防火戸(防火扉)の性能と設置の基準について
防火戸は、建築基準法に規定される防火設備の一種です。法令上は「防火戸」が正式名称とされていますが、一般には「防火扉」と表記されることも多く、またシャッター形式の防火戸は、「防火シャッター」とも表記されます。
目 次
防火設備タイプ
建築基準法上の防火設備に該当するものは、「閉鎖時に通常の火災時における火炎を有効に遮るもの」と定義されており、旧称で「乙種防火戸」と呼ばれています。隣接する建物からの延焼を防止するために、外壁に設けられることが多く、燃え落ちたり融解したりしないことから、火炎の侵入を防ぐための密閉性を有しています。
主として使用される建築材料により、鉄製、鉄骨・鉄筋コンクリート製、網入りガラス、骨組みに防火塗料を塗布した木材製などに分類され、いずれも火炎を20分間シャットアウトする性能を有しています。
特定防火設備タイプ
建築基準法上の特定防火設備に該当するものは、「通常の火災の火炎を受けても1時間以上火炎が貫通しない構造を有するもの」と規定されており、旧称で「甲種防火戸」と呼ばれています。一般的に「防火扉」(防火戸)と聞いてイメージするのは、こちらのタイプであるように思います。
実務上、火災時に確実に閉鎖させる必要があるため、次の2種類の構造のみが認められています。
構造 | 内容 | 特長 |
---|---|---|
常時閉鎖型防火戸 | 意識的に開いている間だけ開放され、それ以外は常に閉鎖されているタイプのもの | 大きく開いてもロックされず、手を放すと必ず扉が閉まる |
随時閉鎖型防火戸 | 火災を感知すると、自動的に鉄扉がスイングしたり、シャッターが下りて閉鎖されるタイプのもの | 煙感知式(煙感連動)や熱感知式(熱感連動)があり、熱感知式には、さらに一定以上の温度になった場合に作動する定温式、温度の上昇率が一定以上になった場合に作動する差動式などがある |
防火シャッターの場合、いちど閉鎖されると通行不能となるため、別途特定防火設備としての条件を備えたくぐり戸を設ける必要があります。その性質上、通常このくぐり戸は、常時閉鎖式防火戸が採用されています。
遮炎性能と準遮炎性能
遮炎性能とは、通常の火災時において、火炎を有効に遮る性能のことです。具体的には、屋内または周囲で発生する通常火災の際に、一定時間加熱面以外の面に火災を出さないことが求められています。特定防火設備であるか防火設備であるかによって、遮炎時間がそれぞれ次のように定められています。
設備 | 遮炎時間 |
---|---|
特定防火設備 | 1時間 |
防火設備 | 20分 |
準遮炎性能とは、建築物の周囲において発生する通常の火災時における火炎を有効に遮るために防火設備に必要とされる性能を指します。具体的には、周囲において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合、加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものであることが、その基準とされています。
遮煙性能
遮煙性能とは、火災発生時における避難経路の確保のために、煙を防火区画に閉じ込め、その流出をどの程度遮断することができるのかを表した防火設備の性能のことを指します。火炎と異なり、煙はごく狭小な隙間からも侵入し、また、伝播速度も格段に速いため、その性質に合わせ、遮炎性能とは異なる基準が設定されています。
建築基準法上、防火戸には遮煙性能までは求められていませんが、他法令や自治体の条例において、区画に遮煙性能を有する防火戸を要求するケースがあります。
防火戸の設置基準
防火地域又は準防火地域内にある建築物は、その外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に、防火戸、ドレンチャーその他火炎を遮る防火設備を設置する必要があります。これらの設備の構造は、準遮炎性能に関する技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものであることが要求されています。
外壁部
外壁開口部から火炎が噴出することにより、延焼が水平方向や縦方向に拡大することを防止するために、防火区画が建物の外壁に突き当たる箇所については、耐火壁や防火設備を設置する必要があります。
避難階段と特別避難階段
避難階段 | 5階以上の階(除外項目あり)もしくは地下2階以下の階に通ずる直通階段は、避難階段とすること |
特別避難階段 | 15階以上または地下3階以下の階に通ずる直通階段は特別避難階段とすること |
屋内の避難階段の出入口 | 遮煙性能を有する防火戸(防火設備)にすること |
屋外の避難階段の出入口 | 遮煙性能を有する防火戸(防火設備)にすること |
特別避難階段の付室への入口 | 避難方向へ開く常時閉鎖または煙感知連動随時閉鎖で遮煙性能を有する防火戸(防火設備)にすること |
地下街
地下街における各構えと地下道とは、耐火構造を有する壁や遮煙性能を有する防火戸(特定防火設備)により区画することが必要になります。
また、各自治体の条例や規則において、さらにきめ細かな設定がなされているケースも多いため、建築基準法のみならず、自治体の条例等にも目を向けるように心がけましょう。
防火区画
面積区画 | 主に水平方向の火災拡大を防ぐために一定の面積ごとに区画した区分 |
高層区画 | 11階以上の高層建築物に適用される面積区画 |
竪穴区画 | 縦に空間が広がっている部分を対象とする区画区分 |
異種用途区画 | 用途の異なる特殊建築物を対象とする区画区分 |
面積区画
主要構造部が耐火構造である建築物又は準耐火建築物で、延べ面積が1,500㎡を超えるものは、水平方向への延焼を防止するとともに、一度に避難する人数を制御するために、原則として、床面積の合計1,500㎡以内ごとに、準耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備で区画する必要があります。
この際、延べ面積及び床面積からは、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のものを設けた部分の床面積の2分の1に相当する床面積は除外されます。
高層区画
中低層階(10階まで)に比べ、高層階(11階以上)では、火災発生時の消火活動がより困難になると予想されるため、区画面積がさらに制限され、求められる構造の条件についてもハードルが高まります。
竪穴(たてあな)区画
火災時には、吹抜け、階段室、エレベーターの昇降部分、ダクトスペースなどの竪穴部分を伝って火災が拡大する可能性があるため、竪穴に通ずる箇所には、耐火構造を有する壁や、遮煙性能を有する防火戸(防火設備)が必要となります。
具体的には、主要構造部分が耐火構造、もしくは準耐火構造になっている地階または 33階以上に居室のある建築物、小規模な特殊建築物が区画の対象となります。なお、面積区画や高層区画の面積算定除外とするために、遮煙性能のある防火戸(特定防火設備)が利用されることもあります。
異種用途区画
用途の異なる特殊建築物(店舗と事務所、駐車場と店舗など)は、準耐火構造を有する壁や、 遮煙性能のある防火戸(特定防火設備)により区画する必要があります。
まとめ
防火戸は、病院や福祉施設、大規模小売店舗等、実に多くの建築物において設置を要求されている設備です。人命や財産を保護するために必要な設備であることを踏まえると、万人がもっと興味を持ってしかるべき事項のように思います。
ただし、重要であればあるほど、これらを規定する法令等の適用やその解釈については、難解かつ複雑な仕組みが設けられています。
備えあれば憂いなしですが、ご自身が入居する建築物についても、専門家を交え、改めて見直ししてみてはいかかでしょうか。