ビールの製造工程について

海外のビール工場

普段何気なく口にするビールですが、銘柄や種類により、味わいや喉越しはそれぞれ異なります。近年は、発泡酒や第3のビール(新ジャンル)といったビールテイストの酒類が台頭していますが、日本におけるビール人気はまだまだ健在といったところです。

他方、古くからビール製造に携わっているのでなければ、その製造工程については、ほとんどの方が知り得る状況にないのが現実でしょう。

ユーザーとしてお酒を楽しむ場合もさることながら、ビールに係る酒類製造や酒類販売の免許を取得する上においては、その製造工程についても、明確に理解する必要性に迫られます。

そこで本稿では、ビールの製造工程について、その定義や原料等も踏まえつつ、改めてしっかりと解説していきたいと思います。

ビールの定義

ビールの製造工程を解説する前に、そもそもビールがどのようなものを指すのかを確認する必要があります。

ビールをはじめ、酒類の品目は、酒税法及び酒税法施行令により17品目に分類されており、このうちビールについては、以下のいずれかの酒類であって、アルコール分が20度未満のものであることが定義されています。

  • 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
  • 麦芽、ホップ、水、麦、米、とうもろこし、高粱(もろこし)、馬鈴薯、でん粉、糖類若しくはカラメル又は果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)若しくはコリアンダーその他の財務省令で定める香味料を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の50%以上のものであり、かつ、その原料中果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料の重量の合計が麦芽の重量の5%を超えないものに限る)
  • 上記の酒類に、ホップ、果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の50%以上のものであり、かつ、その原料中果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料の重量の合計が麦芽の重量の5%を超えないものに限る)

なお、ビールの原料となる「コリアンダーその他の財務省令で定める香味料」とは、コリアンダー又はその種のほか、ビールに香り又は味を付けるため使用する以下の物品が該当します。

  • 胡椒、シナモン、クローブ、山椒その他の香辛料又はその原料
  • カモミール、セージ、バジル、レモングラスその他のハーブ
  • 甘藷(サツマイモ)、かぼちやその他の野菜(野菜を乾燥させ、又は煮つめたものを含む)
  • そば又はごま
  • 蜂蜜その他の含糖質物、食塩又はみそ
  • 花又は茶、コーヒー、ココア若しくはこれらの調製品
  • 牡蠣、昆布、わかめ又はかつお節

また、ビールと混同されやすい発泡酒については、以下のいずれかの酒類(清酒、合成清酒、連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、みりん、ビール、果実酒、甘味果実酒、ウイスキー、ブランデー及び原料用アルコールを除く)のうち、発泡性を有するものであって、アルコール分が20度未満のものとされています。

  • 麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く)
  • ホップを原料の一部としたもの
  • 上記以外の酒類であって、香味、色沢その他の性状がビールに類似するものとして、以下のいずれにも該当する酒類
    • 財務省令で定める方法(※1)により測定した場合における光を吸収する度合を基礎として算出した苦味価の値(吸光度×50)が5以上であること
    • 財務省令で定める方法(※2)により測定した場合における光を吸収する度合を基礎として算出した色度の値(吸光度×25(希釈した場合にあっては、25×希釈率))が4以上であること

(※1)財務省令で定める方法は、酒類(濁りのある酒類にあっては、濁りを取り除いたもの)100㎤に15mm3のオクチルアルコールを加え、温度約20度において20分間かくはんした後、その10㎤を遠沈管に採り、これに6mol/Lの塩酸0.5㎤及びイソオクタン20㎤を順次加え、遠沈管に共栓をして毎分240回から毎分260回の範囲の速度で15分間振とうし、それを毎分3000回で5分間遠心分離して得られたイソオクタン層について、日本産業規格に定める吸光光度分析通則に従い、光路長10mmの吸収セルを用いて波長275nmにおけるイソアルファー酸及び還元型イソアルファー酸に由来する吸光度を純粋なイソオクタンを対照として測定する方法とする。

(※2)財務省令で定める方法は、炭酸ガスを抜く処理を施した酒類について、吸光光度分析通則に従い、光路長10mmの吸収セルを用いて波長430nmにおける吸光度を測定する方法とする。(吸光度が0.8以上である場合には、0.8未満となるように酒類を蒸留水で希釈した上で前段に規定する方法によって測定する方法とする)

見た目やテイスト的にもビールと遜色ない発泡酒ですが、その違いは、上記のとおり、おもにその原料にあります。

ビールの代表的な主原料は、麦芽、ホップ及び水であり、これに米やトウモロコシ等の副原料を加えることが認められている一方で、「その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の50%以上のもの」がビールとして定義されていることから、副原料については、麦芽の重量を超えてはいけないというルールが定められています。

日本の発泡酒として代表的なものは、ビールと同じく麦芽又は麦を原料の一部とした発泡性のある酒類ですが、ビールとの違いは、原料としての麦芽の割合と、定められた原料以外のものを使用しているかどうかにより決します。

