特定複合観光施設(IR施設)開業までのプロセスについて
2018年に可決され成立した特定複合観光施設区域整備法(以下、IR実施法)では、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資することを目的として、カジノを含む統合型リゾート施設(特定複合観光施設)に関して必要な事項を定めています。
また、2023年4月にはかねてから申請していた大阪府、大阪市及び大阪IR株式会社による「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」が国土交通大臣からの認定を受けました。
一般層にはまるで遠い外国での出来事であるかのように捉えられ、現状としてあまり認知が浸透していない特定複合観光施設(以下、IR施設)ですが、このように計画は着々と進行しています。
そこで本稿では、IR実施法と関連法令の概要のうち、IR施設開業までに必要となるプロセスについて、民間事業者としての視点を中心に出来る限り詳しく解説していきたいと思います。
目 次
特定複合観光施設
IR施設(=特定複合観光施設)とは、「integrated resort)」を略したもので、カジノ施設を目玉として、ホテル、レストラン、ショッピングモール、劇場、映画館、アミューズメントパーク、スポーツ施設、温泉といったレジャー施設のほか、国際会議場や展示施設といったさまざまな施設が一体となった統合型リゾート施設です。
IR実施法ではこれらの施設を以下のように区分して、カジノ施設と第1号から第5号までの施設で構成される一群の施設(これらと一体的に設置・運営される第6号施設を含む)をIR施設として定義しています。
カジノ施設 | カジノ行為区画 | 主としてカジノ事業者がカジノ行為を顧客との間で行い、又は顧客相互間で行わせるための区画 |
本人確認区画 | カジノ事業者が本人確認をするための区画 | |
その他の区画 | カジノ事業者がカジノ行為業務又は本人確認に係る業務に附帯する監視、警備その他の業務を行うための区画 | |
1号施設 | 国際会議の誘致を促進し、及びその開催の円滑化に資する国際会議場施設であって、政令で定める基準に適合するもの | |
2号施設 | 国際的な規模の展示会、見本市その他の催しの開催の円滑化に資する展示施設、見本市場施設その他の催しを開催するための施設であって、政令で定める基準に適合するもの | |
3号施設 | 我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演その他の活動を行うことにより、我が国の観光の魅力の増進に資する施設であって、政令で定めるもの | |
4号施設 | 我が国における各地域の観光の魅力に関する情報を適切に提供し、併せて各地域への観光旅行に必要な運送、宿泊その他のサービスの手配を一元的に行うことにより、国内における観光旅行の促進に資する施設であって、政令で定める基準に適合するもの | |
5号施設 | 利用者の需要の高度化及び多様化に対応した宿泊施設であって、政令で定める基準に適合するもの | |
6号施設 | 1〜5号に掲げるもののほか、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設 |
特定複合観光施設区域
特定複合観光施設区域とは、認定を受けた区域整備計画(後述)に記載された区域であって、IR施設を設置する一団の土地の区域として、IR施設を設置・運営する民間事業者(施設供用事業が行われる場合には施設供用事業を行う民間事業者を含む)により一体的に管理される区域です。
設置運営事業・施設供用事業
設置運営事業とは、IR施設を設置・運営する事業(1号事業)又はこれに附帯する事業(2号事業)を指し、施設供用事業とは、一群の施設の整備(新設、改修又は増設)を一体的に行う業務、IR施設をその用途に応じて管理し設置運営事業者に専ら使用させる業務及びこれらに附帯する業務を行う事業を指します。
設置運営事業 | 1号事業 | 特定複合観光施設を設置・運営する事業 |
2号事業 | 1号事業に附帯する事業 | |
施設供用事業 | 特定複合観光施設を構成する一群の施設の整備(新設、改修又は増設)を一体的に行う業務 | |
設置運営事業者との契約に基づき特定複合観光施設をその用途に応じて管理し及び設置運営事業者に専ら使用させる業務 | ||
上記施設供用事業に附帯する業務 |
カジノ事業者
カジノ行為とは、カジノ事業者と顧客との間又は顧客相互間で、同一の施設において、その場所に設置された機器又は用具を用いて、偶然の事情により金銭の得喪を争う行為であって、海外において行われているこれに相当する行為の実施の状況を勘案して、カジノ事業の健全な運営に対する国民の信頼を確保し、及びその理解を得る観点から我が国においても行われることが社会通念上相当と認められるものとしてその種類及び方法をカジノ管理委員会規則で定めるものをいう。
(IR実施法第2条第7項)
上記がIR実施法において「カジノ行為」を定義する条文です。法律らしいまどろっこしい文章ですが、カジノ管理委員会規則では、具体的に以下の行為をカジノ行為として定義しています。
