酒母等の製造免許│酒母・もろみ製造免許について

お酒を勝手に製造することはできませんが、お酒づくりの土台となる酒母やもろみについても、これらを製造しようとする者は、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長から免許を受ける必要があります。

一般的にこの免許のことを酒母・もろみ製造免許と呼んでいますが、これは酒税を円滑に納付させることを目的とした制度です。(酒類を製造する免許は酒造免許、酒類を販売する免許は酒販免許といいます。)

酒税徴収の対象である酒類の基となる酒母等なので、これを製造するための免許は、酒造免許と同様に、酒販免許よりも一段高いハードルが設定されています。

そこで本稿では、これから酒母又はもろみを製造しようとされている皆さまに向けて、酒造の基礎となる法的な知識や必要とされている手続きの方法を詳しく解説していきたいと思います。

酒母・もろみとは

そもそも酒母とは、その名のとおり酒類の母(土台)となる液体であり、具体的には、酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したものをいいます。ただし、製薬用、製パン用、しょうゆ製造用及びみそ製造用のものは除外されています。

★こうじ(麹)

こうじとは、でん粉質物とでん粉質物以外の物品とを混和したものにかび類を繁殖させたもの(繁殖させたものから分離させた胞子又は浸出させた酵素を含む)で、でん粉質物を糖化させることができるものをいいます。

また、もろみ(醪)とは、酒類の原料となる物品に発酵させる手段を講じたもの(酒類の製造の用に供することができるものに限る)で、こし又は蒸留する前のもの(こさない又は蒸留しない酒類に係るものについては、主発酵が終わる前のもの)をいいます。

★残しビール等

残しビールとは、ビールの製造工程中、発酵容器における発酵又は調熟が終わったビールを移動した際に発酵容器に残したビールをいいます。残しビールは、酒類に該当するものですが、酒母として取り扱う残しビール等について、継続して他者に譲り渡すこととなる場合においては、酒母の製造免許が必要になります。

酒母・もろみ製造免許

冒頭で述べたとおり、酒母又はもろみを製造しようとする者は、製造場ごとに、その製造場の所在地を管轄する税務署長から免許を受ける必要があります。ただし、以下のいずれかに該当する場合は、改めて免許を受ける必要はありません。

  • 酒類製造者が、その製造免許を受けた製造場において、酒類の製造の用に供するため、酒母又はもろみを製造する場合
  • もろみの製造免許を受けた者が、その製造免許を受けた製造場において、当該もろみの製造の用に供するため、酒母を製造する場合
  • アルコール事業法に基づくアルコールの製造の許可又は承認を受けた者が、アルコールの製造の用に供するため、酒母又はもろみを製造する場合

また、免許を取得した場合でも、以下のいずれかの事由に該当すると免許取消しになるためご注意ください。

  • 偽りその他不正の行為により酒母・もろみの製造免許を受けた場合
  • 欠格事由のいずれかに者に該当することとなった場合
  • 酒税に係る滞納処分を受けた場合
  • 3年以上引き続き酒類を製造しない場合

免許の基準

申請すれば誰でも簡単に免許を取得できるというわけにはいきません。免許取得のハードルは相当に高く、以下の基準をすべてクリアする必要があります。

  1. 人的基準
  2. 場所的基準
  3. 経営基礎基準
  4. 需給調整基準
  5. 技術・設備基準

なお、酒類の製造免許のように、1年間の見込製造数量が製造場ごとに一定の数量に達しない場合には免許取消しとなるという法定製造数量制限は設けられていません。

人的要件

酒税という税金に関わる事業ですから、携わるヒトに対しても一定の信用性が求められています。具体的には、以下のいずれかに該当する者については免許を受けることはできません。

1.免許を取り消され、又は許可を取り消された日から3年を経過するまでの者

2.酒類販売業者である法人が免許を取り消された場合又は許可を取り消された場合において、それぞれ、その取消しの原因となった事実があった日以前1年内に当該法人の業務を執行する役員であった者で当該法人がその取消処分を受けた日から3年を経過するまでのもの

3.営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人が1・2・7・8に該当する者である場合

4.法人の役員のうちに1・2・7・8に該当する者がある場合

5.1・2・7・8に該当する者を販売場に係る支配人としようとする場合

6.申請前2年内において国税又は地方税の滞納処分を受けた者である場合

7.免許の申請者が国税若しくは地方税に関する法令、酒類業組合法、アルコール事業法の規定により罰金の刑に処せられ、又は国税通則法、関税法、地方税法の規定により通告処分を受け、それぞれ、その刑の執行を終わり、若しくは執行を受けることがなくなった日又はその通告の旨を履行した日から3年を経過するまでの者である場合

