カジノ事業における施設土地権利者の認可申請について

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2018年に可決され成立した特定複合観光施設区域整備法(以下、IR実施法)では、カジノ施設を含む統合型リゾート施設(特定複合観光施設)に関して必要な事項を定めていますが、条文中では特定複合観光施設(以下、IR施設)の土地権利者についても触れられており、IR施設の土地権利者になろうとする者に対する規制が設けられています。

具体的には、特定複合観光施設区域の土地に関する所有権若しくは地上権その他使用及び収益を目的とする権利又はこれらの権利の取得を目的とする権利を有する者が行う一定の取引若しくは行為について、カジノ管理委員会の認可を受けることを義務付けています。

これはカジノ事業者に大きな影響を与えうる立場である施設土地権利者について、十分な社会的信用を担保させ、カジノ事業の適正な運営に資するために設けられた制度です。

そこで本稿では、IR実施法と関連法令の概要のうち、カジノ事業者の施設土地権利者に関する事項及び施設土地権利者が行うべき認可申請について、分かりやすく解説していきたいと思います。

施設土地権利者

施設土地権利者とは、特定複合観光施設区域の土地に関する所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利並びに賃借権で定める使用及び収益を目的とする権利又はこれらの権利の取得を目的とする権利を保有する者(国、地方公共団体及び認定設置運営事業者等を除く)をいいます。

特定複合観光施設

IR施設(=特定複合観光施設)とは、「integrated resort)」を略したもので、カジノ施設を目玉として、ホテル、レストラン、ショッピングモール、劇場、映画館、アミューズメントパーク、スポーツ施設、温泉といったレジャー施設のほか、国際会議場や展示施設といったさまざまな施設が一体となった統合型リゾート施設です。

IR実施法ではこれらの施設を以下のように区分して、カジノ施設と第1号から第5号までの施設で構成される一群の施設(これらと一体的に設置・運営される第6号施設を含む)をIR施設として定義しています。

カジノ施設カジノ行為区画主としてカジノ事業者がカジノ行為を顧客との間で行い、又は顧客相互間で行わせるための区画
本人確認区画カジノ事業者が本人確認をするための区画
その他の区画カジノ事業者がカジノ行為業務又は本人確認に係る業務に附帯する監視、警備その他の業務を行うための区画
1号施設国際会議の誘致を促進し、及びその開催の円滑化に資する国際会議場施設であって、政令で定める基準に適合するもの
2号施設国際的な規模の展示会、見本市その他の催しの開催の円滑化に資する展示施設、見本市場施設その他の催しを開催するための施設であって、政令で定める基準に適合するもの
3号施設我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演その他の活動を行うことにより、我が国の観光の魅力の増進に資する施設であって、政令で定めるもの
4号施設我が国における各地域の観光の魅力に関する情報を適切に提供し、併せて各地域への観光旅行に必要な運送、宿泊その他のサービスの手配を一元的に行うことにより、国内における観光旅行の促進に資する施設であって、政令で定める基準に適合するもの
5号施設利用者の需要の高度化及び多様化に対応した宿泊施設であって、政令で定める基準に適合するもの
6号施設1〜5号に掲げるもののほか、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設

特定複合観光施設区域

特定複合観光施設区域とは、認定を受けた区域整備計画に記載された区域であって、IR施設を設置する一団の土地の区域として、IR施設を設置・運営する民間事業者(施設供用事業が行われる場合には施設供用事業を行う民間事業者を含む)により一体的に管理される区域です。

IR実施法において規制対象となりうるのは、この特定複合観光施設区域の土地について所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利並びに賃借権で定める使用及び収益を目的とする権利又はこれらの権利の取得を目的とする権利を保有する者です。

