旅館業における建築基準法上の基準と手続きについて
旅館業を運営するにあたり、建築基準法は消防法と並ぶ重要な法令です。消防法が旅館等の消防設備に関する基準を定めていることに対し、建築基準法では建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する基準を定めています。
宿泊施設を新築するのであればともかく、築年数が相当に経過している建物の場合は、新築当時は基準に適合していたとしても、現行の法令では基準に適合しなくなっていることも考えられます。これは元々旅館であった居抜物件であっても同様です。
そこで本稿では、旅館業を開始するために避けては通れない建築基準法上の基準や手続上の注意点について、できる限り分かりやすく解説していきたいと思います。
特殊建築物
特殊建築物とは、多数の人が集う建築物や、衛生上又は防火上特に規制すべき建築物等、読んで字の如く特殊な用途を持つ建築物のことを指します。建築基準法別表第一では、旅館、ホテル、下宿、共同住宅、寄宿舎等を含む以下の建築物を特殊建築物として指定し、一般建築物よりも一層厳しい規制を設けています。(建築基準法別表第一(2)項)
- 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類するもので政令で定めるもの
- 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの
- 学校、体育館その他これらに類するもので政令で定めるもの
- 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場その他これらに類するもので政令で定めるもの
- 倉庫その他れに類するもので政令で定めるもの
- 自動車車庫、自動車修理工場その他これらに類するもので政令で定めるもの
主要構造部
3階以上の階を旅館の用途に供するもの(階数が3で延べ面積が200㎡未満の旅館であって、政令で定める技術的基準に従って警報設備を設けたものを除く)又は旅館の用途に供する2階部分の床面積の合計が300㎡以上のものは、その主要構造部の性能を、以下の技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとする必要があります。
3階建以上の旅館等 | 耐火建築物 |
2階建で2階部分の床面積の合計が300㎡以上の旅館等 | 準耐火建築物 |
本稿では技術的基準についても軽く触れていますが、専門性が高く難解なため、無理して覚える必要性はありません。規模によって求められる構造が異なる点と、具体的な条件となる床面積等の数値だけしっかりと確認するようにしてください。
技術的基準
主要構造部の性能に関する技術的基準は、以下①から④のいずれかに該当するものとされています。
①通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後それぞれ以下の時間構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること
間仕切壁(耐力壁に限る) | 特定避難時間(特殊建築物に存する者の全てが特殊建築物から地上までの避難を終了するまでに要する時間)(特定避難時間が45分間未満である場合は45分間) |
外壁(耐力壁に限る) | 特定避難時間 |
柱 | 特定避難時間 |
床 | 特定避難時間 |
はり | 特定避難時間 |
屋根(軒裏を除く) | 30分間 |
階段 | 30分間 |
壁、床及び屋根の軒裏(外壁によつて小屋裏又は天井裏と防火上有効に遮られているものを除く) | 加熱開始後特定避難時間(非耐力壁である外壁及び屋根の軒裏(いずれも延焼のおそれのある部分以外の部分に限る)にあっては30分間)加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること |
外壁及び屋根 | 加熱開始後特定避難時間(非耐力壁である外壁(延焼のおそれのある部分以外の部分に限る)及び屋根にあっては30分間)屋外に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないものであること(屋内において発生する通常の火災を想定) |
②通常の火災による火熱がそれぞれ以下の時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること
建築物の部分 | 最上階及び最上階から数えた階数が2以上で4以内の階 | 最上階から数えた階数が5以上で14以内の階 | 最上階から数えた階数が15以上の階 |
---|---|---|---|
間仕切壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
外壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
柱 | 1時間 | 2時間 | 3時間 |
床 | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
はり | 1時間 | 2時間 | 3時間 |
屋根 | 30分間 | 30分間 | 30分間 |
階段 | 30分間 | 30分間 | 30分間 |
壁及び床 | 火熱が1時間(非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分にあっては30分間)加えられた場合に、当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)の温度が面に接する可燃物が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること |
外壁及び屋根 | 火熱が1時間(非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分及び屋根にあっては30分間)加えられた場合に、屋外に火炎を出す原因となるき裂その他の損傷を生じないものであること(屋内において発生する通常の火災を想定) |
