無窓階に関する規制について

窓のない部屋

行政書士として、いわゆる「ハコモノ」の申請を請け負う際には、消防法令の適合性を確認する作業が外せません。消防署の予防課ともよく話しをしますが、その際頻繁に耳にするのが、「無窓階」(むそうかい)という単語です。

無窓階という字面からは、「窓がないフロア」とイメージされがちですが、消防法令上の定義は、厳密にはこれと少し異なります。ただし、無窓階について、わざわざ普通階とは区分していることからも分かるとおり、無窓階に該当する場合は、防災に関する基準について強化が図られています。

他方、消防法令は、防災に資するという重要な目的を有しながらも難解な規定が多く、条文を読み込んで内容を把握するだけでも、それなりの時間の浪費と重作業を強いられます。

そこで本稿では、消防法令の規定から、無窓階に関するものを抜粋し、基礎となる法的知識や、無窓階に該当することにより受けうる規制の内容について、ざっくりと解説していきたいと思います。

無窓階

消防法令における無窓階とは、避難上又は消火活動上において有効な開口部を有しないフロア(階)をいいます。「避難上又は消火活動上において有効な開口部」としている点がポイントとなり、例えば緊急時に避難することができない高い位置にある窓や、狭すぎて通り抜けることが困難な小窓があったとしても、それは「避難上又は消火活動上において有効な開口部」(有効開口部)とは言えません。

開口部については後述しますが、「避難上又は消火活動上において有効な開口部」と言えるためには、原則として、高さ1.2m以上、幅75cm以上であり、かつ外部から容易に破壊できる構造を有するものであることが求められています。

したがって、フロア内に窓があったとしても、開口部がこれらの基準を満たしていないときは、消防法令上の無窓階と判定されてしまいます。

なお、消防法において地下は「地下階」として取り扱われ、無窓階とは別の規制が適用されています。

無窓階の判定基準

消防法令上、無窓階であるか普通階であるかを判定する基準は、建物の10階以下と11階以上とで異なります。以下は「普通階」の判定基準ですが、この基準に適合しないフロア(階)が「無窓階」として取り扱われます。

10階以下直径1m以上の円が内接できる開口部、又は幅75cm以上高さ1.2m以上の開口部を2つ以上有し、かつ直径50cm以上の円が内接できる開口部との面積の合計が1/30以下
11階以上直径50cm以上の円が内接できる開口部との面積の合計が1/30以下
開口部の条件

上記に加え、災害発生時に消防隊が円滑に進入できることを想定し、「開口部の下端が床面より1.2m以内で、かつ、開口部がある面は幅1m以上の通路や空き地に面していること」を普通階の判定基準としています。

通路その他の空地への接地面

有効開口部の構造

避難上又は消火活動上において有効な開口部(有効開口部)として認められるためには、「外部から容易に破壊できる構造を有するもの」という基準もクリアする必要があります。

この基準は、救助活動の際に外部からの進入を容易にするためのものであり、たとえば、網入りガラス窓や鉄線入りの窓を設置してある場合や、厚みのある防音ガラスを設置する開口部であって外部から破壊するための作業場(バルコニー等)がない場合等は、この基準に適合しているとは言えません。

他方、施錠された鉄製扉のように、容易に破壊できない構造であっても、破壊小窓を有し、ドアハンドルに手が届くような場合は、有効開口部として認められます。(下図参照)

開口部が「外部から容易に破壊できる構造を有するもの」であるかどうかについては一律の規定はなく、実際に救助活動にあたる所轄消防署の判断に委ねることになります。

有効開口部の構造

また、開口部に設置するガラス種類と厚みについては、以下の基準が設けられています。

強化ガラス
耐熱板ガラス
5mm以下
普通板
ガラスフロート板
ガラス磨き板
ガラス型板ガラス
熱線吸収板
ガラス熱線反射ガラス
8mm以下
厚さ6mmを超えるものは、ガラスの大きさが概ね2㎡以下かつガラスの天端の高さが設置階の床から2m以下のものに限る

無窓階に対する規制強化

開口部には、避難経路の確保及び救助活動の促進という機能があるため、その機能に乏しい無窓階においては、非常災害時の被害を最小限に抑えるために、特定の消防設備の設置義務が生じたり、設置基準が厳しくなるなどして、普通階よりも厳しい規制が適用されます。

たとえば、警報機器の構成について、普通階であれば「熱感知器」(比較的低コスト)を主体とすることができるところ、無窓階では、「煙感知器」(高コスト)を主体として警報機器を構成する必要があります。

自動火災報知設備の設置

消防法と条例により、一定面積以上の建物や店舗がある雑居ビルや重要文化財などの防火対象物には、自動火災報知設備(通称:自火報)を設置することが義務付けられています。

自動火災報知設備を設置することが義務付けられる建物であるかどうかについては、通常その建物の「用途」と「面積」、もしくは「危険物等の数量」によって決します。特に用途ごとの面積基準については、下表のとおりこと細かに設定されています。

劇場等
集会場等
300㎡以上
キャバレー
遊技場
性風俗特殊営業
300㎡以上
カラオケ店
個室ビデオ店
全部
料理店
飲食店
300㎡以上
物品販売
百貨店
300㎡以上
旅館・ホテル全部
共同住宅など500㎡以上
避難介助が必要な病院又は診療所
上記を除く病院又は有床助産所
全部
無床診療所
無床安産所
300㎡以上
老人短期入所施設全部
老人デイサービス
特別支援学校
300㎡以上
学校など500㎡以上
図書館500㎡以上
蒸気浴場(サウナ)200㎡以上
一般浴場500㎡以上
車両停車場500㎡以上
神社など1000㎡以上
工場
スタジオなど
500㎡以上
車庫など500㎡以上
航空機等の格納庫全部
倉庫500㎡以上
その他(事務所・美容室など)1000㎡以上
複合用途【特定用途が入居】300㎡以上
複合用途【特定用途が入居なし】各用途基準による
地下街300㎡以上
準地下街500㎡で特定の合計が300㎡以上
文化財全部
赤文字は特定用途

無窓階においては、普通階よりも面積の基準がさらに厳しくなり、下表の面積基準を上回る面積の無窓階については、強制的に自動火災報知設備の設置が義務付けられます。

キャバレー
遊技場
性風俗特殊営業
100㎡以上
3階以上は300㎡以上
料理店
飲食店
100㎡以上
3階以上は300㎡以上
共同住宅など300㎡以上
学校など500㎡以上
図書館300㎡以上
蒸気浴場(サウナ)300㎡以上
一般浴場300㎡以上
車両停車場300㎡以上
神社など300㎡以上
工場
スタジオなど
300㎡以上
車庫など500㎡以上
倉庫500㎡以上
その他(事務所・美容室など)300㎡以上
複合用途【特定用途が入居】100㎡以上
3階以上は300㎡以上
複合用途【特定用途が入居なし】各用途ごとに300㎡以上
赤文字は特定用途

火災予防条例

以上はあくまでも消防法令上の規定に基づく記述ですが、規制内容の詳細は各自治体の条例に委ねられていることも多いため、自動火災報知機について手続きを実施する際は、必ず所轄の消防署と協議するようにしてください。

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