食品衛生管理者について│取得のハードルが高い食品衛生法上の国家資格
食品衛生法では、食品を取り扱う事業者や施設について、食品衛生管理者や食品衛生責任者といった資格者を配置することを義務付けています。
食品衛生管理者と食品衛生責任者とは、食品に携わるという点において同一であり、また、その字面からも、両者を混同している方も多いように思います。
しかし、これら2つの資格は、食品衛生上重要な役務を担うという点を同じくしながらも、資格者を設置する基準や、資格を取得するためのルートを異にする別の資格となっています。
そこで本稿では、取得するためのハードルが高い食品衛生管理者について、食品衛生責任者と対比しつつ、資格の取得方法等も絡めながら、詳しく解説していきたいと思います。
目 次
食品衛生責任者とは
食品衛生責任者は、食品を取り扱うすべての施設(食堂やレストラン等)ごとに配置することが義務付けられた有資格者です。資格としては、自治体が管轄する公的資格という取扱いで、資格取得のための手続きも簡易的なものとなっています。
食品衛生責任者になるためには、養成講習を受講する必要がありますが、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師、栄養士、調理師及び製菓衛生師等の資格保持者は、この講習を受講することなく食品衛生責任者となることができます。
なお、食品衛生法上の営業許可を更新する際には、必要があります。こちらに関しては、上記の国家資格保有者であっても、実務講習を受講する必要があります。
食品衛生管理者とは
食品衛生管理者とは、製造又は加工の過程において特に衛生上の考慮を必要とする食品又は添加物等の製造又は加工を行う施設ごとに、専任で置く必要のある有資格者のことです。資格としては、厚生労働省が管轄する国家資格として取り扱われており、資格取得についても、食品衛生責任者よりも高いハードルが設定されています。
資格の更新こそありませんが、講習会等へ積極的に参加し、法令の変更などを随時確認する責任があります。
設置を義務付けられる施設
以下の食品若しくは添加物の製造若しくは加工を行う施設は、特に衛生上の配慮を必要とすることから、その営業所について、専任の食品衛生管理者を置く必要があります。(営業所の実態に応じ、管理者と責任者の両者をそれぞれ配置すべきケースがあります。)
- 全粉乳(その容量が1,400g以下である缶に収められるものに限る)
- 加糖粉乳
- 調製粉乳
- 食肉製品(ハム、ソーセージ、ベーコンその他これらに類するものをいう)
- 魚肉ハム
- 魚肉ソーセージ
- 放射線照射食品
- 食用油脂(脱色又は脱臭の過程を経て製造されるものに限る)
- マーガリン
- ショートニング
- 添加物(食品衛生法第13条第1項の規定により規格が定められたものに限る)
ここで言う「専任」とは、「一つの職務のみを受け持つこと」とされており、食品衛生管理者は、原則として、他の営業所において食品衛生管理者を兼任したり、よその会社で常勤の職員として雇用されること(兼業)は認められていません。
ただし、食品衛生管理者として在籍する営業所の営業時間外に他の事業所のパート職員として雇用されることや、管理する施設内において食品衛生管理者としての職務に支障が出ない範囲で他の職務に就くことは禁止されていません。
食品衛生管理者の資格要件
食品衛生管理者は、誰でも取得することができる資格ではなく、以下のいずれかに該当する者であることが求められます。
- 医師、歯科医師、薬剤師、獣医師
- 学校教育法に基づく大学、旧大学令に基づく大学又は旧専門学校令に基づく専門学校において医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の課程を修めて卒業した者
- 都道府県知事の登録を受けた食品衛生管理者の養成施設[XLS形式:107KB]において所定の課程を修了した者
- 学校教育法に基づく高等学校若しくは中等教育学校若しくは旧中等学校令に基づく中等学校を卒業した者又は厚生労働省令の定めるところによりこれらの者と同等以上の学力があると認められる者で、食品衛生管理者を置かなければならない製造業又は加工業において食品又は添加物の製造又は加工の衛生管理の業務に3年以上従事し、かつ、都道府県知事の登録を受けた講習会の課程を修了した者
(※)4.により食品衛生管理者となるための要件を満たした者については、衛生管理の業務に3年以上従事した製造業又は加工業と同種の業種の施設においてのみ食品衛生管理者となることができます。
食品衛生管理者登録講習会
高校卒業相当以上の学歴を有し、食品衛生管理者を置かなければならない施設で3年以上の衛生管理業務従事経験がある者は、食品衛生管理者登録講習会を修了することにより、食品衛生管理者となることができます。
実務上、こちらのルートで資格を取得することが一般的だと思いますが、注意していただきたいのは、「食品衛生管理者を置かなければならない施設」での実務経験が必要であるという点です。
たとえば、飲食店営業許可のみを取得しているようなノーマルな飲食店には、食品衛生責任者を配置する義務はあるものの、食品衛生管理者までは配置する義務がないため、これらの店舗での経験はカウントされないことになります。
また、「衛生管理業務」に従事した経験が3年以上必要なのであって、たとえば食品衛生管理者を配置する必要がある食肉製品製造業の事業者で勤務していた期間があったとしても、経理や現場作業の業務に従事していた経験については、必要となる従事経験としてはカウントされません。ただし、これらの経験年数は、同一の業種であれば、他の営業所であっても、これを合算することができます。
なお、この講習自体は、「食品衛生管理者を置かなければならない施設」での実務経験が2年以上あれば受講することができますが、受講の申請の際には、実務経験を証明するための、「営業者との雇用関係を証する書面」を添付する必要があります。
実施する主体
食品衛生管理者登録講習会は、厚生労働大臣又は都道府県知事の登録を受けた社団法人日本食品衛生協会、日本食品添加物協会及び一般社団法人食肉科学技術研究所が共催で実施します。
開催期間はおよそ30日間で、いずれも30万円程度の受講料を要するため、安価かつ1日で修了することができる食品衛生責任者養成講習とは一線を画しています。
講習科目
一般共通科目
- 公衆衛生概論
- 食品衛生法及び関係法令日
- 食品、添加物等の基準規格
- 化学概説
- 細菌学序論
- 毒物学
- 食中毒学
- 食品学(栄養学を含む。)
- 施設における衛生管理
乳製品関係科目
- 細菌学実習
- 乳製品検査法
- 乳製品検査実習
- 施設見学及び臨地訓練
食肉製品関係科目
- 細菌学実習
- 食肉製品検査法
- 食肉製品検査実習
- 施設見学及び臨地訓練
添加物関係科目
- 分析法概論
- 添加物鑑定法
- 添加物鑑定実習
- 施設見学及び臨地訓練
食品衛生管理者の届出
食品衛生管理者を置き、又は自らが食品衛生管理者となったとき、及び食品衛生管理者を変更したときは、営業施設所在地を管轄する保健所に対し、15日以内に以下の書類を提出することにより、届出を行う必要があります。(手数料は不要)
- 食品衛生管理者設置(変更)届
- 食品衛生管理者の履歴書
- 食品衛生管理者の資格を証する書面
- 営業者との雇用関係を証する書面
まとめ
食品衛生管理者資格取得のハードルが、意外に高いことに面食らった方も多いように思います。たとえば食肉製品製造業の許可を取得しようと計画を進めていて、後に食品衛生管理者が必要であることを知って愕然としてしまうようなパターンはそう珍しいことではありません。
まずは事業規模や雇用の必要性を含め、しっかりとした事業計画を立てた上で事前準備を整え、柔軟に対応していくことが重要であるように思います。