800円まで?1000円まで?ゲームセンターにおける景品の提供方法について│知らなければ恐ろしい風営法の解釈

クレーンゲームのクレーン

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)において、ゲームセンターが「風俗営業」として規制の対象とされていることは、意外にもご存じではない方が多いように思います。この辺りの詳しい解説は以下の記事に譲りますが、われわれ行政書士や警察機関は、ゲームセンターを「5号営業」と呼称して、れっきとした風俗営業のお店として取り扱っています。

多くのゲームセンターでは所狭しとクレーンゲームが並んでいますが、ガラスケースの中には可愛らしいぬいぐるみや非売品のアニメグッズなどが配置されていて、ゲームの結果に応じてこれらの「景品」を貰えることは、老若男女問わずもはや世間の一般常識となっています。

ところで冒頭で触れた風営法では、ゲームセンターやマージャン屋について、以下のような定めを置いています。

第2条第1項第4号のまあじやん屋又は同項第5号の営業を営む者は、前条第1項の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。

(風営法第23条第2項)

マージャン店は「4号営業」、ゲームセンターは「5号営業」ですから、本来であればこれらのお店では、遊戯の結果に応じて商品を提供することは認められていないことになります。

え、じゃあクレーンゲームは違法なの?

こんな風に驚かれた方も多いのではないかと思います。クレーンゲームはゲームセンターの「顔」ですし、お客さんは「景品が貰えるかもしれない」ことに期待して硬貨を投じるわけです。これがもし違法行為を助長するものであるならば、何だかゲームをプレイすることも躊躇してしまいます。

そこで本稿では、禁止とされているはずの景品の提供が、ごく当たり前のように行われていることに対する法的な解釈について詳しく解説していきたいと思います。

新たにゲームセンターやアミューズメント施設をはじめようとされている方は、特にしっかりと確認するようにしましょう。

規制の趣旨

レーシングゲーム

お伝えしたとおり、法律上ゲームセンター(5号営業)が遊戯の結果に応じて商品を提供する行為は禁止されています。ゲームが日常生活に根づいた現代を生きる皆さまからすれば、「え、何で?」となりそうなところではありますが、よくよく考えれば実は当然の規制であるともいえます。

ご存じのとおり日本では賭博行為が禁止されています。そもそもゲームセンターが風俗営業として規制の対象となったのも、コンピューターゲーム黎明期の1980年代にゲーム機(ポーカーゲーム機)を用いた賭博行為が横行したことがその背景にあります。

その後ゲーム機は日常生活にも溶け込むほど発展し多様化しましたが、賭博の対象となりうる存在であることには変わりなく、それが現在まで続く規制の根拠となっているわけです。

やっぱり違法なの!?

景品貰えないならクレーンゲームなんてしないよ!

ここまでお読みいただければ「なるほどな」とある程度は納得していただけたとは思いますが、それでも何となく受け入れがたいモヤモヤを払拭できない方も少なくないように思います。それはゲーム機が本来持つ「遊び」の側面が少なからず損なわれてしまっているように感じるからではないかと推察します。

何よりもクレーンゲームにおける景品の提供は、現実として日常的に行われています。次章ではこの矛盾点や上記のような声にお答えする形で解説を進めていきたいと思います。

商品の提供が黙認されている理由

座っているテディベア

結論から言えば、日本アミューズメント産業協会が定めるガイドラインに従って運営がなされていれば、違法行為とはみなされず取締りの対象ともなりません。合法と表現するよりも、厳密には「黙認されている状態」にあるものと解釈する方が妥当でしょう。

当たり付の自動販売機や駄菓子が現存することは皆さまもよくご存じだと思います。これらは風営法の規制対象外のため現実的な比較対象にはなじみませんが、このような少額かつ道徳心に反しない程度のものであれば、多少の「遊び心」を残してあげてもいいだろうとするのが警察庁のスタンスです。

実際に警察庁が公表している解釈運用基準(通達)の中でも、以下のように具体的な取扱方法について触れ、そのスタンスを明らかにしています。

遊技の結果が物品により表示される遊技の用に供するクレーン式遊技機等の遊技設備により客に遊技をさせる営業を営む者は、その営業に関し、クレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね1,000円以下のものを提供する場合については法第23条第2項に規定する「遊技の結果に応じて賞品を提供」することには当たらないものとして取り扱うこととする。

(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について)

令和4年3月1日、警察庁が通達により解釈運用基準を改正しました。これにより、長らく800円までとされてきた景品の上限額が1,000円に引き上げられました。

これは裁判所による判例ではなく、あくまでも警察庁の独自解釈ではありますが、実際に取締りを行う警察がこのように判断している以上、この基準を守っていれば少なくとも刑事事件とされることはありません。