施設土地権利者の認可

カジノ事業の免許に係る特定複合観光施設区域の施設土地に関して以下の取引又は行為(国、地方公共団体並びに特定複合観光施設区域に係るカジノ事業者及びカジノ施設供用事業者が施設土地に関する権利を取得する取引及び行為を除く)であって施設土地権利者の変更を伴うものをしようとする者(国等を除く)は、カジノ管理委員会の認可を受ける必要があります。

  • 施設土地に関する権利の移転をする取引若しくは行為
  • 施設土地に関する権利の設定をする取引若しくは行為
  • 施設土地権利者になる法人の設立
  • 施設土地権利者になろうとする法人を当事者とする合併で合併後も法人が存続するもの
  • 法人を当事者とする分割
  • 法人を当事者とする事業譲渡
  • 施設土地権利者による包括遺贈

認可を受けないでしたこれらの取引又は行為は効力を生じませんが、以下に該当する場合は例外となります。

  • 遺産の分割又は民法の規定による財産の分与に関する裁判若しくは調停によって施設土地に関する権利が移転され、又は設定される場合
  • 相続人に対する特定遺贈により施設土地に関する権利が取得される場合

なお、認定設置運営事業者がカジノ事業の免許を受けたときは、免許の申請書に記載された施設土地権利者は、その免許の時に認可を受けたものとみなされます。

また、認可に係る取引若しくは行為により認可施設土地権利者の認可主要株主等になった者は、遅滞なく、その旨をカジノ管理委員会に届け出るものとされています。

認可の申請

認可を受けようとする者は、以下の事項を記載した申請書をカジノ管理委員会に提出することにより申請を行います。

  • 申請者の氏名又は名称及び住所並びに申請者が法人であるときは代表者の氏名
  • 申請者が法人であるときは役員の氏名又は名称及び住所
  • 申請に係る認可を受けて法人が設立されるときは、法人の名称及び住所、代表者の氏名並びに役員の氏名又は名称及び住所
  • 申請に係る土地の所在及び面積
  • 申請に係る施設土地に関する権利の種別及び内容
  • 取引若しくは行為又は特定施設土地権利者である場合には特定施設土地権利者となった事由の内容
  • 申請に係る土地が申請に係る施設土地に関する権利以外の権利(登記事項証明書に記載されている権利を除く)の目的となっている場合における当該権利の種別及び内容並びに権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその者が法人であるときは代表者の氏名

認可申請に必要となる書類

  • 認可申請書
  • 欠格事由のいずれにも該当しない者であることを誓約する書面
  • 定款及び登記事項証明書(これらに準ずるものを含む)(法人)
  • 申請に係る認可を受けて法人が設立されるときは法人の定款(これに準ずるものを含む)
  • 土地の登記事項証明書
  • 理由書
  • 申請者が特定施設土地権利者であるときは、その旨及び事由の生じた年月日を証する書類
  • 申請者が特定施設土地権利者以外の者であるときは、申請に係る取引又は行為の内容を証する書面
  • 申請に係る施設土地に関する権利(登記事項証明書に記載されている権利を除く)を証する書面
  • 申請者とカジノ事業者、カジノ施設供用事業者、申請者以外の施設土地権利者又は申請に係る土地を目的とする施設土地に関する権利以外の権利を有する者との間で、申請に係る土地に関する契約(契約の予定を含む)がある場合には、その内容を示す書面
  • 申請者、役員及び法定代理人の戸籍謄本又はこれに準ずる書面(外国人にあっては、在留カード、特別永住者証明書、住民票、旅券その他の身分を証する書類の写し)
  • 申請者、役員及び法定代理人が質問票に必要な事項を記載したもの及びその記載内容を証する資料並びに同意書
  • 申請に係る取引又は行為が株主総会又は取締役会(これらに準ずる機関を含む)の決議を要するものである場合には、これに関する株主総会又は取締役会の議事録(これらに準ずる機関にあっては、必要な手続があったことを証する書面)(法人)
  • 創立総会の議事録(当該法人が株式移転、合併又は会社分割により設立される場合にあっては、これに関する株主総会の議事録)その他の当該法人の設立に必要な手続があったことを証する書面(申請者が申請に係る認可を受けて法人の設立をしようとする者であるとき)
  • その他審査に必要な資料

