クロスボウ(ボウガン)所持の禁止と所持許可について
相次ぐクロスボウ(ボウガン/ボーガン)を使用した凶悪事件の発生を受け、令和3年6月16日、銃砲刀剣類所持等取締法(以下、銃刀法)の一部を改正する法律が公布されました。これによりクロスボウの所持は原則禁止とされ、その所持については許可制が採用されることとなりました。
そこで本稿では、銃刀法の改正に伴うクロスボウの取扱いについて、許可制度の概要とともに詳しく解説していきたいと思います。
クロスボウを不法に所持した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあるためご注意ください。
クロスボウとは
クロスボウ(ボウガン/ボーガン)とは、洋弓銃とも表記される弓矢型の銃器をいいますが、このうち銃刀法によって所持等を規制されるものは、「引いた弦を固定し、これを解放することによって矢を発射する機構を有する弓のうち、内閣府令で定めるところにより測定した矢の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるもの」と定義されています。
その威力について警察庁科学警察研究所が実験を行ったところ、約5m離れた地点から発射して、合成樹脂製ヘルメット及びアルミ製フライパンを貫通する威力を有することが確認されています。
従前は何ら手続きを経ることなく所持することができたクロスボウですが、令和2年6月に兵庫県宝塚市においてクロスボウにより4人が殺傷される事件が発生したほか、同年7、8月と殺人未遂事件が相次いで発生したことを受け、兵庫県では令和2年12月に新たな条例を設け、全国に先駆けてクロスボウの所持を届出制に改正していました。
全国規模でみても、過去10年間余でクロスボウが使用された刑法犯検挙件数の半数以上(13/23件)が故意に人の生命・身体を害する罪(殺人、殺人未遂等)であり、このことからもクロスボウの危険性について、改めて議論がなされることになりました。
改正銃刀法の内容
人の生命に危険を及ぼし得る威力を有するクロスボウについては、銃や刀剣と同様に原則として所持禁止の対象となり、この規定に違反した場合は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになります。
許可制の導入
一定の用途(標的射撃、動物麻酔等)に供するため規制対象のクロスボウを所持しようとする者は、クロスボウごとに、都道府県公安委員会の許可を受ける必要があります。
また、都道府県公安委員会は、所持の許可を受けた者に対し、所持するクロスボウが許可に係るものであることを表示させるため必要がある場合には、許可に係るクロスボウに許可に係るものであることを表示するための措置を執ることを命ずることができます。
なお、鑑賞や収蔵の目的で所持許可を受けることはできず、販売事業者についても都道府県公安委員会に届出をすることが義務付けられています。
欠格事由
銃刀法により明確に「凶器」となりうるものとして位置づけられたため、「誰が」「何を」所持するのかは重要な事項です。このため申請をしても、以下のいずれかの事由(人的欠格事由)に該当する者については、クロスボウ所持の許可を受けることはできません。
- 18歳未満の者(例外あり)
- 統合失調症やそううつ病等の精神的な病気にかかっている者、又は認知症である者
- アルコールや覚醒剤等の薬物の中毒者、心神耗弱者
- 住居が定まっていない者
- 過去に一定の犯罪歴のある者や所持許可の取消処分等を受けた者
- 暴力団関係者
- ストーカー行為や配偶者暴力行為をした者、その他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し、又は自殺のおそれのある者
- 同居の親族に上記2,3,6.7に該当する者がある場合など
また、引いた弦を固定し、これを解放することによって矢を発射する機構を有する弓のうち、内閣府令で定めるところにより測定した矢の運動エネルギーの値が6.0以上となるもの(物的欠格事由)については、そもそも所持することを求められていません。
このほか、申請日における年齢が75歳以上の者であって認知機能検査を受けず若しくは診断書の提出命令に応じないものである場合や、又は申請者が法令の基準に適合する保管設備を有していない場合(専らクロスボウ保管業者に委託して保管する場合を除く)についても許可を受けることはできません。
使用に関する規制
所持許可を受けた場合であっても、許可に係る用途に供する場合その他正当な理由がない場合における携帯又は運搬は禁止され、所持許可に係る用途に供する場合を除いてはクロスボウを発射することはできません。
標的射撃については、危害予防上必要な措置が執られている場所に限って使用することができます。
保管等に関する規制
