企業主導型保育事業導入ガイド│企業型保育所の運営と制度の利用について
現代が少子化の時代であることはもはや国民の誰もが知るところだと思います。少子化は日本経済の根幹を揺るがす危機的状況である一方で、需要に対して政策が追いつていないという現実があります。
保育施設についても例外ではなく、共働き世帯の増加や保育士の不足といった様々な要因が重なり合って、需要が供給を大きく超えるいわゆる「待機児童」問題がいまだ解消されず、政策的課題としてたびたびクローズアップされています。
これを受け、内閣府では企業が従業員の働き方に応じた柔軟な保育サービスを提供するために設置する保育施設や、地域の企業が共同で設置して利用する保育施設に対し、施設の運営費について助成を行う企業主導型保育事業を推進しています。
他方、この制度は歴史が浅く、そもそも制度自体の認知が低いことや、相談しようにも専門家が極めて少ないことが導入を躊躇させる要因となっています。
そこで本稿では、これから企業主導型保育事業の導入を検討する事業者の皆さまに向けて、企業主導型保育事業のサポートを専門に手掛ける行政書士の監修のもと、制度の概要及び運営の流れについて詳しく解説していきたいと思います。
目 次
企業主導型保育事業
企業主導型保育事業は、平成28年度に内閣府が開始した企業向けの助成制度です。企業が従業員の働き方に応じた柔軟な保育サービスを提供するために設置する保育施設や、地域の企業が共同で設置して利用する保育施設に対し、施設の運営費について助成が行われます。
企業内において設置する保育所をそのまま「企業内保育所(園)」や「企業型保育所(園)」と呼びますが、企業主導型保育事業を導入する企業型保育所(園)は、制度上は児童福祉法上の認可を受ける必要のない認可外保育施設の一形態として位置づけられています。
企業内保育所(園)は以下のような形態で設置することが想定されており、企業主導型保育事業では、これらを設置する一般事業者であって、後述する基準をすべて満たすものについて助成が実施されます。
設置形態 | 設置者 | 利用者(従業員枠) | 利用者(地域枠) |
---|---|---|---|
単独設置・単独利用 | A社 | A社の従業員 | 任意で全定員の50%以内 |
単独設置・共同利用 | A社(A社がB社と利用契約を締結) | A社・B社の従業員 | 任意で全定員の50%以内 |
共同設置・共同利用 | A社・B社の共同設置 | A社・B社の従業員 | 任意で全定員の50%以内 |
保育事業者設置型 | 保育事業者C社(C社がA社、B社と利用契約を締結) | A社・B社の従業員 | 任意で全定員の50%以内 |
- 複数の企業の従業員が施設を利用する際には、利用する全ての企業が共同利用するための契約を締結すること(共同利用)
- 契約企業は、子ども・子育て拠出金を負担している一般事業主(厚生年金の適用事業所等)であること
- 利用する企業の利用定員数及び費用負担を明確にすること(利用契約の形式は不問)
- 従業員枠・地域枠ともに、保護者のいずれもが就労要件等を満たすこと
保育の対象となる子どもの年齢については特に制限がなく、各企業によってそれぞれ設定することができます。また、企業が自ら運営する場合と保育事業者に運営を委託する場合がありますが、一般事業者から受託した保育事業者または保育事業者設置型の設置者は、事業の適正管理の観点から自ら保育を実施する必要があるため、再委託をすることは認められていません。
地域枠(従業員以外の子どもを利用する定員)については、以下のような条件付きで、全定員の50%を超えて受け入れることを認める弾力措置が講じられています。
- 年度中における従業員枠の空き定員を活用した一時的なものであること
- 年度末(3月)までの利用契約とすること
- 運営費月次報告の基本分在籍児童報告の「従業員枠、地域枠の別」欄に「地域枠(弾力措置)」と入力(プルダウン)して報告するとともに、「保育所入所保留通知書」の写しを毎月添付資料としてアップロードすること
なお、認可保育園のひとつとして位置づけられている地域型保育事業の事業所内保育事業所とは異なる制度である点については注意が必要になります。
企業主導型保育事業導入のメリット
企業主導型保育事業では、企業が保育施設を設置することにより、企業にとっては次のようなメリットが考えられます。
女性活躍の推進
女性をはじめとする従業員が、結婚、妊娠、出産、子育てというライフステージにかかわらず働き続けやすくなります。
優秀な人事採用・確保
従業員のワークライフバランスに真摯に取り組む姿勢から、企業の魅力が向上することで、優秀な人材の採用・確保にとっても、非常に有効です。
地域貢献
地域の子どもを受け入れれば、待機児童の解消に資するという大きな地域貢献になります。
企業イメージの向上
子育てに優しい企業であるとの企業イメージの向上にもつながります。
助成を受けるための基準
企業主導型保育事業では、従業員等の子どもを預かる保育施設として、保育の質を担保するため、保育施設の設置及び運営に関する基準を設けています。この基準を満たすことにより、認可外保育施設ではありながら保育施設の運営費について、認可施設と同程度の助成を受けることができます。
職員配置基準
職員数 | 保育従事者の数は0歳児3人につき1人、1・2歳児6人につき1人、3歳児20人につき1人、4・5歳児30人につき1人とし、その合計数に1人を加えた数以上とすること |