8.未成年者飲酒禁止法、風営法、暴力団対策法の規定により、又は刑法上の一定の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者である場合

9.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わった日又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過するまでの者

場所的要件

正当な理由がないのにもかかわらず、取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとする場合も免許拒否事由となります。

取締り上不適当と認められる場所としては、たとえば申請製造場が、酒場、料理店等と同一の場所であるようなケースが想定されます。

このため、申請製造場が酒場、料理店等と接近した場所にある場合には、必ず図面上で明確に区分する必要があります。場合によっては、製造場と酒場、料理店等とを壁、扉等で区分することを求められますのでご注意ください。

経営基礎要件

破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合についても免許拒否事由とされています。

経営状況が安定しない事業者からは酒税を徴収することができなくなるおそれがあります。過去に税金を滞納しているような事実があれば尚更です。したがって、一定の経営基礎を持たない申請者には免許は与えられません。求められる要件はおおむね次の3つです。

  1. 資産状況
  2. 経験(経歴および知識)
  3. 製造能力及び所要資金等
資産状況等

資産状況等については、次のいずれにも「該当しない」ことが求められています。

  1. 現に国税又は地方税を滞納している場合
  2. 申請前1年以内に銀行取引停止処分を受けている場合
  3. 最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っている場合
  4. 最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合
  5. 酒税法等の関係法令に違反し、通告処分を受け、履行していない場合又は告発されている場合
  6. 製造場の申請場所への設置が、建築基準法、都市計画法、農地法、流通業務市街地の整備に関する法律その他の法令又は地方自治体の条例の規定に違反しており、店舗の除却又は移転を命じられている場合
  7. 現に酒類製造免許を受けている酒類に対する酒税につき、担保の提供を命ぜられたにもかかわらず、その全部又は一部の提供をしない場合
  8. 製造者が今後1年間に納付すべき酒税額(既免許の酒税額を含む)の平均3か月分に相当する価額又は製造免許申請書に記載している酒類の数量に対する酒税相当額(申請酒類の酒税額)の4か月分に相当する価額のうち、いずれか多い方の価額以上の担保を提供する能力がないと認められる者である場合(ただし、申請酒類の酒税額が、製造免許を付与した場合における当該製造者の今後1年間に納付すべき酒税額(既免許の酒税額を含む)の3割以下であって、当該製造者について申請酒類の酒税額の4か月分に相当する価額以上の担保を提供する能力があると認められる場合は、この限りでない)

資本等の額とは、ざっくりというと会社が保有する財産のことを指し、具体的には資本金、資本剰余金及び利益剰余金の合計額から繰越利益剰余金を控除した額をいいます。

資本金500万円の会社の例
最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が500万円を上回っている場合

この場合、3.の「最終事業年度における確定した決算に基づく貸借対照表の繰越損失が資本等の額を上回っている場合」に該当するのでアウトです。

3期連続で100万円を超える赤字が出ている場合

この場合、4.の「最終事業年度以前3事業年度の全ての事業年度において資本等の額の20%を超える額の欠損を生じている場合」に該当するのでアウトです。

決算書の貸借対照表に資本の額や繰越損失が記載されているので必ず確認するようにしましょう!

経歴および知識

申請者は、事業経歴その他から判断し、適正に酒類を製造するのに十分な知識及び能力を有すると認められる者又はこれらの者が主体となって組織する法人であることが求められています。

製造能力及び所要資金等
  • 酒母等を適切に製造するために必要な所要資金等(資本、当座資産及び融資)並びに製造又は貯蔵等に必要な設備及び人員を有する者(これらを有することが確実と認められる者を含む)であって、酒母等の製造に関して安定的な経営が行われると認められること
  • 酒母等の製造に必要な原料の入手が確実と認められること

事業には運転資金が必要です。どのくらいの資金が必要であるかといえば、当然ながら事業規模によります。酒類製造にはそういった点を含めた事業計画が求められています。

安定的な経営には、酒母等の製造に関し、必要な資金を融資等により将来にわたって確保することができ、かつ、その事業計画が単年度黒字の発生、累積欠損の解消等が確実に図られることを予定しているなど黒字体質に転換する合理的な根拠があると認められる場合を含むものとされています。

需給調整要件

酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合にも免許拒否事由となります。

★現地破砕に係るもろみの製造免許

果実酒等原料用ぶどう果を果実酒等製造場以外の場所で破砕しようとする者に対するもろみの製造免許については、以下に該当する場合に限り免許が付与されます。ただし、もろみの製造免許には、条件を付すことができないので、(1)のハ及びニ、(3)のロ、並びに(4)についての誓約書の提出がある場合に限るものとする。