バカラ | ディーラーによりプレイヤー側とバンカー側に配布されたトランプの点数を合計した点数の下一桁の数字について、いずれかの側が大きいこと又は双方の側が同じであることを予想して賭けることを基本とするもの |
トゥエンティワン | ディーラーにより顧客に配布されたトランプの点数を合計した点数が、21点を超えない範囲で、ディーラーに配布されたトランプの点数を合計した点数よりも大きいことに対して賭けることを基本とするものであって、ブラックジャック、ブラックジャックスイッチ又はポンツーンの方法により行うもの |
ポーカー | ディーラーにより顧客、ディーラーその他の対象又はテーブルに配布されたトランプの組合せについて、手役の強さによって賭けの勝敗を決定することを基本とするものであって、カリビアンスタッドポーカー、スリーカードポーカー、テキサスホールデムボーナス、ミシシッピスタッドポーカー、レットイットライド、オマハポーカー、テキサスホールデムポーカー又はポーカートーナメントの方法により行うもの |
カジノウォー | ディーラーにより顧客に配布された1枚のトランプが、ディーラーに配布された1枚のトランプより強いことに対して賭けることを基本とするもの |
クラップス | 転がした2個のさいころの出目の合計が、それより前に転がされた2個のさいころの出目の合計と一致すること又は7となることを予想して賭けることを基本とするもの |
シックボー | 転がした3個のさいころの出目又はその合計若しくは組合せを予想して賭けるもの |
ルーレット | ルーレットホイールのシリンダーにあるボールポケットのうちルーレットボールが収まるものに対応する数字を予想して賭けるものであって、シングルゼロルーレット又はダブルゼロルーレットの方法により行うもの |
マネーホイール | マネーホイール用ホイールの回転する円盤にあるシンボル(※)が表示された区画のうちクラッパー(※)が示すシンボルが表示された区画に対応するシンボルを予想して賭けるもの |
パイゴウ | ディーラーにより顧客に配布された4枚のパイゴウタイルを2枚ずつ2組に分けて形成した強い側の2枚の組合せ及び弱い側の2枚の組合せが、ディーラーに配布された4枚のパイゴウタイルを2枚ずつ2組に分けて形成した強い側の2枚の組合せ及び弱い側の二枚の組合せよりもそれぞれ強いことに対して賭けることを基本とするもの |
電子ゲーム | 乱数発生装置により発生した乱数を用いて賭けの勝敗を決定するもの(上記の種類のカジノ行為の方法に従って行うものを除く) |
※クラッパーとは、マネーホイール用ホイールの上部に固定され、円盤の回転を止めるとともに、当たりのシンボルを示すものをいう。
カジノ事業者とは、区域整備計画の認定を受けた設置運営事業者であって、免許を受けて以下のカジノ業務を行う事業(カジノ事業)を行うものをいいます。
1号業務 | カジノ行為業務 | カジノ施設におけるカジノ行為を顧客との間で行い、又は顧客相互間で行わせることに係る業務 | |
2号業務 | 特定金融業務 | カジノ行為を行う顧客の依頼を受けて当該顧客の金銭について行う以下の業務 | |
特定資金移動業務 | 銀行その他のカジノ管理委員会規則で定める金融機関を介し、カジノ事業者の管理する当該顧客の口座と当該顧客の指定する預貯金口座との間で当該顧客の金銭の移動に係る為替取引を行う業務 | ||
特定資金受入業務 | 当該顧客の金銭を受け入れる業務 | ||
特定資金貸付業務 | 顧客に金銭を貸し付ける業務 | ||
両替業務 | 金銭の両替を行う業務 | ||
3号業務 | 附帯業務 | 1号2号業務に附帯する業務 |
IR施設開業までのプロセス
IR施設の設置・運営は、都道府県又は政令指定都市と民間事業者とが一体となって実施するものとされていることから、IR施設の設置区域を整備しようとする都道府県又は政令指定都市がIR施設について整備の実施方針を定めていることがIR施設を開業するための大前提となっています。
つまりIR施設の設置・運営は、任意の民間事業者が単独で許認可を申請することのできる事業ではありません。
なお、2023年5月時点において実施方針を定めているのは、大阪府、大阪市及び長崎県の3自治体となっています。
民間事業者の選定
実施方針を定めた都道府県又は政令指定都市は、IR施設の整備に関わる民間事業者を公募により選定します。すでに実施方針を定めている大阪府、大阪市及び長崎県では、いずれの都市も民間事業者を選定済みです。
区域整備計画の認定
都道府県又は政令指定都市は、選定した民間事業者と共同してIR施設の区域整備計画を作成し、国土交通大臣に対して認定の申請を行います。
国土交通大臣はこの申請に基づき審査を行い、区域整備計画が後述する基準に適合していると判断した場合に限り、区域整備計画の認定を行います。
大阪府、大阪市及び長崎県では、いずれも区域整備計画の認定を申請済みで、このうち大阪府及び大阪市において区域整備計画が認定されています。
実施協定の締結
