建設業許可取得後の義務について

建設業許可の取得後にその許可を維持するためには、許可要件を維持し続けることはもちろんのこと、許可未取得の業者にはない5つの義務を遵守する義務があります。
課された義務に違反した場合には、行政指導、営業停止、許可取消等の行政処分の対象となるばかりか、場合によっては逮捕され、刑罰の対象となることもありえます。そしてこれはある意味で許可を取得することよりも大変なことかもしれません。
そこで本稿では、建設業許可の取得後に遵守すべき建設業差者の義務について詳しく解説していきたいと思います。
目 次 [非表示]
許可業者の義務
建設業許可の取得後、許可業者となった事業者には、個人であるか法人であるかを問わず、以下の5つの義務が課されます。
- 変更の届出義務
- 標識の掲示、帳簿の備付・保存及び営業に関する図書の保存義務
- 契約締結に関する義務
- 工事現場における施行体制に関する義務
- 下請代金の支払いに関する義務
変更の届出義務
建設業許可申請の際に届け出た内容について変更があれば、一定の期間内にその事実を証明する書類を添付して変更の届出を行う必要があります。
届出を必要とする事項ごとに届け出るべき時期が定められており(下表)、変更届の提出を怠ると、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という重い刑罰を科されることがあるほか、許可の取消事由ともなります。
変更後30日以内に届け出る事項 | 商号 営業所に関する事項 資本金の額 役員に関する事項 支配人に関する事項 |
変更後2週間以内に届け出る事項 | 経営業務の管理責任者に関する事項 専任技術者に関する事項 使用人に関する事項 |
事業年度終了後4ヶ月以内に届け出る事項 | 監理技術者に関する事項 |
決算変更届について
この他にも、毎年事業年度終了後4ヶ月以内には、決算報告書とは異なる様式により決算内容を報告する決算変更届を提出する必要があります。
標識の掲示
許可業者は、営業所と元請として請け負った各工事現場ごとに、公衆の見えやすい場所に、許可を受けた業種について標識(俗にいう「金看板」)を掲げる必要があります。
帳簿の備付・保存
許可業者は、請負契約の内容を適切に処理した帳簿を各営業所ごとに備え付け、添付書類とともに、5年間(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係る帳簿については10年間)保存する必要があります。
なお、「営業所ごとに」とされているため、一括して本社や本店に備え付けることはできません。
営業に関する図書の保存義務
建設業の元請業者は、営業所ごとに、その営業に関する図書を、工事の目的物を引き渡したときから10年間保存する必要があります。
完成図 | 建設業者が作成した場合または発注者から受領した場合には保存が義務付けられる |
工事内容に関する打ち合わせ記録 | 相互に交付したものに限り保存が義務付けられる |
契約締結に関する義務
請負契約の締結に関しては、着工前書面契約の徹底及び契約書面への記載必須事項の規定等の義務があります。
また、許可業者として取引上において下請業者に優越する地位を不当に利用して工事原価に満たない価格で工事契約の締結を強制する行為や、契約後にその工事に使用する資材や機械器具の購入先を指定して請負人の利益を害する行為は禁止されています。
工事現場における施行体制
建設業許可業者が工事を施工する際は、工事現場ごとに、必ず主任技術者を配置する必要があります。
また、一括して工事を請け負わせる「丸投げ」も、逆に一括して工事を請け負う「丸受け」も、ともに禁止されています。
下請代金の支払い
元請業者が発注者から出来高払い又は竣工払いを受けたときは、支払いの対象となった工事を施工した下請負人に対して、相当する下請代金を1ヶ月以内に支払う必要があります。
特定建設業者に関する義務
特定建設業許可業者は、前記した内容の義務に加え、監理技術者の配置、施工体制台帳の作成及び下請業者に対する指導の義務が課されます。
監理技術者の配置義務
特定建設業者が元請として、4000万円(建築一式工事の場合は6000万円)以上の工事を下請業者に委託する場合は、主任技術者に代えて監理技術者を配置する必要があります。
施工体制台帳の作成
特定建設業許可業者が元請として4000万円(建築一式工事については6000万円)以上を下請業者に委託するときは、下請など工事に関わる全ての業者名、各工事の内容及び工期等を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え付ける必要があります。
下請業者に対する指導
特定建設業者は、工事に関係する全ての下請業者に対して法令遵守指導を実施する必要があります。仮に下請業者が法令に違反した場合には、これを是正するよう指導し、指導後もなお是正がされないときは、許可行政庁に対し、その事実を通報する義務を負います。
下請代金の支払期日に関する特例
特定建設業者は、下請業者(特定建設業者又は資本金額が4000万円以上の法人を除く)に対し、下請に係る代金を、「下請業者からの引渡申出日から50日以内」又は「発注者から支払いを受けた日から1ヶ月以内」のうち、いずれか早いタイミングで支払う必要があります。
なお、特定建設業者が一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形(手形サイトが120日を超える手形等)により下請代金を支払うことは禁止されています。
また、上記の期間内に支払いを完了できない場合は、未払い金額に対して利息(14.6%)を支払う義務も生じます。
まとめ
許可業者として金看板を掲げて大規模な工事も請け負うことが出来るようになり、下請業者との関係性においても強者となる場面も増えてくる以上、その規模に見合うだけの責任が生じるのは必然の流れです。
義務違反が直ちに逮捕や刑罰の対象となるわけではありませんが、行政処分を受けた事実は公表されるため、これによる社会的信用の失墜は免れることが出来ません。
建設業許可の取得は、ゴールではなくスタートラインに過ぎません。今後も許可要件と義務を遵守し、金看板に傷を付けることなく、ますますご活躍されることを祈念して本稿を結びたいと思います。