現地破砕の実施者

申請者は、果実酒等製造者であって、次のいずれにも該当する者であることが必要とされています。

  • 欠格事由に該当しないこと
  • 最近3か年間、引き続きぶどう果を原料として果実酒等を製造していること
  • 自ら現地破砕を行うこと(要誓約書)
  • 現地破砕に係るもろみを自己の製造場において果実酒等の原料として使用すること(要誓約書)
  • 現地破砕を行うことについて、検査取締り上支障がないと認められる者であること

現地破砕の実施場所

現地破砕を行うことができる場所は、次のいずれにも該当し、その場所数が、果実酒等製造者ごとにおおむね10か所程度であることが要件となります。

  • 破砕場所1か所ごとにおけるぶどう果の破砕量が、破砕1回につきおおむね1トン以上の場所であること
  • 果実酒等製造者が共同して使用する場所でないこと
  • 自己の果実酒等製造場からおおむね50km以内の距離にある場所であること
  • 検査取締り上支障がないと認められる場所であること

現地破砕の方法等

現地破砕は、以下の方法により行われることが要件となります。

  • 破砕に使用する破砕機及びこれに付随する容器、機械器具等は全て果実酒等製造者が管理していること
  • もろみに対しては、破砕後直ちにメタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム液、無水亜硫酸又はこれらの水溶液を添加させることとし、その添加量は、もろみの発酵が抑制される程度のものであること(要誓約書)
  • 破砕に伴うしぼりかすが適正に処理されること

製造免許の取消し

現地破砕を1年以上休止する場合は、もろみの製造免許の取消申請を行う必要があります。(要誓約書)

技術・設備要件

技術的要件

申請者は、醸造・衛生面等の知識があり、かつ、保健衛生上問題のない一定水準の品質の酒母等を継続的に供給することができ、不測の事態が生じた場合に対応できる能力を有していること

申請者の技術的要件については、製造計画・工程、技術者の経歴、人員、品質設計、品質管理、研修の体制等から総合的に判断します。

申請者の技術的能力については、必要な技術的能力を備えた者を雇用していれば足りるものとされています。

設備要件

酒母等の製造又は貯蔵に必要な機械、器具、容器等が十分に備わっている又は十分に備えられることが確実であるとともに、工場立地法、下水道法、水質汚濁防止法、食品衛生法等製造場の設備に関する法令及び地方自治体の条例に抵触していない又は抵触しないことが確実であること

免許申請手続

酒母又はもろみの製造免許を受けようとする者は、その製造しようとするこれらの物ごとに、製造場の所在地の所轄税務署長に対して、以下の事項を記載した申請書を提出します。

  • 申請者の住所及び氏名又は名称
  • 製造場の所在地及び名称
  • 製造方法
  • 製造の目的
  • 製造場の敷地の状況及び建物の構造を示す図面
  • その他参考となるべき事項

免許申請に必要な書類

  • 酒母・もろみ製造免許申請書
  • 申請者が欠格事由に該当しないことを誓約する書面
  • 履歴書(申請者、法人役員)
  • 定款(法人)
  • 賃貸借契約書の写し又はこれに代わる書類(製造場の土地又は建物が自己の所有に属しないとき)
  • 地方税(都道府県税・市町村税)の納税証明書
  • 貸借対照表及び損益計算書又はこれらに準ずる書類
  • 申請者が酒類の製造について必要な技術的能力を備えていることを記載した書類
  • その他参考となるべき書類

事前協議

酒母又はもろみ製造免許を取得する上で避けては通れないのが「酒税官との事前協議」です。手続きとして必要というよりも、事前に相談に訪れるという感覚です。どこの酒税官も(恐らく)丁寧に案内してくれるはずなので、安心して出向きましょう。

この手続きを省いていきなり申請を行うと、書類上の不備を指摘されて補正を命じられる可能性も高まり、結果として事業開始が遅れてしまいますので、面倒ですが必ず手続きを踏むようにしてください。簡単な計画書を持参すると協議もスムーズに進みます。

まとめ

随分と簡略化したつもりですが、このように酒母やもろみの取扱いについては、皆さまがイメージされている以上に複雑で難解な手続きを求められています。申請書の様式も少し特殊で、慣れていなければ行政書士であっても、少々頭を悩ませる書類であることも付け加えておきます。

いずれにせよ酒母やもろみの製造については綿密な事業計画を策定することが重要です。本稿が酒母・もろみ製造免許の取得を目指す方の道しるべとなったのであればお酒好き行政書士の冥利に尽きます。

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酒母・もろみ製造免許申請550,000円~
酒類製造業免許申請550,000円~
酒類販売業免許申請88,000円~
酒類卸業免許申請143,000円~
移転申請77,000円〜
変更届・廃業届22,000円〜
※税込み

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