認可の基準

カジノ管理委員会は、認可の申請があったときは、①申請者、役員及び法定代理人が十分な社会的信用を有する者であること、及び②取引若しくは行為又及びその事由の内容がカジノ事業の健全な運営を図る見地から適当であると認められることを審査し、認可の可否を決定します。

なお、カジノ管理委員会は、認可を受けることなく施設土地権利者になった者若しくはカジノ事業者の主要株主等として設立された法人等に対し、施設土地権利者でなくなるよう、所要の措置を講ずべきことを命ずることができます。

欠格事由

認可の申請について、申請者が以下の事由に該当するとき、又は申請書若しくはその添付書類のうちに虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、施設土地権利者としての適正を欠く者として免許を受けることはできません。

  1. 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外国の法令上これと同様に取り扱われている者
  2. 認可主要株主等の認可を取り消され、認可施設土地権利者の認可を取り消され、指定試験機関の認可主要株主等の認可を取り消され、又はIR実施法に相当する外国の法令の規定により外国において受けているこれらの認可に相当する行政処分を取り消され、取消しの日から起算して5年を経過しない者
  3. 上記の認可の取消しに係る聴聞の期日及び場所が公示された日若しくはこれらに相当する行政処分の取消しの日前60日以内に認可若しくはこれに相当する行政処分を取り消された法人等の役員であった者又はこれらの行政処分に相当する行政処分の更新を拒否された法人等の役員であった者で、取消し又は更新の拒否の日から起算して5年を経過しないもの
  4. 解任を命ぜられ、又はIR実施法に相当する外国の法令の規定により解任を命ぜられた役員で、解任の日から起算して5年を経過しないもの
  5. 特定カジノ業務の従業者の確認を取り消され、特定カジノ施設供用業務の従業者の確認を取り消され、特定カジノ関連機器等製造業務等の従業者の確認を取り消され、特定試験業務の従業者の確認を取り消され、若しくはIR実施法に相当する外国の法令の規定により外国において受けているこれらの確認に相当する行政処分を取り消され、又はこれらの確認若しくはこれらに相当する行政処分の更新を拒否された場合における確認又はこれに相当する行政処分に係る従業者であって、取消し又は更新の拒否の日から起算して5年を経過しないもの(取消し又は更新の拒否について当該従業者の責めに帰すべき事由があるときに限る)
  6. 禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む)に処せられ、刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
  7. 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者
  8. IR実施法若しくはこれに相当する外国の法令の規定に違反し、又は刑法第185条若しくは第187条の罪、組織的犯罪処罰法第9条第1項から第3項まで、第10条、第11条若しくは第17条の罪、暴力団対策法第46条から第四十九条まで、第50条(第1号に係る部分に限る)若しくは第51条の罪、犯罪収益移転防止法第25条から第31条までの罪その他政令で定める罪を犯し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む)に処せられ、刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
  9. 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人のうちに上記のいずれかに該当する者がある者
  10. 法人であって、カジノ事業の免許を取り消され、カジノ施設供用事業の免許を取り消され、カジノ関連機器等製造業等の許可を取り消され、カジノ関連機器等外国製造業の認定を取り消され、指定試験機関の指定を取り消され、若しくはIR実施法に相当する外国の法令の規定により外国において受けているこれらの免許、許可、認定若しくは指定に相当する行政処分を取り消され、又はこれらの免許、許可、認定若しくは指定若しくはこれらに相当する行政処分の更新を拒否され、当該取消し又は更新の拒否の日から起算して5年を経過しない者
  11. 法人であって、2から4のいずれかに該当するもの
  12. 法人であって、IR実施法若しくはこれに相当する外国の法令の規定に違反し、又は組織的犯罪処罰法第17条の罪、犯罪収益移転防止法第31条の罪その他政令で定める罪を犯し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む)に処せられ、刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しないもの
  13. 法人の役員のうちに9に該当する者がある者

