防火対象物使用開始届について│書き方と注意すべき点
建物や建物の一部をこれから使用しようとする際は、使用を始める7日前までに、その内容を防火対象物を管轄する消防署に届け出なければなりません。また、防火対象物の工事等計画の届出を行った場合についても、防火対象物使用開始の届出が必要とされています。
これは防災上の観点から、誰がどのような用途で建物を使用しているのかを消防署が把握するとともに、消防法で定められた必要な消防用設備等が設置されているかなど防火上支障がないかを確認するための手続きです。
このような重要な目的がある一方で、消防法令は難解な規定が多く、条文を読み込み理解しようとするだけでも、それなりの時間浪費と重作業を強いられます。
そこで本稿では、消防法令の規定から、防火対象物使用開始届に関するものを抜粋し、必要となる法的知識について、ざっくりと解説していきたいと思います。
役所と誤認されてお問い合わせをいただくことが多々ありますが、弊所は民間の行政書士事務所であって行政機関ではありません。この点のみどうぞご承知の上、お気軽にご相談ください♪
防火対象物とは
そもそも防火対象物とは、不特定多数の人が出入りしたり、敷地が広大もしくは構造が巨大な建築物などのことを指します。本来はもっと広い範囲の工作物を含めた概念ですが、建物に関しては、戸建住宅を除いて、ほぼすべての建築物が防火対象物とされています。
届出が必要となるケース
防火対象物や防火対象物の一部を新たに使用する場合
建物を新築し、あるいは既存の建物(居抜き物件)において新たにテナントとして入居する場合は、工事の有無にかかわらず、防火対象物使用開始の届出が必要になります。
したがって、賃貸物件のテナントビル内で新たにお店をオープンするときは、ほぼすべてのお店について、防火対象物使用開始の届出を行う義務が生じます。
既存の建物を工事により改築した場合
工事の有無にかかわらず、防火対象物の使用開始時には届出を行う義務がありますが、新たにお店をオープンさせることに伴って工事を行う場合には、加えて防火対象物の工事等計画の届出も必要になります。
工事内容によっては、建築士や消防設備士といった専門家に施工を依頼する必要があるほか、着工届、工事計画届及び設置届といった工事に関する事前の届出も必要となります。
使用形態を変更する場合
居抜き物件で、従前の設備をそのまま使用してレストランから居酒屋へと使用形態を変更する場合などがこのケースに該当します。より厳密にいえば、「変更届」という扱いになりますが、使用の用途は防災上の観点からみても重要な要素であるため、使用形態を変更する際も、必ず消防署へ連絡して協議を行うようにしてください。
なお、当然のことながら、工事を伴って使用形態を変更する場合には、併せて防火対象物工事等計画届出書も必要になります。
★ポイント
- 戸建住宅を除き、ほぼすべての建物が防火対象物とされている。
- 工事の有無にかかわらず、新たに建物を使用する際には届出が必要。
- 工事を伴う場合には工事等計画の届出も必要。
- 使用形態を変更する場合は変更の届出が必要。
届出を忘れたらどうなるの?
ほぼすべての市町村条例において、防火対象物使用開始届は建物使用者の義務とされているため、未届であれば、それだけで義務違反の状態ということになります。
さらに消防署の立入検査において、基準に適合しない箇所や消防用設備の未設置などが発見されれば、消防法違反として、容赦なく消防用設備の新設や増設の命令が下され、その旨が公表されてしまいます。
内装工事前であればともかく、工事完了後や開店後にこの命令がなされると、そのための費用が余計にかかってしまうだけではなく、その建物において既に行われている営業を行うことが不可能になってしまうため、届出は建物の使用前に必ず行うようにしてください。
誰が届出をするの?
