景品類に関する規制について

景品表示法

弊所は行政書士事務所としておもに許認可事業の申請代行を請け負っていますが、その中で時折質問を受けるのが景品に関する事項です。景品を顧客誘引の手段とするのは確立された営業手法のひとつですから、事業を開始するに当たって検討すべき事項であることは間違いありません。

ただし、景品類について法定のルールが存在することはよく知られているように思う一方で、ルールの詳細についてまではあまり認知されていないように感じます。

そこで本稿では、不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)を下敷きとして、景品類に関する法定のルールについて詳しく解説していきたいと思います。

景品類とは

景品表示法では、「景品類」について、➀顧客を誘引するための手段として②事業者が自己の供給する商品又は役務(サービス)の取引(不動産に関する取引を含む)に付随して③取引の相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものとして定義しています。

内閣総理大臣は、この規定に基づき、「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3号)において、具体的に以下に該当するものを「景品類」として指定しています。

  • 物品及び土地、建物その他の工作物
  • 金銭、金券、預金証書、当選金付き証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
  • きょう応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む)
  • 便益、労務その他の役務

ただし、正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして、取引に係る商品又は役務に付属すると認められる経済上の利益は含まないこととされています。

取引の相手方に提供する経済上の利益が、景品表示法上の「景品類」に該当する場合、提供できる景品類の最高額などが規制されます。具体的な景品類の最高額などについては、景品類提供の方法が「懸賞」にあたるか「総付景品」にあたるかによって異なります。

景品表示法に基づく景品規制は、景品類の限度額、提供の方法などを規制しているものであり、特定の金品・サービスなどを景品類として提供することを禁止する旨は規定されていません。ただし、景品類として提供するものが、他の法令などにより規制を受けていないかどうかは確認する必要があります。(風営法等)

現在、新聞業、雑誌業、不動産業、医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業の各業界については、景品表示法第4条の規定に基づく景品類提供の制限に関する告示が制定され、これらの告示により、各業界において提供される景品類に制限が設けられています。なお、これら告示によるもののほか、出版物小売業においては、業界の自主ルールである「公正競争規約」により、一般の景品規制とは異なる自主規制を設けています。

懸賞とは

懸賞とは、抽選やじゃんけんなどの偶然性、クイズなどへの回答の正誤、作品などの優劣の方法によって景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいいます。「懸賞」のうち、一定の条件の下で複数の事業者が共同して行うものは「共同懸賞」、それ以外の懸賞は「一般懸賞」と呼ばれています。

一般懸賞に関する規制

一般懸賞においては、提供できる景品類の最高額及び総額が定められており、景品類の最高額については、取引の価額が5,000円未満の場合は取引の価額の20倍まで、5,000円以上の場合は一律10万円までとなります。また、景品類の総額については、懸賞に係る売上予定総額の2%以内とされており、最高額及び総額両方の制限内で行う必要があります。

懸賞による取引の価額景品類限度額
1最高額2総額
5,000円未満取引の価額の20倍懸賞に係る売上予定総額の2%
5,000円以上10万円

共同懸賞に関する規制

以下の要件をすべて満たす場合は、複数の事業者が共同して「共同懸賞」を実施することができます。

  1. 一定の地域の小売業者又はサービス業者の相当多数が共同して行う場合
  2. 一の商店街に属する小売店又はサービス業者の相当多数が参加して行う場合(ただし、中元、年末などの時期において、年3回を限度とし、かつ、年間通算して70日の期間内で行う場合に限られます)
  3. 一定の地域において一定の種類の事業者の相当多数が共同して行う場合

共同懸賞においては、景品類の最高額は取引の価額にかかわらず30万円、景品類の総額は、懸賞に係る売上予定総額の3%以内とされており、一般懸賞と比較して最高額及び総額が高く設定されています。

景品類限度額
最高額総額
取引の価額にかかわらず30万円懸賞に係る売上予定総額の3%
★一定の地域

ここでいう「一定の地域」とは、共同懸賞に参加する店舗又は営業施設の所在する市町村(又は特別区)の区域又はそれ以上の区域を指します。なお、市町村よりも狭い範囲の場合は、一律に実施できないというものではなく、実施可能かどうかは、地域における競争の実態等を総合的に勘案し個別に判断されます。

なお、通信販売業者が出店しているショッピングサイト(いわゆる電子商店街)において共同して行う懸賞は「一定の地域」において行われるものとは認められないため、これを共同懸賞として実施することはできません。

★相当多数

ここでいう「相当多数」とは、共同懸賞の参加者が「一定の地域」における「小売業者又はサービス業者」又は「一定の種類を行う事業者」の過半数であり、かつ、通常、共同懸賞に参加する者の大部分である場合を指します。

