握手会は合法?違法?アイドルと風営法について
SNSやYouTubeの台頭によって「有名人」が量産されるようになった近年、その垣根もボーダーレス化され、アイドルも今や「会いに行ける」ことが定番となっています。コロナ禍以前は握手会やチェキ会といったイベントが盛況で、その規模の大小がアイドルの人気を測るパロメーターともされていました。
ところで日常的に風営法の手続きを取り扱っている中で、少々気になっていたのが、握手会が風営法で規制されている「接待」に該当するのではないかという一部の意見についてです。
なるほど。確かに一般的な「接待」の解釈としては当てはまらなくもなさそうですし、身体の接触を伴うわけですから、このように捉える方がいることも納得できます。
さて、風営法を得意とする行政書士の見解は?
というわけで、本稿ではアイドルの握手会について、関連する法律による解釈や、イベントを開催するにあたり注意すべき点などについて深堀りして解説していきたいと思います。
接待と風俗営業
一般的に「接待」といえば、どちらかと言えばビジネスシーンにおいて取引先の担当者をもてなすことをイメージされるのではないかと思います。これを握手会に当てはめて考えると、取引先である顧客(ファン)をもてなしていることから、確かに「接待」に該当するのではないかと思われます。
一方、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)において定義される「接待」は、上記の用法とは少々趣が異なります。
「接待」とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。
(風営法第2条第3条)
何だか分かりにくい表現ですが、ただ単に客をもてなすのではなく、風営法では、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法」により客をもてなすことを「接待」として定義しているようです。
ところで一旦話しは逸れますが、皆さまは「風俗営業」というとどのようなお店を思い浮かべるでしょうか?こう言われると、恐らく大体の方はピンク系のアダルトなお店を想像するのではないかと思います。
一般的な解釈としてはそれでOKだと思いますが、風営法でいうところの「風俗営業」は、以下の5つの営業形態を指し、こちらも皆さまがイメージするお店とはまた少し異なった取扱いとなっています。
1号営業 | キャバレー、待合、料理店、カフェその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業 | キャバクラ、ラウンジ、ホストクラブ |
2号営業 | 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計った営業所内の照度を10ルクス以下として営むもの | 低照度飲食店 |
3号営業 | 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5㎡以下である客席を設けて営むもの | 区画飲食店 |
4号営業 | まあじゃん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業 | 雀荘、ぱちんこ店 |
5号営業 | スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業 | ゲームセンター、アミューズメント施設 |
知らなければ「風俗営業」がこれだけ広い意味合いを持っていたことにまずは驚かれることでしょう。ここではあまり詳しくは解説しませんが、上の1号から5号までに該当する営業を行うためには、地域の公安委員会(警察)から許可を受ける必要があることだけはご記憶ください。
注目していただきたいのは、「1号営業」とされている営業形態です。ここにある「設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」という内容に、アイドルの「握手会」が含まれるのではないかというのが一部に根強い意見です。
なるほど、確かにブースを設けてファンをおもてなししているわけだから、一見すると1号営業に当てはまらなくもなさそうです。
ここで改めて考えるべきなのが、先述した「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」とする「接待」の定義についてです。
いや、ちょっと何言ってるか分からない。
大体の方がこう思われるように、私もこの文言だけで理解できてるの?と問われれば、分かったような顔をしてその場を離れます。笑
さすがにこれではあまりにも不親切なので、実際に取締りにあたる警察庁では、以下のように法律を解釈して運用を行っています。
接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」をいう。
(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の解釈運用基準)
この意味は、営業者、従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来店する客に対して、その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して3の各号に掲げるような興趣を添える会話やサービス等を行うことをいう。言い換えれば、特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うことである。
うん、言い回しがくどい。笑
要約すると、特定客の下心に応える形で一定のサービスを提供することを風営法では「接待」と定義して取り締まっているわけです。そしてこの解釈運用基準を読み進めていくと、こんな文言につきあたります。
客と身体を密着させたり、手を握る等客の身体に接触する行為は、接待に当たる。
(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の解釈運用基準)
おぉビンゴ!!