許可を受けてクロスボウを所持する者は、適切な設備及び方法によりクロスボウを保管する義務が生じます。
クロスボウを譲り渡す場合は、相手方がそのクロスボウを適法に所持することができる者であることを、相手方のクロスボウの所持許可証の原本を確認する方法等により確認する必要があります。
標的射撃等の用途に供するためクロスボウの所持許可を受けた者は、クロスボウ販売事業者又はクロスボウ射撃指導員であって都道府県公安委員会に届け出てクロスボウを保管することを業とするものに許可に係るクロスボウの保管を委託することができます。
違反した場合は、6か月以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられるほか、不法所持幇助罪に問われる可能性があります。
所持許可の申請
以下のいずれかに該当する者は、所持しようとするクロスボウごとに、その所持について、住所地又は事業場の所在地を管轄する警察署を経由して都道府県公安委員会の許可を受ける必要があります。
- 狩猟、有害鳥獣駆除又は標的射撃の用途に供するため、クロスボウを所持しようとする者
- 動物麻酔又は漁業その他の産業の用途に供するため必要なクロスボウを所持しようとする者
- 政令で定める試験又は研究の用途に供するため必要な銃砲等を所持しようとする者
- クロスボウ射撃資格者に対するクロスボウの操作及び射撃に関する技能の維持向上並びに所持の許可を受けようとするクロスボウの選定に資するためのクロスボウの射撃の指導に従事するクロスボウ射撃指導員で、指導の用途に供するためクロスボウを所持しようとするもの
- 演劇、舞踊その他の芸能の公演で銃砲等(拳銃等を除く)を所持することがやむを得ないと認められるものの用途に供するため、銃砲等を所持しようとする者
- 博覧会その他これに類する催しにおいて展示の用途に供するため、銃砲等を所持しようとする者
- 博物館その他これに類する施設において展示物として公衆の観覧に供するため、銃砲等を所持しようとする者
なお、クロスボウ所持許可の申請は、以下の書類を所轄警察署に対して提出することにより行います。
- クロスボウ所持許可申請書
- 医師の診断書
- 譲渡人若しくは貸付人が作成した譲渡等承諾書(許可の申請をするときまでに譲渡人又は貸付人が定まっていない申請人に係るものを除く)又は相続、発見その他当該銃砲等又は刀剣類を所持することとなる理由を証明する書類(該当する場合)
- 住民票の写し
- 同居親族書及び破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村(特別区を含む)の長の証明書
- 申請人の写真(2枚)
- 講習修了証明書
- 経歴書
- やむを得ない事情を明らかにした書類(クロスボウの所持の許可を受けている者)
- 関係行政機関若しくはその地方支分部局の長の証明書又は文化庁長官の証明書及び試験・研究の実施概要書(政令で定める試験又は研究の用途に供するため必要な銃砲等を所持しようとする場合)
- 演劇、舞踊その他の芸能の公演又は博覧会その他これに類する催しの名称、主催者の氏名又は名称、概要、開催の日時及び場所並びに銃砲等の所持の方法又は態様を記載した書類(演劇、舞踊その他の芸能の公演で銃砲等を所持することがやむを得ないと認められるものの用途に供するため、銃砲等を所持しようとする場合)(博覧会その他これに類する催しにおいて展示の用途に供するため、銃砲等を所持しようとする場合)
- 銃砲等を所持しようとする理由を記載した書類(演劇、舞踊その他の芸能の公演で銃砲等を所持することがやむを得ないと認められるものの用途に供するため、銃砲等を所持しようとする者)
- 博物館その他これに類する施設の名称、所在地、設置者の氏名又は名称及び銃砲等の所持の方法又は態様を記載した書類(博物館その他これに類する施設において展示物として公衆の観覧に供するため、銃砲等を所持しようとする)
- 法人の代表者又は代理人、使用人その他の従業者については、法人が業務のために所持させる旨を記載した証明書(法人がその代表者又は代理人、使用人その他の従業者に銃砲等を所持させようとする場合)
まとめ
クロスボウに関しては、その殺傷力について認知されつつも法整備の遅れから、規制が進まない状況にありました。令和3年の法改正では、クロスボウの所持を原則禁止としたことで、銃や刀剣と同様にクロスボウを入手すること自体が困難になったため、これらを使用した事件が減少することが期待されています。
弊所では、クロスボウをはじめ、猟銃や刀剣等の所持に関する手続きをサポートしています。秘密は厳守いたしますので、これらの手続きについてお困りの際は、弊所までどうぞご遠慮なくお問い合わせください。
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