医療機器の法的な取扱いについて
医療機器は、人の生命や健康に大きな影響を及ぼす製品であることから、その取扱いについては薬機法その他の法令によって厳格な規制がなされています。
薬機法(旧・薬事法)は、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言い、その名の通り、医薬品、医療機器等の品質と有効性および安全性を確保するほか、製造・表示・販売・流通・広告などについて細かく定めた法律です。
本稿では、この薬機法をベースにして、輸入・製造・販売等、医療機器を製品として取り扱う際の基礎となる法的知識について、ざっくりとご案内させていただきたいと思います。
目 次
医療機器とは
薬機法においては、医療機器を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)」と定義し、さらに政令によって、以下のように細かく分類しています。
機械器具
手術台及び治療台、医療用照明器、医療用消毒器、医療用殺菌水装置、麻酔器並びに麻酔器用呼吸嚢及びガス吸収かん、呼吸補助器、内臓機能代用器、保育器、医療用エックス線装置及び医療用エックス線線装置用エックス線管、放射性物質診療用器具、放射線障害防護用器具、理学診療用器具、聴診器、打診器、舌圧子、体温計、血液検査用器具、血圧検査又は脈波検査用器具、尿検査又は糞便検査用器具、体液検査用器具、内臓機能検査用器具、検眼用器具、聴力検査用器具、知覚検査又は運動機能検査用器具、医療用鏡、医療用遠心ちんでん器、医療用ミクロトーム、医療用定温器、電気手術器、結紮器及び縫合器、医療用焼灼器、医療用吸引器、気胸器及び気腹器、医療用刀、医療用はさみ、医療用ピンセット、医療用匙、医療用鈎、医療用鉗子、医療用のこぎり、医療用のみ、医療用剥離子、医療用つち、医療用やすり、医療用てこ、医療用絞断器、注射針及び穿刺針、注射筒、医療用穿刺器、穿削器及び穿孔器、開創又は開孔用器具、医療用嘴管及び体液誘導管、医療用拡張器、医療用消息子、医療用捲綿子、医療用洗浄器、採血又は輸血用器具、種痘用器具、整形用機械器具、歯科用ユニット、歯科用エンジン、歯科用ハンドピース、歯科用切削器、歯科用ブローチ、歯科用探針、歯科用充填器、歯科用練成器、歯科用防湿器、印象採得又は咬合採得用器具、歯科用蒸和器及び重合器、歯科用鋳造器、視力補正用眼鏡、視力補正用レンズ、コンタクトレンズ(視力補正用のものを除く)、補聴器、医薬品注入器、脱疾治療用器具、医療用吸入器、バイブレーター、家庭用電気治療器、指圧代用器、はり又はきゅう用器具、磁気治療器、近視眼矯正器、医療用物質生成器、これらの附属品で、厚生労働省令で定めるもの |
医療用品
エックス線フィルム、縫合糸、手術用手袋及び指サック、整形用品、副木、視力表及び色盲検査表 |
歯科材料
歯科用金属、歯冠材料、義歯床材料、歯科用根管充填材料、歯科用接着充填材料、歯科用印象材料、歯科用ワックス、歯科用石膏及び石膏製品、歯科用研削材料 |
衛生用品
月経処理用タンポン、コンドーム、避妊用具、性具 |
プログラム
疾病診断用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く) 疾病治療用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く) 疾病予防用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く) |
プログラムを記録した記録媒体
疾病診断用プログラムを記録した記録媒体、疾病治療用プログラムを記録した記録媒体、疾病予防用プログラムを記録した記録媒体 |
動物専用医療機器
機械器具及び医療用品に掲げる医療機器に相当する物で、専ら動物のために使用されることが目的とされているもの、疾病診断用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、動物の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く)、疾病治療用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、動物の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く)、疾病予防用プログラム(副作用又は機能の障害が生じた場合においても、動物の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものを除く)、プログラムを記録した記録媒体、疾病診断用プログラムを記録した記録媒体、疾病治療用プログラムを記録した記録媒体、疾病予防用プログラムを記録した記録媒体、悪癖矯正用器具、搾子、受精卵移植用器具、人工授精用器具、製品蹄鉄及び蹄釘、投薬器、乳房送風器、妊娠診断用器具、標識用器具、保定用器具、これらの物の附属品で、農林水産省令で定めるもの |
診断・治療・予防するもの | MRI、レーザー治療機器、電子体温計など |
