Q.「建築基準法」で注意すべきポイントは?
既存の建物を改修して事業用に使用する場合、その建築面積が200㎡を超えるときは、建築基準法上の「用途変更の確認申請」が必要になります。
Q.「消防法」で注意すべきポイントは?
指定申請時には「防火対象物使用開始届」を提出する必要があります。また、建築物には用途ごとに定められている構造基準があり、この基準を満たしていない建築物は、その使用が禁止されたり、改修を命じられたりすることがあります。必要となる設備の新設や改修には、莫大な費用と工期が発生する場合もありますので、設備を設置する前には、必ず所轄の消防署と協議を行うようにしましょう。
欠格事由に該当しないこと
次のいずれかに該当する事由(欠格事由)がある場合は、障害者福祉サービス事業の指定を受けることができません。
申請者が都道府県の条例で定める者でないとき
事業所の従業者の知識及び技能並びに人員が基準を満たしていないとき
申請者が設備及び運営に関する基準に従って適正な障害福祉サービス事業の運営をすることができないと認められるとき
申請者(管理者、役員等含む)が禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき
申請者(管理者、役員等含む)が障害者総合支援法その他国民の労働・保健医療・福祉に関する法律で政令で定めるものの規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者であるとき
申請者が指定を取り消され、その取消しの日から起算して5年を経過しない者(取消しの通知があった日前60日以内に役員又はそのサービス事業所を管理する者管理者その他の政令で定める使用人であった者で当該取消しの日から起算して5年を経過しないものを含む)であるとき
申請者の親会社等密接関係者に該当する法人が指定を取り消され、その取消しの日から起算して5年を経過していないとき
申請者(管理者、役員等含む)が取消しの処分に係る通知があった日から当該処分をする日又は処分をしないことを決定する日までの間に事業の廃止の届出をした者(当該事業の廃止について相当の理由がある者を除き、通知の日前60日以内に役員等又は管理者であった者を含む)で、当該届出の日から起算して5年を経過しないものであるとき
申請者(管理者、役員等含む)が検査が行われた日から聴聞決定予定日までの間に事業の廃止の届出をした者(当該事業の廃止について相当の理由がある者を除く)で、当該届出の日から起算して5年を経過しないものであるとき
申請者(管理者、役員等含む)が、指定の申請前5年以内に障害福祉サービスに関し不正又は著しく不当な行為をした者であるとき
必要となる書類
必要となる書類は非常に多くなります。
携わる業種についてしっかり確認するようにしましょう。
指定申請に必要となる書類
介護給付費等算定に係る届出書類
まとめ
本稿でご案内させていただいた共通要件は、あくまでも指定基準の土台の一部にしか過ぎません。実際に各サービスごとに指定申請を行う際には、さらに細やかな要件が求められることになります。
申請には期日がありますので、直前に慌てることのないように、まずはしっかりと周辺知識を蓄え、明確なビジョンと事業計画のもと、準備を進めるよう心がけましょう。
当事務所は福祉と手続きのエキスパートです。
弊所では、障がい福祉事業に関するさまざまな情報を発信するとともに、指定申請に関する手続きのサポートを行っています。代表は介護施設を運営していた実績を有する福祉の専門家であるとともに、現役のケアマネジャーという傾聴のスペシャリストでもあります。
ご不明な点、ご不安な点がありましたら、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。
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