小売電気事業者とインバランス制度について

需要と供給のバランス

一般には耳慣れない言葉ですが、電気事業に関心がある方であれば、「インバランス制度」という言葉を見聞きした覚えがあるのではないかと思います。

インバランス(imbalance)とは、本来「不安定」や「不均衡」を意味する単語であり、電気事業ではこれを「電力の需要量(使用される電力量)と供給量の差分」を指す言葉として使用しています。インバランス料金とは、この差分として発生した料金をいいます。

一般的には分かりにくい制度であるため、本稿ではインバランス制度の概要と、インバランスに起因する電気事業への影響などについて、詳しく解説していきたいと思います。

インバランス料金

電力は国民の重要なインフラであり、需要量と供給量のバランスが崩れてしまうと、品質(周波数)を維持することができず、結果として多くの国民に対する電力供給に支障をきたす恐れがあります。このため電力には、そもそも需要量と供給量とは同量でなければならないという大前提があります。

他方、計画に対し、実績との間にズレが生ずることはある程度仕方ないことではありますが、電気事業の場合、それすらも当初から計画に組み入れて不測の事態に備える必要があります。(計画値同時同量制度)

インバランス制度では、計画と実績との間に発生した需要と供給の差分について、一般送配電事業者が不足分を補填し又は余剰分を買い取ることで調整を行い、その調整コストをインバランス料金として算出して清算します。

需要(発電)計画小売電気事業者等が、あらかじめ一般送配電事業者に提出する、電力の需要量や発電量を想定した計画値
需要(発電)実績実際に対象地点で使用・発電された需要量や発電量の実績

あらかじめインバランスの予測を立てることにより、資金調達を含む事業計画の策定をスムーズに進行させることにつながります。

インバランスリスク

需要(発電)計画と需要(発電)実績との間に差がなければインバランス料金は発生しませんが、電気の需要量を正確に予測することは難しく、発電量(太陽光発電等の再生可能エネルギー)についても天候等の諸条件に影響を受けることから、差分の発生を完全に回避することは困難です。

また、インバランス料金は電力市場における電力価格をベースに算出するため、電力市場における電力価格が高騰すれば、それに伴いインバランス料金も増大する可能性があります。加えてインバランス料金は、電力の不足又は余剰を判定する料金算定期間の経過後に決定し請求されるため、期間的なズレが伴うことも特長です。

インバランスリスクとは、事前に想定して準備していたインバランス料金と、実際に請求されたインバランス料金との間にズレが生ずることにより発生する事業の安定性を脅かすリスクのことを言います。

日本卸電力取引所(JEPX)

日本卸電力取引所(JEPX:外部サイト)とは、加入者間における電力の現物取引及び先渡取引等を仲介する取引所のことです。小売電気事業の自由化によって発電、送電、小売の3事業が独立した事業となったため、相対契約あるいは自己保有の電源を補完するための手段として、事業者の供給量と需要量の季節ごと時間ごとに起こる電力の過不足分を市場で販売・調達できるシステムとなっています。(加入は任意)

日本卸電力取引所は、計画と実績の差分を電力の売買により調整する機能も有しますが、インバランス料金は、日本卸電力取引所の「スポット市場」と「1時間前市場」の「加重平均値」から多大な影響を受けます。

スポット市場(一日前市場)翌日の24時間分を取引する市場24時間を30分単位に区切った48商品の取引
1時間前市場(当日市場)毎日17時から翌日の取引を行う市場(各商品について受渡しの1時間前まで取引可能)24時間を30分単位に区切った48商品の取引(商品(30分)ごとの取引)
★加重平均値

加重平均値とは、一般的な平均を求める方法では値が偏ってしまう場合に、数値の重みを考慮した算出方法により得られる平均値を言います。

インバランス料金の計算方法

インバランス料金の単価は、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則(第27条)に基づき、日本卸電力取引所の市場価格に連動し、「不足インバランス料金(計画に対する実績の不足分を一般送配電事業者が補填した費用)」と余剰インバランス料金(計画に対する実績の余剰分を一般送配電事業者が買取りした費用)の別に、30分ごとで以下の算定式により決まります。

不足インバランス料金計画に対する実績の不足分を一般送配電事業者が補填した費用スポット市場と1時間前市場の加重平均値×α+β+K
余剰インバランス料金計画に対する実績の余剰分を一般送配電事業者が買取りした費用スポット市場と1時間前市場の加重平均値×α+β-L
α:系統全体の需給状況に応じた調整項
β:地域ごとの市場価格差を反映する調整項
K・L:インセンティブ定数(経済産業大臣が定める)

電力・ガス取引監視等委員会の「2022年度以降のインバランス料金制度について(中間とりまとめ)(PDF:868KB)」では、電力の実需要に応じたインバランス料金を設定しようとする動きとして、インバランス料金について、発生させた差分に対して「合理的な価格で精算させる」との方針を打ち出しています。

例えば、電力不足が深刻な場面で「計画よりも少ない電力しか供給できなかった」場合の責任は通常より重いといえます。そのため、そのようなケースではインバランス料金が上がる補正をかけるとしています。

今後もインバランス制度は、イレギュラーな事態が発生した場合に特別な対応がなされたり、改善のための改正が定期的に行われると推測されるため、常にその動向に注視することを求められています。

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