特定施設土地権利者

認可を受けるべき事由となる取引若しくは行為以外の事由により施設土地権利者になった者(特定施設土地権利者)は、その事由の生じた日から起算して60日を経過する日(猶予期限日)以内に特定施設土地権利者でなくなるよう、所要の措置を講ずる必要があります。ただし、猶予期限日後も引き続き施設土地に関する権利を保有することについてカジノ管理委員会の認可を受けたときを除きます。

特定施設土地権利者は、施設土地権利者でなくなったときは、遅滞なく、その旨をカジノ管理委員会に届け出るものとされています。

なお、カジノ管理委員会は、認可を受けることなく猶予期限日後も施設土地権利者である者に対し、施設土地権利者でなくなるよう、所要の措置を講ずべきことを命ずることができます。

変更の承認及び届出

法人である施設土地権利者は、その役員の変更をしようとするときは、カジノ管理委員会の承認を受ける必要があります。この際の承認の基準及び欠格事由については、施設土地権利者の認可申請と同一の要件が適用されます。

また、施設土地権利者が以下の軽微な変更に該当する変更をしたときは、遅滞なく、その旨をカジノ管理委員会に届け出るものとされています。

  • 氏名、住所若しくは本籍(外国人にあっては国籍等)
  • 法人の名称又は住所
  • 法人の役員の氏名若しくは名称又は住所若しくは本籍(外国人にあっては国籍等)
  • 法定代理人
  • 法人の代表者又は管理人(役員の変更を伴わないものに限る)
  • 法定代理人の氏名若しくは名称又は住所若しくは本籍(外国人にあっては国籍等)
  • 定款(これに準ずるものを含む)
  • 法定代理人の定款(これに準ずるものを含む)(法定代理人が法人である場合)

認可の取消し及び失効

カジノ管理委員会は、施設土地権利者について、以下のいずれかの事実が判明したときは、その認可を取り消すことができます。

  • 偽りその他不正の手段により認可又は承認を受けたこと
  • 基準に適合していないこと
  • 欠格事由のいずれかに該当していること

また、①施設土地権利者がでなくなったとき、又は②認可を受けた日から起算して6か月以内に認可があった事項が実行されなかったとき(やむを得ない理由がある場合において、あらかじめカジノ管理委員会の承認があったときを除く)は、認可はその効力を失うものとされています。

施設土地権利者でなくなったこと(①)により認可が失効したときは、認可に係る施設土地権利者であった者は、遅滞なく、その旨をカジノ管理委員会に届け出るものとされています。

まとめ

IR施設の施設土地権利者の認可に関する規制は、事業に関与しようとする者について、社会的信用性を確保するための制度です。銀行法においても採用されている制度であることから、カジノ事業に参入することがいかに高いハードルであるかがお分かりいただけるように思います。

カジノに関しては、新しいレジャーとして期待する声や、財政面の改善に資する事業として期待する声が寄せられる一方で、治安の悪化や青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすリスクを懸念して反発する意見も根強く、これら双方の意見を制度に反映したことがこの制度を複雑にしている要因であることは間違いありません。

また、カジノという従来の日本には存在しなかった制度であるため、国や自治体もまずはハードルを上げて、試行錯誤を繰り返しながら制度の舵取りを行っていくものと予測します。

いずれにせよ法制化された以上、制度は動き始めています。行政書士として、一国民として、制度が適切に運用され、日本全体の利益につながるよう見守るように心がけたいと思います。

弊所は従前よりレジャー系やアミューズメント系の許認可に関する手続きのサポートを十八番にしています。カジノ関連事業のサポートと手続きに関するご相談はどうぞお気軽にご用命代ください。

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