こんな声が聞こえてきそうです。警察庁がこのように判断している以上、もはや逃げも隠れもできません。「握手会」を開催するためにはどうやら風俗営業の許可を取得するほか選択肢はなさそうです。
、、、なんてね?
切り取りは恐ろしいですね。情報は正しく伝えなければいけません。実はこの文章はこれだけでは終わらず、次のようにまだ続きがあります。
ただし、社交儀礼上の握手、酔客の介抱のために必要な限度での接触等は、接待に当たらない。
(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の解釈運用基準)
ほうほう。ということは、握手会が社交儀礼上の「あいさつ」程度にとどまるのであれば、どうやら「接待」にも「風俗営業」にも当たらず許可も手続きも必要なさそうです。
社交儀礼上の握手とは
ここでいう社交儀礼上の握手とは、まさに「あいさつ」程度の握手のことを指します。要するに「バイバイ」とか「ヨロシクね!」とか「ありがとう!」のような、割とライトな感情の表現としての握手と捉えると分かりやすいように思います。
ここで重要なポイントとなるのが、社交儀礼上の握手があくまでも「おまけ」であるという点です。「メイン」が別にあるからこそ「おまけ」が発生するのであって、「おまけ」がメインを張ることはできません。
たとえば私がいずれ出版した際に、書店でブースを設けて握手会を開催したものと仮定しましょう。この場合、書籍の購入が「メイン」であり、握手会は単なる「おまけ」にしか過ぎません。そしてこの握手会が風俗営業には当たらず、特に風営法上も問題ないことについては、皆さまも直感的に理解することができるはずです。
何故ならメインがおじさんの書いた本だから。
書店に行ってみたら知らないおじさんが握手会をやっている。お、何か書籍を出版したみたいだな。ほう、なかなか面白そうだから買ってみるか。まぁ多分ないだろうけど、そのうちこのおじさんが有名になったら自慢できるかもしれないな。しゃあない、せっかくだから握手しとくか。
私としても書籍を購入してくれた購入者に対する感謝を込めて握手をするわけですから、そこに歓楽的雰囲気(下心)は存在せず、お互いに社交儀礼としての握手が成立しています。
これをアイドルの握手会に置き換えてみると、①メイン(CDの購入等)に対する②特典(おまけ)として③下心をくすぐらない程度のものであれば、握手会は「接待」には該当せず、特に何らの問題も発生しないことがお分かりいただけるのではないかと思います。
営業という観点
また、上記の行為が「営業」に該当するのか否かという点についても重要な観点として考慮すべきでしょう。当たり前の話しですが、友人や恋人同士がどのような握手をしようともそれは良心と表現の自由です。風営法が接待を規制しているのは、それが反復継続の意思を持って行う営利活動となることで清浄な風俗環境が乱れるおそれがあるからです。
★ポイント
営業とは、反復継続の意思を持って行う営利活動のことをいう。
単発無料の握手会を営業として捉えるかどうかは解釈が難しい点ではありますが、アイドル活動という営利事業の一環であることを考慮すると、やはり「営業」と解釈するのが妥当であるように思われます。
注意すべきポイント
ここまで説明したことをまとめると、握手会が合法的に成立するためには、次の条件を満たしていることが必要になります。
①握手会がメインではないこと
②下心を刺激しないこと
逆に言えば、このどちらかが欠けていると、風俗営業として風営法の規制対象とされてしまう可能性があります。たとえば「握手会参加券」を直売りする場合や、社交儀礼を超える範囲のサービス(ハグ会等)を提供する場合がこちらに該当します。
私自身は握手会とは縁遠い生活を送っているため現場を知る由もありませんが、これらを守っている限りはファンサービスの一環として捉えても良さそうです。ファンの皆さまも、あまり下心を前面に出しすぎないように気をつけましょう。
なお、たとえばアイドルの卵と談笑することができる常設のカフェ等を設置する場合には当然ながら風俗営業許可を必要としますのでご注意ください。