③主要構造部ごとに建築物の屋内において発生が予測される火災による火熱が加えられた場合に、主要構造部が以下の要件を満たしていること
耐力壁である壁、柱、床、はり、屋根及び階段 | 建築物の自重及び積載荷重(特定行政庁が指定する多雪区域における建築物の主要構造部にあっては、自重、積載荷重及び積雪荷重)により、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること |
壁及び床 | 壁及び床の加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)の温度が可燃物燃焼温度(面が面する室において、国土交通大臣が定める基準に従い、内装の仕上げを不燃材料ですることその他これに準ずる措置が講じられている場合にあっては国土交通大臣が別に定める温度)以上に上昇しないものであること |
外壁及び屋根 | 屋外に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないものであること |
④外壁が建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱が1時間(延焼のおそれのある部分以外の部分にあっては30分間)加えられた場合に、以下の要件を満たしていること
- 耐力壁である外壁にあっては、外壁に建築物の自重及び積載荷重により、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないものであること
- 外壁の当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)の温度が可燃物燃焼温度(面が面する室において、国土交通大臣が定める基準に従い、内装の仕上げを不燃材料ですることその他これに準ずる措置が講じられている場合にあつては、国土交通大臣が別に定める温度)以上に上昇しないものであること
外壁の開口部
3階以上の階を旅館の用途に供するもの(階数が3で延べ面積が200㎡未満の旅館であって、政令で定める技術的基準に従って警報設備を設けたものを除く)又は旅館の用途に供する2階部分の床面積の合計が300㎡以上のものは、他の部分から延焼するおそれのある外壁の開口部、又は他の外壁の開口部から通常の火災時における火炎が到達するおそれがあるものとして国土交通大臣が定める外壁の開口部については、防火戸、ドレンチャーその他火炎を遮る設備(通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間加熱面以外の面(屋内に面するものに限る)に火炎を出さないもの又は国土交通大臣の認定を受けたものに限る)を設けるものとされています。
旅館等の内装
以下の構造を有する旅館等では、自動車車庫、及び地階又は地下工作物内に設ける居室その他これらに類する居室を除き、政令で定める技術的基準に従って、その壁及び天井(天井のない場合においては屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにするものとされています。
主要構造部を耐火構造とした建築物又は準耐火構造とした建築物 主要構造部を準耐火構造とした建築物と同等の準耐火性能を有するものとして主要構造部の防火の措置その他の事項について政令で定める技術的基準に適合するもの | 旅館等の用途に供する3階以上の部分の床面積の合計が1,000㎡以上のもの 旅館等の用途に供する2階の部分の床面積の合計が500㎡以上のもの |
主要構造部を準耐火構造とした建築物又はこれと同等の準耐火性能を有するものとして主要構造部の防火の措置その他の事項について政令で定める技術的基準に適合するもの(一時間準耐火基準に適合するものを除く) | 旅館等の用途に供する2階の部分の床面積の合計が500㎡以上のもの |
その他の建築物 | 旅館等の用途に供する部分の床面積の合計が200㎡以上のもの |
避難・消火に関する技術的基準
廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従って、避難上及び消火上支障がないようにするものとされています。
消防法との関係
建築基準法と消防法とは、切っても切れない関係性にあります。建築物の構造によって設置すべき消防設備は増減しますし、消防設備の有無によって建築基準法上の基準が緩和されることもあります。
このため、これらはある程度セットで捉え、旅館・ホテル営業の予定地が定まれば、契約に先立ってまずは両法令に適合しているかどうかをしっかりと確認するようにしましょう。
建築確認と用途変更
建築確認とは、建物の新築、増築、改築、移転(増築、改築、移転の場合は、これらの部分の床面積が10㎡以内のものを除く)、大規模の修繕・模様替え等の工事着手前に、建物や地盤が建築基準法に適合していることを行政庁(建築主事)が確認する行為をいいます。
用途を定めて工事着手前に申請し、建築主事が申請に基づいて確認を行います。特に問題がなければ「建築確認済証」が交付され、この書面を受け取ることによりようやく工事を開始することができます。
そして建物の完成後に検査を受けて基準に適合していることが確認されると、今度は建築物ごとに「検査済証」が交付されます。建築確認済証の交付が工事開始の要件であることに対し、検査済証の交付は建物使用開始の要件となります。
また、使用用途が旅館等(特殊建築物)ではない既存の建物を新たに旅館として使用する場合、旅館業に供する部分の面積が200㎡を超えるときは、用途変更の建築確認を申請する必要があります。
検査済証の写しは旅館業許可申請の際に必ず求められる添付書類となっているため、建築確認が行われていない建物については旅館業の宿泊施設として申請することはできません。ご面倒ではありますが、重要な要件なので必ずしっかりと把握するようにしてください。
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