また、「一の商店街に属する小売業者又はサービス業者の相当多数」とは、原則として、小売業者又はサービス業者が30店以上であり、かつ、それが通常共同懸賞に参加する者の大部分である場合ということになります。商店街の店舗数がそもそも30未満の場合であっても一律に共同懸賞として実施できないものではなく、地域の実情などを勘案して判断されることになります。(商店街だけでなく、これに準ずる店舗を有するいわゆるテナントビル、ショッピングビル等においても適用される)

複数の事業者が懸賞を行う場合であっても、共同懸賞への参加資格を売上高等によって限定し、又は特定の事業者団体の加入者、特定の事業者の取引先等に限定する場合や、懸賞の実施に要する経費の負担、宣伝の方法、抽選券の配分などについて一部の者に対し不利な取扱いをし、事実上共同懸賞に参加できないようにする場合は共同懸賞として実施することはできません。

★一定の種類の事業

ここでいう「一定の種類の事業」とは、「日本産業分類」の細分類として掲げられている種類の事業(○○製造業、△△小売業等)が判断の基準となります。

総付景品

一般消費者に対して「懸賞」によらないで提供する景品類は、一般に「総付(そうづけ)景品」(ベタ付き景品)と呼ばれており、具体的には商品又は役務の購入者や来店者に対してもれなく提供する景品類がこれに当たります。また、商品若しくは役務の購入の申込み順又は来店の先着順により提供する景品類も原則として総付景品に該当します。

総付景品については、提供できる景品類の最高額が定められており、提供できる景品類の最高額は、取引の価額が1,000円未満の場合は200円まで、1,000円以上の場合は取引の価額の10分の2の金額までとされています。

取引の価額景品類の最高額
1,000円未満200円
1,000円以上取引の価額の10分の2

取引に付随してくじなどの方法により物品を提供する場合は、提供の相手方が事業者であっても一般消費者であっても、景品表示法上の懸賞として景品規制の対象となります。一方、懸賞によらず提供する場合は、一般消費者向けに提供するものは総付景品に該当し、景品規制の対象となりますが、事業者向けのものについては原則として景品規制は適用されません。

ただし、医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業については、例外的に、医療機関等の事業者向けに提供する物品・サービスについて景品規制の対象となります。

景品類の価額

景品類の価額は、景品類と同じものが市販されている場合は、景品類の提供を受ける者が通常購入するときの価格(消費税込み)によることとされています。例えば景品として宝くじを提供する場合の景品の価額は、宝くじの販売価格(年末ジャンボ宝くじなら1枚300円)であり、当選金の額を考慮する必要はありません。

なお、ショッピングサイトで購入することが通常といえるのであれば、ショッピングサイトでの販売価格を参考とすることができます。(参考とするショッピングサイトでの価格について、すでに販売が終了していたり販売の実態がない場合などは、通常購入するときの価格とみることはできません。)

景品類と同じものが市販されていない場合は、景品類を提供する者がそれを入手した価格(消費税込み)、類似品の市場価格などを勘案して、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入することとしたときの価格を算定し、その価格によることとされています。

景品類として提供されるものが非売品であり、類似品も市販されていない場合は、景品類を提供する者がそれを入手した価格、景品類の製造コスト、景品類を販売することとした場合に想定される利益率などから、景品類の提供を受ける者が、それを通常購入することとしたときの価格を算定し、その価格を景品類の価額とします。

取引の価額

既存の顧客に対して景品類を提供する場合の取引の価額については、企画を告知した後に発生する通常の取引のうち最低のものということになり、過去の購入額を取引の価額とすることはできません。

商品・サービスの購入者に対し、購入額の多少にかかわらず景品類を提供する場合の取引の価額は、原則として100円となります。ただし、対象となる商品・サービスのうち最低のものが明らかに100円を下回っているときは、その最低のものが取引の価額になります。また、対象となる商品・サービスについて通常行われる取引の価額のうち最低のものが100円を超えると認められるときは、その最低のものを取引の価額とすることができます。

商品・サービスの購入を条件とせずに、店舗への来店者に対して景品類を提供する場合の取引の価額は、原則として100円となります。ただし、その店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のものが100円を超えると認められるときは、当該最低のものを取引の価額とすることができます。

景品類の提供者がメーカー又は卸売業者である場合の取引の価額は、景品類提供の実施地域における対象商品の通常の取引価格を基準とします。したがって、このケースでは例えば特売セールでの販売価格など通常の販売価格とはいえない価格を除き、景品提供企画を実施する地域における対象商品の通常の販売価格を取引の価額とすることになります。

なお、総付景品の提供と懸賞を同時に行う場合は、それぞれの規制の範囲内において景品類を提供することができます。

景品類への該当性

  1. 顧客を誘引するための手段として
  2. 事業者が自己の供給する商品又は役務(サービス)の取引(不動産に関する取引を含む)に付随して
  3. 取引の相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益
  4. 「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」において指定されているもの