身体の構造・機能に影響を及ぼすもの | ペースメーカー、電位治療器、低周波治療器など |
医療機器には該当しないもの | 健康器具や運動器具 トレーニングマシン、フィットネス用具 |
高度管理医療機器
高度管理医療機器とは、医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合において人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあることからその適切な管理が必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものを指します。
管理医療機器
管理医療機器とは、高度管理医療機器以外の医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれがあることからその適切な管理が必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものを指します。
一般医療機器
一般医療機器とは、高度管理医療機器及び管理医療機器以外の医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがほとんどないものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものを指します。
特定保守管理医療機器
特定保守管理医療機器とは、医療機器のうち、保守点検、修理その他の管理に専門的な知識及び技能を必要とすることからその適正な管理が行われなければ疾病の診断、治療又は予防に重大な影響を与えるおそれがあるものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものを指します。
医療機器のクラス分類
薬機法では、不具合発生時における生体に対するリスクの度合い(生体への接触部位、接触時間、危険性の大きさ)に応じて、医療機器を次のようにⅠ〜Ⅳの4つのクラスに区分し、それぞれについて規制を行っています。
クラス | 医療機器 | リスク | 代表例 |
---|---|---|---|
クラスIV | 高度管理医療機器 特定保守管理医療機器 | 高い | ペースメーカー |
クラスⅢ | 高度管理医療機器 特定保守管理医療機器 | 比較的高い | 透析機 |
クラスII | 管理医療機器 | 比較的低い | MRI |
クラスI | 一般医療機器 | 低い | ピンセット |
クラス分類の確認方法については、下記リンク先の「いろわか」というデータベースを参考にしてください。
医療機器に関する制度
医療機器を市場に流通させるにあたっては、品質、有効性、安全性の確保のために、「事業者」と「製品」の2つの側面から規制を行っています。
製造や製造販売などの行為を「業」として行うためには、取扱品目のクラスや事業形態に応じて、許可(業許可)の取得や、登録、届出といった手続きを行う必要があります。
そしてこの手続きを経た事業者が、認証や承認といった手順を踏んだ医療機器を取り扱い、これによってようやく製品が市場に流通するようになるというのが一連の流れです。
事業者(業許可、登録、届出)
↓医療機器(認証、承認、届出)
市場流通
事業者の営業形態
医療機器を取り扱うことができる営業形態には、以下のようなものがあります。
- 医療機器製造販売業
- 医療機器製造業
- 医療機器販売業・貸与業
- 医療機器修理業
- 医療機器等外国製造業
製造業(製品の製造・包装・表示・保管)
↓
製造販売業(市場における製品の管理監督)
↓
販売業・貸与業・修理業
業許可と登録制
医療機器は生体への影響度が高いということから、誰でも自由に製造や販売を行うことができる訳ではありません。既に説明したように、事業者が医療機器を製造・販売するためには、行政機関による許可や登録を受ける必要があります。これらの手続きを行っていない場合、医療機器を製品として取り扱うことはできません。
医療機器製造販売業
医療機器製造販売業とは、自らは製造行為(表示、自社外での補完行為も含む)を行わず、製品の出荷・上市を行うという事業形態です。品質や安全性について積極的に収集・分析・評価を行い、必要な措置を講じることにより製品に関する流通責任を果たします。医療機器の「承認」や「認証」についても申請する役割を担い、まさに医療機器流通の要として位置づけられています。
その名称から「製造」と「販売」の両方を行うことができるような印象を受けますが、実際は製造業と販売業の中間に位置し、製品についての最終責任を負う立場です。
医療機器製造販売業は、次のように第一種から第三種の3つに区分されており、そのすべての区分において許可制が採用されています。
分類 | クラス | 許可の種類 |
---|---|---|
高度管理医療機器 | クラスⅢ、Ⅳ | 第一種医療機器製造販売業許可 |
管理医療機器 | クラスⅡ | 第二種医療機器製造販売業許可 |