たとえばテナントビルの場合であれば、ビルのオーナーではなく、テナントの店子(たなこ)さん等のように、建物を実際に使用する者が届出の義務を負うことが原則になります。
ただし、実例からも、火災が発生し死傷者が出るような事態が生じた際には、「店子さんに任せていたから」では通用せず、消防用設備の設置や維持管理違反に関する責任は、最終的に建物所有者が負う可能性があります。
このことから、建物所有者(オーナー)と建物使用者(店子さん)とは、建物の管理を互いに丸投げしたり、管理会社任せにしたりせず、日頃から連携協力し、建物の状態を相互に把握して管理することを心がるようにしてください。
建物所有の方は、入居されるテナント関係者に「防火対象物使用開始届」などの届出や必要な消防用設備等の工事が計画されているかどうかを、事前に確認するようにしてください。
事前相談
後から防災上の不備を指摘されることのないように、所轄の消防署へは、事前相談に出向くようにしましょう。
事前相談の際には、簡単な図面や写真などを持参すると協議がスムーズに進行します。必要に応じて、消防設備士等の専門家に同行してもらうケースもあります。
また、消防署の職員は多忙な上、昨今の社会情勢からも突然の訪問は好ましくないため、事前相談の前には、電話連絡等で予約をしてからスケジュール調整を行うようにしましょう。
必要となる書類
届出の際には、防火対象物使用開始届提出書に、以下の書類を添付して提出します。これらの書類は正副2部を作成し、建物の所在地を管轄する消防署へ届け出ます。(所轄署によっては、郵送対応を可能としていることもあります。)
- 防火対象物使用開始届出書
- 付近見取図
- 建物配置図
- 各階平面図(消火器の設置位置を明示)
- 該当区画の詳細平面図(部分使用開始の場合)
- 建物立面図
- 内装仕上表
- その他火災予防上必要となる図書
記入例
防火対象物使用開始届の様式は各市町村ごとに少しずつ異なります。以下は大阪市において用いられる様式になりますが、大まかな記載事項について全国的な違いはないため、参考資料としてご確認ください。
特に難しい内容を記載するわけではありませんが、消防用設備については、以下の記載内容を参考にしながら、位置関係などをしっかりと把握するようにしてください。
消火器
- 通行又は避難に支障がなく、必要時にすぐに持ち出せる場所に設置すること
- 消火器は各防火対象物・部分から歩行距離20m以下(大型消火器は30m以下)になるよう設置し、各階ごとに設置すること
- 床面からの高さ1.5m以下に設置し、「消火器」の標識を見やすい位置に付けること
- 地震や振動で消火器が転倒、落下しないように設置すること
- 高温・多湿場所は避け、消火薬剤が凍結、変質又は噴出するおそれの少ないところに設置すること
- 消火器に表示されている「使用温度範囲」内の場所に設置すること
- 高温や湿気の多い場所、日光・潮風・雨・風雪等に直接さらされる場所、腐食ガスの発生する場所(化学工場、温泉地帯等)等に設置する場合は、格納箱に収納するなどの防護を行うこと
- 厨房室での床面、作業場の地面等への直置きは避け、壁掛け又は設置台、格納箱に設置すること
- 6か月に1回以上は外形を点検すること
消火栓
自動火災報知設備
スプリンクラー設備
非常放送設備
誘導灯
まとめ
新築物件や許可業種(社交飲食店、質屋等)をはじめようとする建物の場合、消防署の同意や確認などの手続きが必要になることから、多くのケースで適切な届出がなされています。
その一方で、居抜き物件の場合には、未届となっているケースが多く、未届が発覚するのも、消防署の立入検査であったり、実際に火災が発生した後であったりするパターンがほとんどです。
建物の火災は人災の側面が強く、実際に火災が発生し死傷者を出してしまった場合において、未届や消防法上の不備が発覚すると、極めて厳しく責任を追及されることになります。
このようなことにならないよう、経費や手続き的なコストも比較的簡易に行うことができる段階で届出を済ませ、消防署とも日常的に連携し、災害に備えた体制を確保することが重要です。
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上記に関する相談 | 11,000円~ |