上記をすべて満たすものが景品類とされていますが、判断が難しいケースも多いため、以下の各事例を参考にしながら取引の相手方に提供する経済上の利益が景品類に該当するかどうかをしっかりと確認するようにしてください。

単体で販売している2つ以上の商品を組み合わせて販売していることが明らかな場合取引に付随する提供には当たらないため景品規制の適用対象外
取引の相手方に商品の購入を条件として他の商品を提供するかのように認識される告知を行うなど景品類であると認識されるような方法で提供する場合(商品の購入者に対して別の商品Bをプレゼントし、又は無料とするケース等)取引に付随する提供に当たるため景品規制の対象となる
自己の供給する商品・サービスの購入者を紹介してくれた人(紹介者)に対する謝礼取引に付随する提供には当たらないため景品規制の適用対象外
自己の供給する商品・サービスの購入者を紹介してくれた人(紹介者を自己の供給する商品・サービスの購入者に限定する場合)に対する謝礼取引に付随する提供に当たるため景品規制の対象となる
自己の供給する商品・サービスの購入者の中から募集したモニターに対して提供する謝礼モニターとしての作業内容が相応の労力を要するなど、その仕事の報酬などと認められる程度のものであれば景品類には該当しない
キャッシュバックなどの方法により、取引通念上妥当と認められる基準に従い、支払った代金の割戻しを行うこと値引と認められる経済上の利益に該当するため景品規制の適用対象外
懸賞によりキャッシュバックを行う場合、割り戻した金銭の使途を制限する場合、又は同一の企画において景品類の提供を併せて行う場合景品規制の適用対象
取引通念上妥当と認められる基準に従い、ある商品・サービスの購入者に対し、同じ対価で、それと同一の商品・サービスを付加して提供すること(コーヒー5回飲んだらコーヒー1杯無料券をサービスするケース等)値引と認められる経済上の利益に該当するため景品規制の適用対象外
クーポン券が印刷してあるフリーペーパーの発行元景品規制の対象外
フリーペーパーに印刷されている割引クーポン券を持参した顧客に対して割引を実施する場合値引と認められる経済上の利益に該当するため景品規制の適用対象外
フリーペーパーに印刷されているクーポン券を持参した顧客に対して物品などを提供する場合店舗と顧客との個々の取引において景品類が提供されるものと認められ、これら店舗が行う景品提供企画に対し、個別に総付景品規制が適用される
取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること又は割り戻すこと値引と認められる経済上の利益に該当するため景品規制の適用対象外
対価の減額又は割戻しであっても、懸賞によってその相手方を決定する場合、減額や割戻しをした金銭の使途を限定する場合、又は同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合(取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させるケース等)値引とは認められず景品類に該当することとなり景品規制が適用される
ポイントカードを発行し、商品の購入者に対し、次回以降の買い物の際に、他店でも支払いの一部に充当できるポイントを提供する場合自店だけでなく他店でも共通して支払いの一部に充当できるポイントを提供することは景品類の提供に該当する
自店及び他店で共通して使用できる同額の割引を約する証票正常な商慣習に照らして適当と認められるものであれば、景品類に該当する場合であっても総付景品規制は適用されない
古物(中古品)の買取りの際にバッグ等を提供する場合古物(中古品)の買取りは景品表示法上の「取引」には該当しないため、景品規制は適用されない
派遣社員として登録をした人を対象に金品を提供する場合人材派遣会社への登録は労働契約に係るものであり、基本的には景品表示法上の「取引」には該当しないため、登録者への金品の提供については景品規制は適用されない
インターネット上のショッピングサイトにおいて、無料の会員登録をした人を対象に、抽選により物品を提供する場合懸賞応募の条件として商取引のための無料の会員登録をすることを求めたとしても、商品・サービスの購入を条件としていなければ一般懸賞には該当しない
商品情報等を掲載した無料のメールマガジンの購読を申し込んだ人を対象に、抽選により物品を提供する場合メールマガジンの購読については、商品又は役務を購入したり店舗に来店せずに申し込むことが可能であり、また、無料であることから取引に付随するものではないと認められるため景品規制は適用されず、いわゆるオープン懸賞として実施することができる

まとめ

ここまで説明したとおり、景品類に関する法定ルールは非常に複雑です。まずは取引の相手方に提供する経済上の利益が「景品類」に該当するかどうかを見極め、該当する場合には限度額及び提供の方法についてどのような規制が設けられているのかをしっかりと確認するようにしてください。

規制の内容を知っていたか否かにかかわらず、景品表示法に違反する不当な表示や過大な景品類の提供が行われているなどの違反行為が認められた場合は、消費者庁により、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」がくだされるほか、課徴金の納付が命じられることがあります。

違反行為が直ちに逮捕につながるものではありませんが、公正なルールのもと、誰からも睨(にら)まれることのないよう心がけるようにましょう。

景品表示法違反被疑事件の調査の手順
出典元:消費者庁公式サイト

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