これらを踏まえ、「副原料が麦芽の重量を上回るビール風味の酒類」、「ビールの原料として認められていない原料を使ったもの」及び「麦芽ではく麦を原料とするもの」等、ビールには該当しないものが発泡酒に該当することになります。

★第3のビール(新ジャンル)

「第3のビール」は、ビール及び発泡酒に続くビールテイストの酒類です。「ビール」にも「発泡酒」にも当たらないように、原料を麦や麦芽以外の穀物(主に豆類)にしたり、発泡酒に別のアルコール飲料(麦由来の蒸留酒)を混ぜるという手法を採用しているため、酒税法上、前者は「その他の醸造酒(発泡性)」、後者は「リキュール(発泡性)」に分類されます。

「その他の醸造酒(発泡性)」や「リキュール(発泡性)」であれば、ビールや「発泡酒よりも税率が低めに設定されているため、消費者は、「第3のビール」を割安で購入することができるようになります。

ビールの原料

前章で解説したとおり、ビールの原料にはさまざまなものがありますが、代表的な原料は、麦芽(モルト)、ホップ、水及び酵母です。これら4つの原料だけでも、それぞれ種類は数多く存在するため、原料を投じるタイミング等を含め、その組み合わせにより、出来上がるビールの味わいも無限に広がります。

麦芽(モルト)

代表的な原料のうち、「麦芽(ばくが)」(モルト)とは、読んで字のとおり、発芽した麦のことをいいます。

大麦の種子中には、糖化酵素(アミラーゼ)が多量に含まれており、発芽によってこの酵素が活性化されることにより、種子中のデンプンが糖化され、アルコールの元となる麦芽糖が生成されます。

ホップ

ホップは、アサ科に属するつる性多年草であり、その雌花は「毬花」と呼ばれ、これがビールの主原料の一つとなります。ホップの毬花には、ルプリンと呼ばれる黄色の粒子が存在し、ビールに香りや苦味を与える物質はこのルプリンの中に含まれます。

ただし、単にホップを加えるだけでは苦味は生まれず、ホップの中に存在するフムロンが煮沸されイソフムロンに変換されることにより、初めて苦味を持つようになります。

また、毬花には雑菌の繁殖を抑える効果があることから、ビールの保存性を高めることにも役立ちます。

酵母

酵母とは、真菌類に属する微生物のことで、食品を発酵させるためには不可欠な原料です。酵母には、さまざまな種類がありますが、ビール酵母は、原料の糖分を餌とし、発酵する際にアルコールと炭酸ガスを生成します。

ビールの製造工程

麦芽(モルト)、ホップ、水及び酵母を原料とするビールの製造工程は、おおむね以下のとおりです。

ビールの製造工程図
精麦大麦を発芽させ、麦芽を発芽させ、麦芽(モルト)とする作業
ミリング麦芽を粉砕するための作業
仕込み麦芽からビールの元となる麦汁を生成する作業
発酵発酵タンクに酵母を加えてアルコールを生成する作業
貯酒・熟成ビールを熟成させ、味を整えるための作業
充填ビールを容器(缶・瓶・樽)に詰める作業

製麦

大麦を発芽させて麦芽をつくる工程を製麦(せいばく)と呼びますが、ビールづくりは、まずはこの製麦から始まります。収穫したばかりの大麦は、休眠の状態にあり、すぐには発芽しません。このため製麦工場では、発芽試験を実施し、休眠が明けているかを確認します。

その後に大麦の粒をふるいにかけ、選定した大麦の粒について、浸麦、発芽、焙燥の順に、作業を進めていきます。

浸麦

浸麦(しんばく)という工程では、約15℃の水温の水に2日間ほど大麦を浸け込み、麦芽の発芽を促します。

この間に浸麦水は何度か取り替えられるため、粒の表面についたほこり等が洗い流され、一部の雑味成分も、この水に溶け出していきます。

発芽

発芽(はつが)が開始すると同時に、大麦は、自らの酵素により、デンプンやタンパク質等の栄養分を分解し始めます。

発芽中の大麦は、「緑麦芽」と呼ばれ、硬かった大麦の粒も発芽工程を経ることにより、やわらかくなります。

焙燥

焙燥(ばいそう)とは、麦から麦芽を作る際に、その発芽を止めるために、麦を加熱し乾燥させる醸造工程のことをいいます。

緑麦芽の中に含まれる酵素は、後の仕込工程で重要な役割を果たすため、これらの酵素がその働きを失わないよう、まずは低めの温風で緑麦芽を乾燥させます。

その後、80℃程度の熱風を送り込み、発芽を止めて乾燥させます。このとき、焙燥の温度や時間を調整することで、さまざまな色や香りを持つ麦芽に仕上がります。この工程により、麦芽は芳ばしく仕上がり、雑菌も繁殖できないほどに乾いて長期保管が出来るようになります。

焙燥が終了すると、渋味や雑味の原因になる麦の根を専用の装置で取り除き、その後1か月程度、仕上がった麦芽をサイロで寝かせます。

ミリング(麦芽粉砕)