職員の資格 | 職員の半数以上は保育士とし、保育士以外の職員は地方自治体や児童育成協会が行う子育て支援員研修を修了すること(保育士の割合が増えるごと(50%、75%、100%)に補助単価が増える仕組み) |
設備等の基準
設備基準については、認可保育所である事業所内保育事業と同様の基準(以下)を満たすことが原則とされていますが、特別な事情により、これが難しい場合には、事業所内保育事業の基準を標準として特例によることができることとされています。
また、認可外保育施設としての規制対象となるほか、厚生労働省が定めている「認可外保育施設指導監督基準(PDF)」(給食に関する事項、健康管理・安全確保に関する事項等)を遵守する必要があります。
定員 | 0歳児と1歳児 | 2歳児以上 | その他の設備 |
---|---|---|---|
子どもの定員人数20名以上 | 1人あたり1.65㎡の乳児室、1人あたり3.3㎡のほふく室、医務室 | 1人あたり1.98㎡の保育室(又は遊戯室)、1人あたり3.3㎡の屋外遊技場 | 調理室、便所(幼児用便座) |
子どもの定員人数19名以下 | 乳児室、ほふく室ともに1人あたり3.3㎡ | 1人あたり1.98㎡の保育室(又は遊戯室)、1人あたり3.3㎡の屋外遊技場 | 調理室、便所(幼児用便座) |
保育の実施及び子どもの安全
保育所保育指針(PDF)を踏まえ、保育を実施するとともに、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン(PDF)」に基づいた適切な対応を行う必要があります。
また、万が一の事故に備えて賠償責任保険と傷害損害保険(独立行政法人日本スポーツ振興センターが行っている災害共済給付制度又はこれと同等以上の給付水準の(無過失)傷害保険等)に加入し、実際に事故にが発生した場合には、「特定教育・保育施設等における事故の報告等について」に基づき、都道府県及び児童育成協会に対して報告を行う必要があります。
助成金について
認可保育所とは異なり委託費が補助金として交付されることはありませんが、申請することにより運営費について認可保育施設と同水準の助成を受けることができます。
運営費
運営費とは運営に必要な経費に対する助成金です。地域区分、定員区分、年齢区分、開所時間区分、保育士比率区分の5つの区分における基準額を基礎として助成額を算出します。また、運営の実態に応じて以下のような加算が実施されます。
延長保育加算 | 11時間(13時間)の開所時間の前後の時間において、さらに30分以上の延長保育を実施した場合に加算(実施時間に応ずる) |
夜間保育加算 | 夜間の保育ニーズが日中の保育ニーズよりも高く、大半の児童が、午後10時までの開所時間まで利用している保育施設であって、仮眠のための設備及びその他夜間保育に必要な設備、備品を備えている場合に加算 |
非正規労働者受入推進加算 | 非正規労働者の子供を優先的に入所させるための定員を別に設けて周知している保育施設について、当該非正規労働者の定員枠が空いている月を対象として補てん的に加算 |
病児保育加算 | 病気にかかっている乳児、幼児又は児童に対し保育を行った場合等に加算 |
預かりサービス加算 | 乳児又は幼児に対し一時的に預かり保育を行った場合に加算 |
賃借料加算 | 企業主導型保育事業に関わる建物が賃貸物件であり、賃貸料が発生している場合に受給できる助成金 |
保育補助者雇上強化加算 | 保育士の業務負担を軽減し、保育士の離職防止を図り、保育人材の確保を行うために子育て支援員研修等の必要な研修を修了した者又は受講予定者を別に配置した場合に加算 |
防犯・安全対策強化加算 | 事故防止や事故後の検証及び防犯対策の強化のため、ビデオカメラやベビーセンサーの設置等を行う場合に加算 |
連携推進加算 | 企業間のマッチングや地域枠の募集等の事務手続き等を行うために、必要となる職員配置数に加え、別途職員を配置した場合に加算 |
処遇改善加算(Ⅰ・Ⅱ) | 保育の提供に携わる人材の確保及び資質の向上を図り、質の高い保育を安定的に供給するために、職員の賃金改善やキャリアアップへの取り組みを行った場合に加算 |
運営支援システム導入費加算 | 業務のICTシステムを導入する際に費用を加算 |
整備費について
かつては保育園の工事費用(経費)に対する助成として整備費が交付されていましたが、新たに企業型保育所を募集しないという国の方針転換から、現時点(令和5年4月)において整備費の交付は凍結されています。
今後は新たに保育事業に参入する道のりとして、既存の保育園の事業譲渡が増加するものと予測します。こちらについてもどうぞお気軽にご相談ください。
企業主導型保育事業運営サポート
企業主導型保育事業については知見を有する専門家が極めて少なく、気軽に相談することも難しいのが現状ですが、弊所では企業主導型保育事業の監査員として年間全国100カ所以上の保育園を監査していた専門家と提携して、監査の際のフォローを含む企業主導型保育事業の運営サポートを承っております。
また、許認可申請を幅広く手掛けることから他事業に関する知見も深く、各種補助金の交付請求についても実績を有するものと自負します。企業主導型保育事業の運営又は監査対応についてお困りの際は、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。