一般医療機器 | クラスⅠ | 第三種医療機器製造販売業許可 |
体外診断用医薬品 | 体外診断用医薬品製造販売業許可 |
医療機器製造業
医療機器製造業とは、医療機器製造販売業者の委託を受け、設計、組立、滅菌、保管など、製品の製造工程を担当する事業形態を指します。
製造した製品は、製造販売業者または製造業者にのみ販売・貸与・授与することができ、販売業者およびエンドユーザーへの販売を行うことはできません。一般的な「製造業」と「卸売業」の機能を併せもった事業形態といえ、その責任範囲は、製造した医療機器を製造販売業者に出荷するまでのプロセスにとどまります。
医療機器製造業については、許可制ではなく、登録制が採用されています。その登録範囲については、以下のとおりとされています。
設計 | 設計・開発に関して責任を有する者がいる施設 (設計を行う施設が製造販売業者の主たる事務所と同一の場合、登録は不要) |
---|---|
主たる製造工程 | 製品実現について責任を有する施設 |
減菌 | 減菌を行う施設 |
国内における最終製品の 保管 | 市場への出荷判定時に製品を保管している施設 |
製造工程 | クラスⅡ~Ⅳ | クラスⅠ | 単体 プログラム | 単体プログラムの記録媒体 |
---|---|---|---|---|
設計 | ○ | × | ○ | ○ |
主たる製造工程 | ○ | ○ | × | × |
滅菌 | ○ | ○ | × | × |
国内における最終 製品の保管 | ○ | ○ | × | ○ |
医療機器販売業・貸与業
医療機器販売業・貸与業とは、製造販売業者より供給された医療機器を、直接または他の販売業者を経由してエンドユーザーに提供する事業形態を指します。取り扱う医療機器の分類に応じて、許可制と届出制の両方が採用されています。
医療機器の分類 | 必要な手続き |
---|---|
高度管理医療機器 | 許可の取得 |
特定保守管理医療機器 | 許可の取得 |
管理医療機器 | 都道府県への届出 |
医療機器修理業
文字どおり、医療機器を修理する事業形態を指します。修理の着手までに製造販売業者に文書で修理品の品名、製造番号、故障内容を通知し、製造販売業者から受けた修理指示に基づいて修理を行います。
修理業者は、区分ごと事業所ごとに許可を受ける必要があります。また、特定保守管理医療機器については、特に品質と安全性を確保する必要があることから、許可要件や遵守事項が厳しく設定されています。
医療機器等外国製造業
外国より日本に輸出される医療機器又は体外診断用医薬品を製造しようとする者を医療機器等外国製造業者といいます。国内製造業者の登録と同様に、外国製造業者が製造所ごとに厚生労働大臣の登録を受けることによって適法に医療機器の製造を行うことができるようになります。
医療機器に関する申請
日本国内の医療機関で使用される医療機器は、すべて厚生労働省の承認が必要とされます。また、クラスⅡ・クラスⅢで指定高度管理医療機器あるいは指定管理医療機器に該当するものについては、第三者認証機関の認証を受ける必要があります。
医療機器製造販売業者は、医療機器の品目やクラス分類ごとに承認や認証を取得し、または届出を行う必要があります。申請先・必要となる期間や費用も異なるので注意が必要です。
厚生労働省の承認
厚生労働省は科学的知見を有する識者を交えて審査し医療機器の承認を行います。医療機器の有効性・安全性を科学的かつ論理的に説明する必要があるため、科学的に裏付けのある試験データや文書等、場合によっては新たな臨床治験によって疎明(証明)を行います。疎明すべき事項は、おおむね以下のとおりです。
- 開発経緯、機器の必要性・有用性
- 設計検証における非臨床・臨床試験
- 原材料の生体適合性
- 製造プロセスにおける品質管理
- 機器の有効性、安全性、品質保証
第三者認証機関の認証
令和3年9月現在、登録されている第三者認証機関は12機関です。各機関により認証業務の範囲が異なるほか、費用と内容も異なるため、委託する際は、取扱業務について事前にしっかりと確認を行うようにしましょう。
まとめ
説明したとおり、医療機器を取り扱う事業については、極めて高度な専門的知識と技術力が要求されています。周辺の手続きについても、手続きの専門家であるはずの行政書士をもってしても、思わず眉間にシワが寄って二の足を踏んでしまうほど、難解かつ煩雑なハードルが設定されています。
手続きの完了までに2〜3年を要するケースもまったく珍しいことではありません。プランがある場合には迅速に着手することも必要ですが、まずはしっかりとした事業計画を練ることが重要です。いつでも専門家に相談を受けることができる環境の整備から着手することをお薦めいたします。
弊所では、医療機器取扱事業に関する手続きのサポートを承っております。「話しの分かる行政書士事務所」として、さまざまな事情をくんでの柔軟な対応にも自信を持っています。医療機器取扱事業に関するお手続きでお困りの際は、まずはお気軽にお問い合わせください。