でんぷんが効率的に糖に分解されるよう、製麦した麦芽をミルで細かく粉砕する作業を、ミリング(麦芽粉砕)といいます。

逆に細かくし過ぎると、ろ過工程でろ過が遅くなるほか、麦芽の穀皮に含まれエグ味の元となるタンニンが溶け出してしまうため、麦芽は比較的粗く挽く必要があります。

仕込み

仕込みとは、麦芽からビールの元となる麦汁を生成する作業です。糊化、糖化、濾過、煮沸の順に作業を進めます。

糊化

酵母が麦芽のデンプンを糖に分解するために、まずはデンプンを小さくする必要があります。この工程では、ミリングした麦芽を仕込み用の釜や樽に入れ、そこに60〜65℃のお湯を加え、加熱処理をしながら攪拌(かくはん)し、麦芽を糊状にします。

デンプンが粘性のある糊状の半液体となることから、これを「糊化」(こか)と呼んでいます。

糖化

酵素の働きによって、糊化した麦芽のデンプンが糖に変わり、タンパク質はビールの泡を形成するペプチドと、酵母の栄養となるアミノ酸に分解されます。

濾過

糖化が完了した麦芽(マッシュ)には、麦芽の粒や穀皮等の固形物が含まれ、濁っているため、これらの固形物を除去するために、濾過(ろか)を行う必要があります。濾過には穴の開いた金属板を用いるロイター式と、布を使うフィルタープレス式の2通りがありますが、いずれの方式でも、麦の穀皮をフィルターとして使用します。

マッシュを濾過したものを「麦汁」といいますが、濾過槽に移されたマッシュがそのまま濾過されたものを「第一麦汁」、大部分のエキスの抽出を終えた固形分である「もろみ層」にお湯をかけ、残っているエキス分を抽出したものを「第二麦汁」といいます。

★無濾過ビール

熱処理をしないビールを「生ビール」と呼ぶことに対し、濾過をしないビールを「無濾過ビール」と呼びます。酵母が生きたままの状態であるため、賞味期限は短いですが、濁りがあり、味わいとしては濃厚なコクと香りが特徴的です。

煮沸

濾過された麦汁は煮沸釜に移し、①香りや苦味の付与、雑菌繁殖の抑制及び泡持ちの向上、②第二麦汁によって希釈された麦汁の濃縮、③加熱による麦汁中の凝固性タンパク質の凝固、④酵素の失活、並びに⑤麦汁の完全な殺菌を目的として、ホップを添加して煮沸を行います。

ホップの添加のタイミングには、煮沸前に全量投入する方法や、煮沸中に分割して投入する方法がありますが、ホップの香りを強くつけるために、一部を煮沸終了直前に添加したり、少量のホップ(ドライホップ)を後発酵の際に使用する方法もあります。いずれの方法でも、煮沸する時間によって苦味と香りの付き方が変化するため、ホップ投入のタイミングは、分単位でコントロールします。

煮沸を終えた麦汁は、円筒形の槽(ワールプールタンク)の縁に沿って勢いよく流し込み、槽内で麦汁を旋回させることにより、凝集物を中心部に集合させて除去します。

発酵

ビールの元となる麦汁が完成したら、発酵タンクにこれを移し、酸素を供給した酵母を加え、冷却器に入れて発酵開始温度(下面発酵の場合は通常8~10℃、上面発酵で15~20℃)まで冷却します。

添加した酵母は、麦汁に含まれる糖分を分解し、この過程でエチルアルコールと炭酸ガス(ビールの泡)が生成され、約1週間で若いビールが出来上がります。(前発酵)

熟成・貯酒

前発酵を終え、発酵が緩慢になった若ビールを貯酒タンクに移し替え(ビール下し)、沈降していた酵母をビール中に拡散させて再び活発な発酵を促しつつ、0℃以下の低温で数十日間貯蔵します。(後発酵)

熟成工程では、発生する炭酸ガスを溶解させますが、適正な含有量を維持するため、ガス圧調整器により過剰になったガスをタンクから逃がし、ガス圧を一定に保ちます。

充填

熟成を終え、酵母や不要な成分等を取り除くために濾過したビールを容器(缶・瓶・樽)に詰め、後は保管し、出荷を待ちます。

ビール製造免許について

酒類を勝手につくることは禁止されており、ビールを製造しようとする者は、品目別及び製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許を受ける必要があります。

免許制は酒類の流通経路を明確にし、酒税を円滑に納付させることを目的とする制度であり、このうち酒類を製造する免許のことを一般的には「酒造免許」と呼んでいますが、酒税徴収の対象である酒類そのものを製造するための免許であることから、酒販免許(酒類を販売する免許)よりも一段高いハードルが設定されています。

酒類の製造免許を受けるためには、多くの基準をクリアする必要がありますが、ビール製造の場合、免許を受けた後1年間に製造しようとする酒類の見込数量が、製造場ごとに、60kl(※発泡酒は6kl)に達しない場合には、これを受けることができません。また、実際の製造数量がこれを3年間下回ると、免許取消しとなってしまいます。

その他詳細については、以下の記事でしっかりと確認するようにしてください。

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