都道府県又は政令指定都市と民間事業者は、認定の後速やかに、設置運営事業等の具体的な実施体制及び実施方法に関する事項等をその内容に含む協定(実施協定)を締結し、国土交通大臣の認可を受ける必要があります。
着工・竣工・開業
実施協定が国土交通大臣から認可された後は、区域整備計画及び実施協定に従って、IR施設の着工を進めます。同時にカジノ事業の免許申請を行い、開業までにカジノ管理委員会の免許を受ける必要があります。
区域整備計画
都道府県又は政令指定都市と民間事業者は、以下のルールに則り区域整備計画を作成する必要があります。
- 区域整備計画のうち事業基本計画は、設置運営事業等を行おうとする民間事業者が作成する案に基づいて作成すること
- 協議会が組織されている場合には協議会における協議を、協議会が組織されていない場合には立地市町村等及び公安委員会との協議を行うこと
- 公安委員会が実施する施策及び措置に係る事項については公安委員会、立地市町村等が実施する施策及び措置に係る事項については立地市町村等から、あらかじめ同意を得ること
- 公聴会の開催その他の住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずること
- 認可の申請をしようとするときはその議会の議決を経ること
- 都道府県か認可の申請をしようとするときは、あらかじめ特定複合観光施設区域を整備しようとする区域をその区域に含む市町村及び特別区の同意を得ること
認定の基準
国土交通大臣は、認定の申請があった場合において、その区域整備計画が以下の基準に適合すると認めるときは、関係行政機関の長に協議し、これらの同意を得るとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部の意見を聴取した上でその認定をすることができるものとされています。
認定は国土交通大臣の裁量に委ねられているため、この基準を満たしていたとしても認定を拒否することができるものと解されます。
また、国土交通大臣は、特定複合観光施設区域の適正な整備を確保するため必要があると認めるときは、認定に条件を付し、及びこれを変更することができます。
- 基本方針に適合するものであること
- 国内外の主要都市との交通の利便性その他の経済的社会的条件からみて、特定複合観光施設区域の整備を推進することが適切と認められる地域であること
- 事業基本計画が基準に適合するものであること
- その他特定複合観光施設区域の整備の推進に関する施策及び措置が適切に実施されると認められるものであること
- 国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現を図ることにより、観光及び地域経済の振興に寄与すると認められるものであること
- カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策及び措置が実施されると認められるものであること
- その認定をすることによって、認定区域整備計画の数が3を超えることとならないこと
認定区域整備計画の数が3を超えることとならないことが認定の基準となっているため、すでに認定を受けている大阪府、大阪市及び大阪IR株式会社による「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」のほか、認定を受けることができる計画はあと2枠ということになります。
事業基本計画の基準
区域整備計画のうち、事業基本計画については以下の基準を満たすものであることが必要とされています。
- カジノ事業の収益が設置運営事業の実施に活用されることにより、設置運営事業が一の設置運営事業者により一体的かつ継続的に行われると認められるものであること
- 施設供用事業が行われる場合には、設置運営事業等が設置運営事業者と施設供用事業者との適切な責任分担及び相互の緊密な連携により行われると認められるものであること
- 設置運営事業者等が会社法に規定する会社であって、専ら設置運営事業(施設供用事業者にあっては、施設供用事業)を行うものとされていること
- 設置運営事業者が特定複合観光施設を所有するものとされていること(施設供用事業が行われる場合には、施設供用事業者が所有する特定複合観光施設を設置運営事業者が使用するものとされていること)
- 設置運営事業者等がカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な措置を講ずると認められるものであること
- 設置運営事業等が円滑かつ確実に行われると見込まれること
カジノ事業の免許
区域整備計画の認定を受けて認定設置運営事業者となった民間事業者は、が申請書及び必要書類をカジノ管理委員会に提出することによりカジノ事業の免許申請を行います。
免許を受けた認定設置運営事業者にはカジノ管理委員会から免許状が交付され、免許に係るカジノ施設において、免許に係る種類及び方法のカジノ行為に係るカジノ事業を行うことができるようになります。
この場合において、免許に係るカジノ行為区画で行うカジノ行為については、刑法上の賭博罪及び常習賭博罪の規定は適用されません。
