深夜酒類提供飲食店営業の営業所における構造上の注意点

バーや居酒屋などの深夜酒類提供飲食店を開業する際、多くの経営者が盲点として見落としがちなのが店舗の構造です。
深夜0時以降も酒類をメインに提供する場合、単なる飲食店営業許可だけでなく、公安委員会(警察署)への届出が義務付けられています。この届出に際しては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)に規定する風俗営業に準じた厳格な構造基準が設けられており、客室の見通しを妨げる仕切りや、法令で定められた数値に満たない照度などは、すべて不備として扱われます。
設計段階でこれらの基準を軽視すれば、実地調査で手直しを命じられ、オープン直前に多額の改修費用と時間のロスを強いられることになりかねません。
そこで本稿では、深夜酒類提供飲食店の届出を円滑に進めるために不可欠な、構造上のチェックポイントを実務レベルで解説します。
営業所に係る構造要件
深夜酒類提供飲食店営業の営業所に厳格な構造要件が課されているのは、客室の見通しを確保し、適切な照度を維持させることで、死角や暗がりを利用した売春、薬物使用、過度な粗暴行為といった違法行為の温床となることを防ぐためです。また、周辺住民の平穏な生活を守るため、騒音や振動を外部に漏らさない構造も求められています。
前テナントが同種のバーやスナックであった場合、「当然、構造要件はクリアしているはずだ」と予断を持って現地に赴くことがありますが、実際に足を踏み入れると、内部が違反だらけの状態であることは決して珍しくありません。
深夜酒類提供飲食店営業の届出は軽視されがちな側面があり、前テナントがそもそも無届営業であったケースや、届出時の現場確認後に違法な増改築を行っていた可能性も否定できません。そのため、「同種の営業を行っていた居抜き物件」という肩書きを安易に信頼するのは禁物です。
本章では、実務上の見落としが届出の受理に直結する深夜酒類提供飲食店の構造要件について詳しく解説しますので、ご自身の営業所と照らし合わせながら一つひとつの基準を確実に確認してください。
客室床面積
深夜酒類提供飲食店においてメインの客室のほかにVIPルームなどを設けて客室が複数となる場合には、店内の見通しを確保し違法行為や風紀を乱す行為の温床となることを防ぐため、各客室について9.5㎡以上の床面積を確保することが義務付けられています。
また、深夜酒類提供飲食店営業は風俗営業とは異なり、従業員が客の隣に座って談笑するなどの「接待」が厳格に禁止されているため、客席を一定以上の広さに保たせることで、物理的に接待が行われにくい環境を強制し、営業の実態を純粋な飲食のみに限定させるという管理上の狙いもあります。
9.5㎡はビジネスホテルのシングルルーム(約6畳)程度の広さがあり、客室を複数設ける場合は全室にこの基準が適用されるため、例えば2室なら客室だけで計19㎡以上の床面積が必要になります。ただし、これはあくまで複数室を設ける際の規制であり、1室のみの単室構造であれば面積制限は受けません。
また、5㎡以下の個室を設置すると風俗営業の「区画席飲食店(3号営業)」に該当し、別途許可が必要となる点には注意が必要です。
客室の見通し
死角を作ってそこで不適切な行為が行われないよう客室内に「見通しを妨げる設備」を設置することは禁止されています。
問題となる「見通しを妨げる設備」とは、具体的には高さがおおむね1m以上となる遮蔽物(しゃへいぶつ)を指しますが、これには客室内のテーブル、イス、カウンターなどの什器だけでなく、観葉植物やラックなど設置されるすべての物品が含まれます。
高さは「最大値が1m未満」である必要があるため、可動式のイスやテーブルについては、最も高くした状態で計測してもなお「高さ1m未満」であることを要求されています。
また、客室の形状が極端なL字型であったり、全体を見渡す際に死角となる狭いスペースがあったりする場合も、「見通しを妨げる構造」として指摘を受けることがあります。
該当箇所を「客室」から除外して申請する対策もありますが、あまりにいびつな形状の物件は、選定段階で避ける方が得策です。
ただし風俗営業とは異なり、各都道府県警察において客室の構造に関する「おおむね1m未満」という基準は弾力的に運用されているため、備え付けのカウンター等については、基準をわずかに超える程度の高さであれば許容される傾向にあります。
客室の出入口
営業所外に直接通ずる出入口はともかくとして、客室に施錠をすることは認められていません。その理由は、万が一の事態における客の監禁を防止するという「安全確保」の側面と、違法行為の隠蔽や警察官による立入検査の妨害を未然に防ぐという「監督の実効性維持」の側面にあります。
したがって、鍵付き個室を設けることはもちろんのこと、二重扉を設けてその両方に施錠をするような構造も認められません。
照度の規制
薄暗い店内は違法行為の温床となるおそれがあるため、客席は常に20ルクスを超える明るさを維持する必要があります。
警察のチェック対象となる調光器(スライダックス)が設置されている物件については、照度を最小に絞った状態でも20ルクスを下回らないよう改修するか、あるいは調光器自体を撤去する必要があります。(この辺りの警察の運用は地域差があるため注意が必要です。)
掲示物等
深夜酒類提供飲食店営業の営業所においては、善良な風俗や清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾、その他の設備を設けることが厳格に禁止されています。
具体的には、店内の壁面や看板に掲げられるポルノ写真や性的な好奇心を煽るポスター、あるいはアダルトグッズの展示などがこれに該当します。
こうした物品の設置は、営業所の健全性を著しく損なうだけでなく、少年の健全育成を阻害する要因ともなり得るため、客室から見える場所はもちろん、営業所内のいかなるスペースにおいても認められません。内装を検討する際は、単なるデザイン性だけでなく、公序良俗に反する視覚的要素が含まれていないかを十分に精査する必要があります。
騒音及び振動
各都道府県の条例では、営業所から発生する騒音および振動の数値について厳格な許容基準が設けられており、営業者はこの基準を超える状態で営業を営むことはできません。
具体的には、カラオケ設備や音響機器の使用、あるいは遊技に伴う衝撃音などが、近隣の平穏な生活環境を損なわないよう配慮が求められます。万が一、基準値を超過するおそれがある場合には、壁や天井への防音材の導入、あるいは防振マットの設置といった適切な措置を講じる必要があります。
個室の具体例
ドアや壁で完全に仕切られた分かりやすい構造でなくとも、実務上は「個室」とは言い難いレイアウトが風営法上の個室とみなされるケースは珍しくありません。
個室の存在自体は問題ありませんが、個室判定を受けた場合は9.5㎡以上の床面積規制が適用されるため、小規模な店舗にとっては死活問題となりかねないことから、本章では過去に個室と判定された具体的事例とその解決策を紹介します。
ケース①:高さ1mを超えるついたてに囲まれているスペース