また、この通達に基づいて日本アミューズメント産業協会が策定しているガイドライン上においても、以下のように記載がなされています。

景品として提供する物品は小売価格でおおむね800円以下のものとする。

小売価格とは、景品専用に開発された物品を除き、一般市場における価格とする。

なお、景品専用に開発された物品であっても1個あたりの価格はおおむね800円を超えてはならない。

(アミューズメント施設における景品提供営業のガイドライン)

景品の種類

既出のガイドラインでは、風営法を遵守する観点から、自主規制として以下の物品等を提供される景品として製造・販売・流通させないことを定めています。

  • たばこ、喫煙器具類、酒類、およびこれらをモチーフにした物品
  • 医薬品、興奮・めまい・幻覚等の作用を目的とする有機溶剤や成分を含有する物品
  • 青少年の健全な育成や公序良俗を阻害する内容が印刷または記録された各種メディア(図書、写真、フィルム、ビデオテープ、CD-ROM・DVD などの記録メディア類)
  • 性的な行為の用に供する物品および性器を模した物品
  • ショーツ、ブラジャー等の下着類
  • 金券類および類似品
  • 食品衛生法に抵触する材料を使用した物品
  • 偽造ブランド品や偽造キャラクターを使用したもの等、他者の知的財産権を侵害している物品
  • 心身に危害を与える恐れのある物品(レーザーポインター、刃物類)
  • 動物愛護の精神に反する恐れのある生物

景品提供の方法

ゲームセンターのUFOキャッチャー

ガイドラインでは、景品を提供する場合における提供方法についても、以下のような自主規制を設けてその適正化を図っています。

  • クレーン式遊技機等の遊技設備によりクレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね1,000円以下のものを提供すること
  • 景品はあらかじめ表示されている物品と同一のものであること
  • 景品と異なる高額なものをデモンストレーションとして展示しないこと
  • カプセル内に品名や記号を記したチケットなどを入れ、これを景品と交換しないこと
  • 提供した景品をもって他の景品と交換しないこと
  • 景品が手渡しで提供される仕組みの遊技の場合においても、ガイドラインの定めるところにより、景品の取扱いを行うこと
  • 4号営業に用いられるパチンコ機、パチスロ機に類する遊技機、メダルゲーム、ビデオゲーム、フリッパーゲーム機等の遊技機を用いる遊技においては、景品を提供しないこと

1,000円を超える景品があるのは何故?

高級腕時計

ここで改めて疑問に思われたのは、ゲーム機や音楽プレイヤー等、明らかに1,000円を超えるであろう景品が店先に並んでいるゲームセンターが存在していることではないかと思います。

はっきり言ってこれは違法です。

上手いこと法の抜け道をくぐり抜ける策を講じているのではないかとお考えの方もいるようですが、これは純然たる違法行為であり、特に規制逃れの方法もありません。風俗営業許可が必要なお店であるかどうかも関係ありません。

では何故摘発されずに存続しているのかという話しになると、これはただ単に大きく損害を被った被害者がいない(または申告しない)ことで、警察があえて積極的には動いていないだけの状態に過ぎません。

また、実際に警察が動くにせよ、まずは指導と注意、それから警告というステップを踏むことが多いので、「指導を受けた時点で高額景品の提供をやめてしまえばいいか」くらいの感覚で運営しているお店も少なくないように思います。

ただ違法行為であることは間違いないので、その気になれば指導をすっ飛ばして警察が踏み込んで来たとしてもおかしくはない状態でもあります。このため、お客様との間で大きなトラブルが発生した場合、刑事事件として立件される可能性が高いものと推察しています。

まとめ

実は私も、過去にクレーンゲームで5,000円ほど費やした経験があります。その時は苦労して獲得できたことに満足感を覚えていましたが、振り返ってみると恐らくは市場価格で500円程度の商品だったような気がします。(ちなみに『地上では3分間しか戦えないヒーロー』のぬいぐるみです。)

この例を踏まえると、クレーンゲームにはギャンブル的要素が多分に含まれていることがお分かりいただけると思います。私の場合は5,000円ほどの投資で済みましたが、高額景品を獲得できるかもしれないと期待する心理状況に陥れば、たとえ1回のプレイ代がより高く設定されていたとしても、さらなる投資を誘発する結果となることは明白です。

高額で魅力的な景品をラインナップ上に揃えることは、同業他社との競争に勝ち残るための策としてはあながち理解できないことではありません。ただし、ルール上で公平に競い合うことを求められている以上、この理論は通りませんし、「赤信号、皆で渡れば怖くない」という理屈も通用しません。

いずれにせよ、摘発のリスクを抱えてまで運営することはお薦めできません。既存のお店の運営者やこれから開業を目指す皆さまは、法令とガイドラインをしっかりと遵守した上で健全に運営することを心がけるようにしましょう。

風俗営業に関してお困りの際は、風営法に精通した当事務所まで、どうぞお気軽にご相談ください♪

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