つまりカジノ事業者としてカジノ事業を実施するためには、①区域整備計画の認定、②実施計画の認可、③カジノ事業の免許、という3つの許認可を取得する必要があります。
免許の基準
カジノ事業の免許の申請があったときは、申請が以下の基準に適合するかどうかについて審査が行われます。
- 申請者が、人的構成に照らして、カジノ事業を的確に遂行することができる能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有する者であること
- 申請者の役員が十分な社会的信用を有する者であること
- 出資、融資、取引その他の関係を通じて申請者の事業活動に支配的な影響力を有する者が十分な社会的信用を有する者であること
- 申請者の主要株主等及び主要株主等が法人等である場合の役員が十分な社会的信用を有する者であること
- 申請に係る特定複合観光施設区域の施設土地権利者及び施設土地権利者が法人である場合の役員が十分な社会的信用を有する者であること
- 申請者がカジノ事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有し、かつ、カジノ事業に係る収支の見込みが良好であること
- 申請認定区域整備計画に記載された特定複合観光施設区域におけるカジノ施設の数が一を超えず、かつ、カジノ施設のカジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供される部分の床面積の合計が特定複合観光施設の床面積の合計の100分の3の面積を超えないこと
- カジノ施設の構造及び設備がカジノ管理委員会規則で定める技術上の基準に適合すること
- 使用しようとする電磁的カジノ関連機器等が、検定に合格した型式の電磁的カジノ関連機器等であること
- 使用しようとする非電磁的カジノ関連機器等が、表示が付され、かつ、技術上の基準に適合すること
- 定款及び業務方法書の規定が、法令に適合し、かつ、カジノ事業を適正に遂行するために十分なものであること
- カジノ施設利用約款が、法令に適合し、かつ、基準に適合するものであること
- 依存防止規程が、法令に適合し、かつ、カジノ行為に対する依存を防止するために十分なものであること
- 犯罪収益移転防止規程が、法令に適合し、かつ、カジノ事業における犯罪による収益の移転防止のために十分なものであること
- カジノ行為区画内関連業務を行おうとするときは、カジノ行為区画内関連業務がカジノ事業の健全な運営に支障を及ぼすおそれがないものであること
カジノ管理委員会は、基準に照らし必要があると認めるときは、カジノ事業の免許に条件を付し、及びこれを変更することができるものとされています。また、申請に係る特定複合観光施設について認定施設供用事業者がある場合には、特定複合観光施設に係る免許が付与されるときでなければ免許は付与されません。
欠格事由
免許の申請について、上記の基準を満たしている場合であっても、関係者が一定のネガティブな事由(免許等の取消処分を受けた日から5年を経過しない者であるなど)に該当するとき、又は申請書若しくはその添付書類のうちに虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、カジノ事業を行う者としての適正を欠く者として免許を受けることはできません。
免許の有効期間
免許の有効期間は、免許の日から起算して3年とされており、有効期間の満了後引き続きカジノ事業を行おうとするカジノ事業者は、原則として有効期間の満了の日の6か月前までの間に、カジノ管理委員会に申請し、免許の更新を受ける必要があります。
完成検査
カジノ事業者は、免許を受けた後において、免許に係るカジノ施設の工事が完成したときは、その施設及び使用しようとするカジノ関連機器等について、カジノ管理委員会の検査を申請する必要があります。
カジノ事業者は、カジノ事業の免許に係るカジノ施設について、この検査に合格した後でなければ、その営業を開始することはできません。カジノ施設供用事業についても同様です。
また、カジノ事業者は、カジノ施設の営業を開始したときは、遅滞なく、その旨をカジノ管理委員会に届け出るものとされています。
まとめ
カジノに関しては、新しいレジャーとして期待する声や、財政面の改善に資する事業として期待する声が寄せられる一方で、治安の悪化や青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすリスクを懸念して反発する意見も根強く、これら双方の意見を制度に反映したことがこの制度を複雑なものにしています。
また、カジノという従来の日本には存在しなかった制度であるため、国や自治体もまずはハードルを上げて、試行錯誤を繰り返しながら制度の舵取りを行っていくものと予測します。
いずれにせよ法制化された以上、制度は動き始めています。行政書士として、一国民として、制度が適切に運用され、日本全体の利益につながるよう見守るように心がけたいと思います。
弊所は従前よりレジャー系やアミューズメント系の許認可に関する手続きのサポートを十八番にしています。カジノ関連事業のサポートと手続きに関するご相談はどうぞお気軽にご用命代ください。