参考画像のように周囲を高さ1m以上のついたてで囲んでいた事例では、たとえ両隣が開放された空間であっても、そのスペースは独立した「個室」であると判断されました。
該当スペースと他の客室がすべて9.5㎡以上の床面積を有していれば問題ありませんが、本事例では面積が不足していたため、手前のソファの背もたれに当たるついたてを床から1m未満に切除することで解決に至りました。
今回は事なきを得ましたが、構造上切除が困難な場合には、そのスペースを「客室として使用できない」と判断せざるを得ないリスクが生じます。
ケース②:柵で囲まれているスペース

参考画像にあるように、簡易的な柵で周囲を囲んでいた事例では、「遮蔽物で囲まれた構造」として個室判定を受け、床面積基準を満たしていないことから、柵を取り外すよう指導を受けました。
なお、ケース①と同様に、柵を撤去できない場合にはそのスペースを客室として使用することができません。
ケース③:装飾のあるガラス張りのスペース

参考画像のように、装飾や模様が施されたガラス張りの構造物で囲まれたスペースについても「個室」と判定された事例があります。
本事例では装飾を削り落とし、完全な無色透明とすることで解決に至りましたが、管轄する警察署の判断によっては、たとえ無色透明のガラス張りであっても「遮蔽物」とみなされる場合があるため注意が必要です。
注意点
個室と判断された事例と解決策を提示しましたが、そもそもこれらの判断基準は管轄する警察署によって大きく異なります。「ある警察署では通ったが、隣接する自治体の警察署では一切認められなかった」という事態が日常的に起こるのが、風営法実務の難しさです。
構造基準の解釈や運用には地域特有の「ローカルルール」が存在するため、他店での成功事例を安易に当てはめるのではなく、事前に管轄警察署と綿密な協議を重ねることが極めて重要となります。
いずれにせよ、聞きかじった断片的な情報や、ネット上の根拠なき「合法説」を鵜呑みにし、安易に自己判断を下すことは極めて危険です。取り返しのつかない事態に陥る前に、まずは風営法に精通した行政書士等の専門家へ相談し、適法かつ持続可能なビジネスモデルを検討されることを強くお勧めいたします。
深夜酒類提供飲食店営業の届出サポート
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