ISOとは│国際標準化機構と国際規格に関する基礎知識
ビジネスシーンにおいて時折耳にする「ISO」ですが、ISOとはスイスのジュネーブに本部を置く「国際標準化機構」(International Organization for Standardization)を指す略称であり、国際的に通用する規格を制定するために活動する非政府機関のことをいいます。
要するに「世界中のどこにいても同じ品質の製品や同じレベルのサービスを提供できるようにしましょう」という国際的な活動を行っているのがISOであり、この理念に則ってISOが制定した規格こそがISO規格です。
近年は日本においても随分と浸透してきたように思われるISOですが、その実践や運用ともなると、何だか複雑そうでなかなか手を出しづらいといった印象があるのではないかと思います。
そこで本稿では、あまり難しいことは抜きにして、ISOとISO規格の全体像について、できる限り分かりやすく解説していきたいと思います。
目 次
ISO規格
共通で利用するツールの必要性を理解する上では、「言語」を例に取るのが一番分かりやすいのではないかと思います。人間が社会を形成する上で、まず対象となるモノを同じモノとして認識することができなければコミュニケーションは進みません。たとえば上の「リンゴ」は「リンゴ」として皆が認識しているからこそ取引の対象となりますし、安心して口にすることができます。
恥ずかしながら外国語が得意ではない筆者が、海外の方に話しかけられただけで少しドギマギしてしまうのも、その方の話す言語を共通するツールとして理解できていないことによるものでしょう。
ISOが提唱する「国際標準化規格」とは、この状態を是正し、地域や言語を越えた国際的な基準を明確にするために制定するツールであるといえます。
ISO規格の種類
ISO規格の身近な例としては、上の非常口マーク(ISO7010)やネジ(ISO68)といったものがあります。上添の非常口マークがこのような見た目で統一されているからこそ海外からの観光客であっても「非常口はこっちか!」と認識することができますし、世界中どこでも同じネジを使用することができるわけです。そしてこれらは製品そのものを規格の対象とする「モノ規格」の代表例です。
他方、製品そのものではなく、システムやサービスといった「概念」を規格化したものが「マネジメントシステム規格」です。こちらには品質マネジメントシステム(ISO9001)や環境マネジメントシステム(ISO14001)といった規格が該当します。前者は組織の品質活動を、後者は環境活動を管理するためのシステムをISOが評価する取り組みです。
マネジメントシステムについて
マネジメントシステムを分かりやすく表現すると、「適切な組織運営の仕組み作り」と捉えることができます。ヒトを動かすためにはまずルールを制定する必要がありますが、このルールに基づいて運営を行っていく手順、そしてこれらを運用するための権限と責任の在り方を一括して管理する体系が「マネジメントシステム」と呼ばれるものです。ISOの「マネジメントシステム規格」は正にこういった組織の「仕組み作り」に関する国際的な基準を示したものです。
マネジメントシステム規格の種類
ISO規格にはさまざまな種類がありますが、おもなものを以下に記載しています。最も有名なのがISO9001といわれる規格ですが、このISO9001をベースにして各業界でより実践的に使用できるよう整理されたものをセクター規格と呼んでいます。
ISO 9001 | 品質マネジメントシステム規格 | 顧客満足度の向上を目的に、良質な製品やサービスを提供できるよう、継続的な改善を図るためのマネジメントシステム規格 |
ISO 14001 | 環境マネジメントシステム規格 | 組織活動が環境に与える負荷を軽減することで、サステナビリティに貢献するためのマネジメントシステム規格 |
ISO 22000 | 食品安全マネジメントシステム規格 | 安心して食べられる食品を提供するため、食品業界に特化した要求事項となっているマネジメントシステム規格 |
ISO 27001 | 情報セキュリティマネジメントシステム規格 | 情報の管理や保守に関するマネジメント規格 |
ISO 45001 | 労働安全衛生マネジメントシステム規格 | 労働者の安全を守ることを目的としたマネジメントシステムに対する規格 |
ISO 13485 | 医療機器の品質マネジメントシステム規格 | 人命や健康維持に関わる、医療機器の品質管理に対する規格 |
ISO認証制度
ISO規格にはそれぞれ「要求事項」と呼ばれる基準が定められています。ISOの認証を受けるためにはまずはこの基準をすべてクリアした上で申請し、認証機関の審査を受ける必要があります。そして基準を満たしていることが確認されると、認証機関から申請者に対して認証証明書が交付され、一般にも公開されることなります。
なお、諸外国にも同様の認定制度があり、各国の認定機関が相互承認(IAF国際相互承認)を行っているため、IAFに加盟している認定機関から認定を受けた認証については、国内外を問わず効果を有します。
ここではさらっと記載していますが、認証基準には相当高いハードルが設けられているため、簡単に取得することができるものではないという点については、しっかりと認識するようにしてください。
認証のメリット
- 社会的信頼性の向上
- 課題と目標達成の明確化
- 責任と権限の明確化
社会的信頼性の向上
認証機関という国際的な権威のある第三者機関から認証を得たという事実は、内外に対する社会的信頼を著しく向上させることにつながります。企業のブランディングは今や経営手法のスタンダードですから、ISO認証の取得は競合他社から一歩リードすることができる大きな材料となります。
課題と目標達成の明確化
審査過程では課題が明確化されるため、課題に対応する目標も設定しやすくなります。また、認証を維持するためには毎年審査を受け続ける必要があるので、常に品質を維持向上させるというモチベーションを持ち続けることにつながります。副次的には組織全体の緊張感を高める効果も期待できます。
責任と権限の明確化
審査過程では権限と責任を明確化することが求められるため、各部門では責任者や担当者が自身の役割をしっかり認識できるようになります。また、責任主体が明確であることから、問題が発生した際にもスムーズに解決へと導けるようになります。
認証のデメリット
- コストの増大
- 効果をすぐに体感できない
- 管理維持が大変
コストの増大
ISOの認証審査には毎年費用が発生します。また、常にマニュアルや資料を作成して保管する必要があり、場合によっては専門のセクションを増設しなければならないケースもあるため、労働のコストや時間的なコストも増大することになります。
効果をすぐに体感できない
信用やブランド力は長い期間の中で形成されていくものであるため、ISO認証取得による即効的な効果はあまり感じられないように思われます。また、業務の標準化は有能な労働力のパフォーマンスを低下させるリスクもあるので、この点において導入期にはかえってモチベーションの低下を招くことも考えられます。
維持管理が大変
認証を維持するためには毎年審査を受け続ける必要があるのはすでにお伝えしたとおりです。常にマニュアルや資料を最新のものに更新しつつ、定められた図書については定められた期間保管し続ける必要もあります。これらは本業を圧迫するリスクともなりうるためデメリットといえるでしょう。
まとめ
本稿ではあくまでもISO規格の触りの部分に触れたに過ぎません。本来はそれぞれの規格でさらに細かい基準が設けられています。このため、ISO規格への認証を検討する際は、メリットデメリットをしっかりと意識した上で相当な覚悟をもって取り組むように心がけましょう。